第19話 部長戦③

「部長たるもの知力は必要不可欠!賢さで他の者を導ける奴こそ新のリーダーである!」

「それでクイズですか」

「うむ、そういうことだ」


 まぁ確かに腕相撲よりかはマシかもしれないな。頭のいい人が部長になることに納得出来る。


「ふふふ、わたくし頭を使うことは得意ですのよ」

 メアリは1ゲーム目と違って余裕の表情だ。


「メアリくんもミノリ君も頭がいいからな、良い戦いが見れそうだな」

 マキ先輩の言う通り、俺とメアリの頭の良さはほぼ同じだろう。勉強を教え合えるくらいだし。


 マキ先輩は百均に売っている赤い丸の描かれた解答ボタンを鞄から2つ取り出し、机に並べて置く。わざわざこのために買ってきたのか……。


「ルールを説明するぞ。私が問題文を読むから答えがわかったらボタンを押してくれ。早押しだが、解答権は1問につき1回だけだ。正解したら点数が入る。最終的に点数の多い人の勝利になるが、問題の難易度によって入る点数が違うから逆転もしやすいぞ」


「へぇ、クイズ番組みたいで面白いですね」

「そうだろう?この前テレビでやってたんだ」

 なるほど、パクリなんですね。


 俺とメアリは各々ボタンの前に立つ。反対側ではマキ先輩がA4の紙をペラペラとめくり問題を選んでいる。

 そういえば問題はマキ先輩が作ったのだろうか、だとしたら不安しかないのだが……。


「よし、それじゃーだすぞ!これは10点だな」


 10点は低くそうだが負けるわけにはいかない、1問1問を大切にしよう。

 俺とメアリはボタンに手を乗せる。不思議な緊張感が辺りに漂う。


 マキ先輩がゆっくりと問題文を読み上げる。


『今、何問目?』


「……え?」


 ピンポーン

「え?」

「はいメアリくん!」

「1問目ですわ!」


「残念!」

「「え!?」」


「さぁミノリ君!答えれるかい?」

「え、えー」


 ピンポーン

「0問目?」

「残念!正解は7問目でした!」


「それは7問目にやる問題!!なんでそれを答えをそのままにして1問目に持ってくるんですか!」

「司会者への抗議は受け付けておりません」

 ひでぇ!


「これはかなり難問でしたね……」

 メアリは悔しそうに眉を寄せる。

 今のは難問のレベルを越えてるぞ。なんで真剣な表情になれるんだよ。


「まさか10点の問題を答えられないとは後が不安だが……次の問題にいこう!2問目は30点だ!」

 俺も残りの問題が不安なんですけど。


『本能寺の変が起こったのは大体何年?』


 そんなの1582年に決まって……ん?大体……?大体って言ったかこの人?大体ってなんだ?


 ピンポーン

「はいメアリくん!」

「1582年ですわ」

「残念!」

 可哀想すぎる……


「さぁ!ミノリ君どうかな?」

 1582年の大体だろ……。

 ピンポーン

「だ、大体1500年?」


「残念!正解は大体1000年から2000年の間でした!」

 もう帰っていいかな?


「続いては50点の問題!『パンはパンでも食べられないパンはなんだ!』」


 ピンポーン

「はいミノリ君!」

「マキ先輩の触ったパンです」

「うむ!マイナス50点だ!」

 マイナスとかあるのか……俺の中では正解なのに。


 ピンポーン

「はいメアリくん!」

「硬いフランスパンでどうでしょうか?」

 お、少し捻ったか。


「残念!正解はフライパンだ!」

 この問題は普通の答えなのかよ。てか、メアリが「なるほど!」って顔してるけど。この問題知らなかったのか?


「さぁ、現在0点対-50点でメアリくんが50点差をつけて1歩リードだ!」

「俺が1歩下げられてるんですよ。誰も進んでないです」

「そんなミノリ君に逆転チャンス!次の問題は超難問だが1万点だ!」

「どうせ当たらないからって点数適当にしてません?」

「い、1万点ですって……!?」

 メアリはメアリで素直なリアクションをとるんじゃない。


「問題!徒競走で3位の人を抜かしたカズオさんは今何位?」


 ピンポーンピンポーン

「「3位」ですわ」

 俺とメアリが同時に答える。


「な、なに……正解だと!?」

 マキ先輩は余程この問題に自信があったのか目を丸くして驚愕している。


「私が三日三晩考えても解答に納得いかなかった問題を解いてしまうとはな」

「そんなに考える問題でもないですけどね」

 わりとよくある引っ掛けだし。


「これで点数は1万点対9950点になったわけだな。ミノリ君はメアリくんに50点差まで追いついたぞ!」

「点差は何一つ変わってないですよ。というか1万点のせいで点数がややこしくなってるじゃないですか」


「まぁまぁ気にするな。あ、次の問題は10万点だからな?」

「点数のインフレやめません?」


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 20分後


 ガチャ


「はぁ、やっと終わりました。全く……保健室の先生が生徒を疲れさせるなんて前代未聞ですよ」

 ムギが額の汗を拭いながら部室に帰ってきた。……が、そんなことに構っている暇はない。


『私の心の広さは何が何個分?』


 ピンポーン

「地球2個分ですわ!」

「残念!でも、ありがとう!」


 ピンポーン

「苺の種3個分ですね」

「んー失礼!正解はグジヤマナ4個分だ!」

「グジヤマナ?グジヤマナってなんですか?」

「グジヤマナはグジヤマナに決まってるだろう。ほら、あの、地球より大きいアレだ!」

 さてはこの人適当に言ったな。


「あのー……私、途中参加出来ますかね?」

 ムギが小さく手を挙げながらマキ先輩に駆け寄っていく。


「もちろん可能だぞ!ちょっと待ってくれ、ボタンもしっかりあるからな」

 マキ先輩は鞄から俺達と同じ解答ボタンを出し、ムギの目の前に置いた。


 それから簡単にルール説明をする。


「なるほど逆転もできるんですね……それで2人は今何点なんですか?」

「えー、今はメアリくんが5451万点でミノリ君が5450万9950点だ。50点差だな」

「ご、ごせんまん!?1体何問やったんですか?」

「先程の問題でちょうど10問目ですわね」

「10問って……点数だけ小学生が考えたんですか? というか先輩達もおかしいと思わないんですか?」

「ムギ、思わないわけないだろ。高得点の問題を解いた後の問題が数倍の点数なんだからな」

「なんですかその死ぬ程つまらない逆転システムは」

 それを面白いと思っている3年の先輩がいるから困ってるんだよ。


「さて、ムギくんも揃って次の問題にいきたい……が。ここで残念なお知らせだ」

「どうしました?転校するんですか?」

「そんな衝撃的な内容をこのタイミングで言うわけがないだろう」

 違うのか……たしかに残念なお知らせではないもんな。


「実は次が最後の問題なんだ」

「え!私の1問目がラストなんですか!?」

「そうなるな。だが安心してくれ、もちろん逆転できるぞ!」

 じゃあ今までの問題はなんの意味があったんですかね……?


「本当ですか!いったい何点なんですか!?」

「1億だ!」

 桃○郎電鉄かな?


「い、1億って……メアリ先輩の月のお小遣いくらいですか?」

「ふふふ、いくら私でもその三分の一程しか貰ってませんわ」

「あー、そんなもんなんですね」

 へぇ、三分の一か……ん?三分の一?この人、三分の一って言った?1億の?

 ムギは計算が出来ないからメアリの衝撃発言に気づいていないようだが……。


「それじゃー問題出すぞー」

 危ない危ない。メアリの現実離れした話に意識を持っていかれていた。とにかく今はこの最後の問題を解いて部長に近づかなくては……。


『今、何問目?』


 ピンポーン


 手を目にも止まらぬ速さでスイングさせたムギの札が上がる。


「私、早押しには自信があるんです!答えは11問目です!」


「残念!」


「え!?なんで!?」


 ピンポーン ピンポーン

 俺とメアリがまたもやほぼ同時にボタンを押す。


 マキ先輩が目を細めて顎に手を置く。

「んー今回はミノリ君が早かったかな」


「7問目です」


「正解!!ミノリ君1億点ゲット!」

 よし。勝った。


「ちょっ、ちょっと待ってください!さっき10問目までやったって言ってたじゃないですか!嘘ついたんですか!?」

「いや、嘘はついてない」

「ということは今の問題は11問目ですよね!」

「あぁ、そうだな」

「じゃあ……」

「それでも今の答えは『7問目』だ」

 俺がそう言うとマキ先輩とメアリが頷く。


「……???」

 ムギは納得いかない表情のまま首を傾げる。うん、ムギの気持ち分かるぞ。こんなの納得いくやつがおかしいんだからな。


「よし、それでは結果発表だ。メアリくんが5451万点、ミノリ君が1億5450万9950点、ムギくんが0点だ」


「3位……何一つ納得いかないですね」

「私が2位ということは……次のゲームまで決着は分かりませんわね」

 メアリの言う通り、俺とメアリはともに5ポイント。3ゲーム目で順位の上だった方が勝ちになる。これはよりいっそう身を引き締めていかなくては……。





 あと、ムギの1位は実質不可能になった。













 ~リザルト~


 メアリ 5pt

 ミノリ 5pt

 ムギ 2pt

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