ヤンデレ彼女とツンデレ彼氏

香珠樹

Case1 下校

「美羽、部活行こ!」


 美羽と同じクラスで同じ女子テニス部の女子生徒が、元気よく美羽に声をかける。


「うん、わかった!」


 美羽はそう返すと同時に、自らの彼氏を探す。

 すると、教室のドアの辺りに既にカバンを肩に担いでいる男子生徒―――浅田克也という名の、美羽の彼氏を発見した。


「あっ、克也君! 私部活だから待ってて!」


 これだけだと、この二人はさぞかし仲のいいカップルにしか思えないだろう。


 だが、現実は全くもってそうではない。


「いや、待つの面倒くさいから先帰る」


 ツン、とすました顔でそう言い切った克也は、足を止めずにドアの外に出ていった。


 美羽が大きな声で声をかけたせいもあり、二人にはクラス中の視線が集まっている。

 そのため、克也が美羽の誘いを簡単に断ったことでクラス内に沈黙が訪れた。


「え……克也君……? なんで……?」


 美羽は顔を絶望に染まらせ嘆くが、ふと我に帰り教室を勢いよく飛び出す。

 飛び出した勢いを緩めず、克也まで突っ込んでいくように走る。


「克也君っ! なんで? なんで? どうして私と帰ってくれないの? 私、何かいけなかった? ねぇ克也君? どうして?」

「理由なら言ったろ。時間勿体無いって」

「なんで……」


 そして克也は足をほとんど止める事なく帰っていった。

 後から美羽のことを追ってきた伊織が、「大丈夫?」と声をかける。


「なんで……なんで……なんで……なんで、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!」


 狂ったように「なんで」と言い続ける美羽のことを、女子生徒がそっと抱きしめて落ち着かせる。


「流石に、あれは無いよね……最低だと思う」


 女子生徒が励ましのの言葉を美羽にかける、が。


「克也君のことを悪く言わないでっ!」


 美羽にキレられた。

 あまりのキレようと、なんで自分がキレられたのか理解不能だということが合わさり、その女子生徒は混乱する。


 伊織は美羽がこんな状態になっていることが完全に克也のせいだと思っていたために、自分はどうしたらいいのかわからなくなり、


「とりあえず部活行こ」


 とだけ言って、美羽を立ち上がらせて更衣室まで連れていった。




 その日の帰り道。

 美羽は相変わらず落ち込んだままで、部活中もずっと心は別の場所にあった。


(なんで? 私、克也君に嫌われるようなことした?)


 何度考えたかわからないことを考え続けながら、ひたすらに歩く。


 ふとそこで、一つの結論にたどり着いた。


(もしかして……浮気?)


 その可能性を考えた瞬間、美羽の中にドス黒い感情が芽生え始めた。


 自分だけを愛してほしい。

 他の女子なんて見ないで、私だけを見てほしい。


(……そうだ! 監禁すればいいのか!)


 克也のことを監禁すれば、自動的に自分しか見てくれなくなる。

 そうすれば、浮気なんて心配しなくていいのだ。


 名案を思い付いた美羽は、先程までより少しばかり軽い足取りで、家に向かった。


 十分ほどすれば、家に着いた。


 とりあえず自分の部屋に行き、適当なノートに監禁する方法をメモしよう。


「ただいま!」


 勢いよくドアを開ければ、美羽の鼻に食欲をそそるいい匂いがした。


 美羽の好物、肉じゃがの匂いだ。


 余計にテンションが上がり始めた美羽は、自分の部屋に行くよりも先に台所に向かった。


「今日肉じゃがな、の……?」


 そこには、自分の母親と、エプロンを着た克也が。


「……克也君……? なんでここに……?」


 すると克也はいつものツンとした表情を赤らめ、照れたように口を開いた。


「その……あれだ。美羽が部活頑張ってるっぽいし、お疲れ様、みたいな? ……言っただろ、時間が勿体無いって。美羽が帰ってくるのと同時に料理作り終えるのに、時間無いとダメ……」


 最後まで聴き終わる前に、美羽の足は前へと動き始めていた。


「克也君っ!」


 ふらふらと火の中に飛んでいく虫のような足取りで克也の元までたどり着いた美羽は、思いっきり克也のことを抱きしめた。


「ちょっ、痛い、力強すぎ……って、どさくさに紛れてキスしようとすんな! ちょ、マジ、親の前だし! み……」


 克也はなす術もなく、美羽のキスをその唇で受けた。






☆あとがき

気分で書き始めました。

今作は書きたいと思った時に書くので、完全に不定期更新になります。

面白いと思った方は、是非星やコメントをよろしくお願いします。


※諸事情により少し改稿しました。

具体的には、坂藤伊織→女子生徒に変更です。

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