第20話 部長戦④

「部長たるもの!部員の気持ちは常に理解し、揺さぶるべし!!部員の心を動かせない部長など課長ではない!!!」


「そりゃ部長ですからね。課長ではないですよ」


「これがいかに出来るかを最後に競ってもらう!そのゲームがこれだ!」

 マキ先輩がフリップを表にする。


『愛してるよゲーム』


 筆記体のようなオシャレなフォントで書かれた文字に眉を寄せる。

「そんなにゲームが好きなんですか?」

「違う!「愛してるよ」のゲームだ!」


『腕相撲』『クイズ』ときて『愛してるよゲーム』か……。マキ先輩はこのフリップを作ってる時に違和感を覚えなかったのだろうか。


「こ、これはいったいどのようなゲームなのでしょうか?」

 メアリの質問にマキ先輩は「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりの表情をする。

そりゃ聞くよ。


「『愛してるよゲーム』とは1対1でお互いに「愛してるよ」と言って照れた方が負けのシンプルなゲームだ!」

「なんですかそのアホみたいなゲーム」


 そういうのは合コンでするものだろ。


「こんなの簡単ですよー。ミノリ先輩なんて私に言われたらイチコロなんですからー」

「それはどうかな!?」

「なんでマキ先輩が答えるんですか」


 まぁ、ムギに負けることは無いだろうが。


「このゲームは1対1でやるため腕相撲同様三つ巴でやってもらう。対戦する順番はこんな感じだ」

 マキ先輩はそう言ってフリップをめくる。


『1回戦 ムギ VS ミノリ

 2回戦 メアリVSムギ

 3回戦 メアリVSミノリ』


 優勝がかかった俺とメアリの対決は最後か。


「最初はわたくしとムギさんですわね」

「悪いけどメアリ先輩が相手でも容赦しないからね」


 なんでこいつムギは毎回余裕そうなんだ。お前はどう頑張っても1位にはなれないんだぞ。


「制限時間は5分だ。それまでにどちらも照れなかったら引き分けだ。それではいこうか」


 マキ先輩は時計を見ながらちょうど秒針が一周したところで「はじめ!」と言い放った。


 ムギとメアリが向かい合う。


 ムギが半歩前に出てジッと目を合わせる。

「メアリ先輩、愛してます……」

 案外こういうのは真顔で言われると照れくさくなってしまうものだ。見ているこっちもなんとなく恥ずかしい。


 それに対してメアリは……動じてない。さすがだ。


「ムギさん、わたくしも……」


 ムギの耳元に顔をそっと寄せる。


「愛してるよ」


 わ、わぁぁお、普段お嬢様言葉のメアリが「愛してるよ」だとぉ!?


「ひ、ひゃあぁ、ギャップ萌ぇ……」

 ムギも思わず顔を赤らめてその場にへたり込んでしまう。


「ふむ、早くも勝負ありだな。勝者!メアリくん!」

「やりましたわ」

「くぅぅ、負けました……」


 ムギは悔しそうに下唇を噛む。

 あれはさすがに強すぎたな。相手が俺でも照れていただろう。


「ミノリ先輩には絶対負けませんから!」

「ふっ、寝言は寝て言うんだな」

「寝てないから寝言じゃないです」

「だから寝言みたいなことを起きてる時に言うなってことだよ」

「いや、起きてるなら寝言じゃないですよね」

「うおお、めんどくせぇな!」


 俺とムギが睨み合いながら向かい合う。


「それじゃー2回戦始めるぞー。よーい始め!」


 マキ先輩の開始の合図と共にムギがグイっと体ごと近づいてくる。


「ミノリ先輩……愛してます」


 お互いの顔が30センチほどの近さで言われるとさすがにむず痒い。だめだ、耐えろ、耐えるんだ。

 俺は舌を少しだけ噛むことにより真顔をキープした。


「ふむ、一筋縄ではいかないようですね」


 ムギが手応えを感じれず下がろうとする。しかし、すかさず俺は腕を掴んでこちら側へと寄せる。


「愛してるよ」


「……ッ!」


 ムギは突然のことに驚き目を丸くする。


「おお……間髪入れずに攻撃したか。しかもボディタッチまで入れるとは……」

「さすがミノリさん。只者ではございませんわね」

「しかしどうだ?彼女もまだギリギリ耐えているようだが?」

「ふふふ、まだ心は折れていないようですね」


 マキ先輩たちの言う通り、ムギは驚きこそしたが照れてはいない。すぐに俺から距離を置いて、自分の腕をつねることでなんとか耐えていた。


「中々……やりますね……」

「ふっ、そちらもな」


 ムギは一度深呼吸をして気持ちを整える。俺も次の攻撃に備えて自分の頬を叩く。


「次の一撃で決めます!」

「かかってこい」


 ムギらもう一度こちらに向かってくる。なんだ、さっきと同じか。それなら耐えられる。


「ミノリ先輩……」


 いや、違う。先程よりもさらに近い……!?

 ムギは俺の胸元辺りに顔をうずめる。なんだ?言わないのか?


「あ、あれはまさか……!?」

「あの構え……きっとそうです!あれをなさる気なのですね!」

 マキ先輩たちが驚愕している。

 何をそんなに驚いているんだ。今さらムギに密着された所で照れる俺ではない。


「ミノリ先輩……」


 ムギの声につられて視線を戻す。


「……っ!?」


 そこには俺の胸元から『上目遣い』でこちらに甘えた表情を向けてくるムギの姿があった。


「愛してます、センパイ」


 いつもと同じ声なのに何故か3割増くらい可愛く聞こえてしまう。


「それは……お前……強いって」


 これにはさすがに耐えきれず、俺は顔を手で隠してしまう。


「き、決まったー!!必殺『上目遣い』!やはり強かったー!」

「小柄なムギさんだからこそ出来る高等テクニックですね。恐れ入りました」


 外野から拍手が起こる。やけに解説がうまかったなこの2人。


「俺の負けだ。流石だな」

「えへへ、ミノリ先輩も悪くなかったですよ」


 俺とムギはギュッと握手をしてその場を離れた。


「これでメアリくんとムギくんが一勝ずつだな。ミノリくんが次で勝てなければメアリくんの優勝になるぞ」


 マキ先輩の言う通り、なんとか次の勝負で勝って、引き分けにもちこまなくては……。


「さぁ、はじめましょう。ミノリさん」

 メアリが目を細めて余裕そうな表情をみせる。


「かかってこい!メアリ!」

 へっ、その表情がいつまでもつか見ものだぜ。



 両者、向き合うと同時にマキ先輩が手を上げる。


「3回戦!よーい始め!!」


 勢いよく手を振り下ろし部長をかけた運命の試合が始まったのだった……

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