第18話 部長戦② 休戦

「2人ともアイスはいるかい?」


お手洗いに行ったマキ先輩が箱に入った棒アイスを手に部室に戻ってきた。


「何処から持ってきたんですか?それ」

購買には売ってないし、ましてや買いに行く時間もなかったはずだ。


「保健室の冷蔵庫から持ってきたんだ」

「置いといたんですか?」

「いや、置いてあった」

ということはモトオリが置いておいたやつだな。


「その言い方だと許可は取ってないっぽいですね」

「安心しろ、バレてはない」

「何を安心すればいいんですか」

まぁ、貰うけど。


「2人とも何味がいい?バニラか?」

マキ先輩は箱の中を除きながら俺らに聞いてくる。


「チョコあります?」

「あー、いや、チョコはないな。バニラならあるぞ?」


「じゃーソーダあります?」

「んー、ソーダもないな。バニラならあるんだけどな」


「バニラ推しが凄いですね……」

「バニラ以外残ってないからな」

「なんで聞いたんですか!?」


俺はそんな面倒くさいマキ先輩から個包装された棒アイスを受け取る。お、これ結構高いやつじゃん。ラッキー。


「メアリくんもバニラでいいかい?」

「はい、恐れ入ります」


メアリはマキ先輩から棒アイスを受け取るとジーッと眺めていた。


「どうした?食べないのか?」

「あ、いえ……わたくしこういった物を初めていただくので作法が……」

「作法……食べ方ってこと?」

メアリはこくりと頷く。棒アイスの食べ方が分からないとは、流石お嬢様だ。


「えーっと、まず袋を開く。開けるのは木の棒の方ね」

俺は袋を開けながら伝える。


「はい」


「そして、木の棒を持って袋から取り出す」


「……はい」

メアリは袋に引っかかりながらも何とかアイスを取り出す。


「あとはこのアイスの部分を舐めたり、かじったりして食べる」

「なるほど……木の棒もいただけるのでしょうか?」

「それは食べれない。アイスの中に刺さってるから注意して食べて」

「了解致しました。ご丁寧に恐れ入ります」

「いえいえ」


それからメアリは棒アイスを上品に舐めては、美味しいのかトロンとした目をして嬉しそうにしていた。ふむ、どことなくエロい。


「なぁミノリ君、私にも食べ方を教えてくれないかい?」

「分かりました。まず袋を食べます」

「おっと既に予習と違うぞ?」

なんだ食べてくれないのか。


それから俺がアイスを食べ終え、袋を捨てようと棒アイスの入っていた箱を手に取る。


「あれ、まだ1本残ってたんですね」

「それはムギくんの分だな。戻ってきたら渡そうと思ってる」

「じゃあ食べていいですね」

「どういう解釈をしたらそうなるんだ?」

違うのか……。俺は渋々箱にアイスを戻す。


「あっ!」

唐突な大声に俺とマキ先輩は同時にメアリの方をむく。


そこには制服の胸元にアイスを零したメアリの姿があった。アイスが溶けて棒から離れたのだろう。初心者あるあるだな。


「あー、やっちゃったな」

「私としたことが……油断しておりましたわ」

メアリは胸元を見ながら悔しそうにしている。安心しろ、油断せずに棒アイス食うやつなんかいないぞ。


「はいこれ、早く拭かないと染みになるぞ」

俺はメアリにハンカチを渡す。


「お気持ちは嬉しいですが、それだとミノリさんのハンカチが汚れてしまいますわ。私も持っていますのでお気になさらず」

と言いながら、見たことないような高級そうなハンカチをポケットから出すので無理やり俺のを使わせた。切り絵みたいな柄の入ったシルクなんて初めて見たぞ。


メアリは染みが広がらないように丁寧に胸元を拭いていく。ふむ、アイスの零し方も拭き方もエロいな。


「……なぁ、ミノリ君。私もアイスを零してしまったのだが」

そう言って肩をツンツンしてくるマキ先輩の方を見ると、メアリよりも広範囲にアイスを付けていた。なんで?


「自分だと拭きづらいからな、ミノリ君がやってくれないか?」

そう言ってマキ先輩は自分のハンカチを俺に渡してくる。


「ほらメアリ。そっち汚れただろ?こっちで拭け」

「み、ミノリ君!?早く拭かないと私の制服に染みができてしまうぞ!?」

「舐めれば落ちるんじゃないですか?」

「扱いの差が酷すぎるぞ!」


結局メアリがマキ先輩の制服を拭いてあげたおかげで、2人とも目立たない程度までは汚れが落ちたのだった。


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「ふむ、そろそろ2ゲーム目に入りたいのだがムギくんは戻ってこないな」

新しいフリップで顔を扇ぎながらマキ先輩が口を開く。


「やはり呼びに行った方がよろしいのかもしれませんね」

「ふむ……そうだな。ミノリ君、ムギくんを……」

「外に出たくないんで嫌です」

「まだ話してる途中だぞ」


マキ先輩は俺からメアリに顔を向ける。


「それじゃあ……」

「申し訳ございません、私にはムギさんの行動が分かりませんので協力出来ませんわ」

「まだ話してる途中だぞ?」


マキ先輩はため息をつきながら立ち上がる。


「仕方ない私が行くと……」


ガチャ!

「ミノリ先輩!見て見て!セミの抜け殻!!」


「まだ話してる途中だそ!?」

暑苦しい笑顔で抜け殻を手に持ったムギが帰ってきた。マキ先輩は何故か嬉しくなさそうだ。


「なんだもう戻ってきたのか」


俺の言葉にムギは頬をふくらませる。

「誰も探しに来てくれませんでしたからね!30分外を歩いてただけなのに15分も放置されてた気分ですよ!」

「体感が半分になってるってことは割と楽しんでたな?」

「た、楽しんでなんかいませんよ!とにかくこのセミの抜け殻を見てください!状態が完璧ですよ!」


顔の前に寄せてきた抜け殻を避けながらムギの頭を掴む。


「ほんとだ立派な抜け殻だな、とくに頭の中に何も入って無さそうだ」

「私は抜け殻じゃないですー!ちゃんと中身ありますー!」

ムギは頭を振って俺の手を振りほどく。

なんだ、こっちじゃないのか。


「そうだムギくん、アイスがあるんだが……」

「食べます!チョコですか!?」

「いや、チョコではない。ミノリ君渡してあげて」

マキ先輩に言われた通り、俺は箱からアイスを取り出しムギに渡す。


「なんだ、バニラですか……私、チョコアイス以外あんまり食べないんですよねー」

「嫌いなら食べない方がいいぞ。俺が食べてやる」

「いえ、食べますよ?食べますけどぉー私はチョコ派なんですよねー」

アイスを(無断で)貰っといてその態度とは腹の立つ奴だ。


「……というか、それチョコアイスだぞ?バニラ味のチョコアイス」


「……?」

俺の恐ろしい程適当な嘘にムギの動きが止まる。


「……でもこれ白色ですよね?」

「そういう色のチョコアイスだ」


「……???そうなんですかメアリ先輩?」

「ええ、そうですわよ」

メアリが当然のように頷く。メアリは意外とノリがいいらしい。


ムギは首を傾げながらアイスを食べる。

「……バニラの味がしますよ?」

「だからそういう味のチョコアイスなんだよ」

「へぇ……なるほど、今はそういうアイスもあるんですね。あ、確かに!ほのかにチョコの味がします!」

ムギは何故か納得してアイスを食べ続ける。こういう馬鹿って本当に実在するんだな。メアリは笑いを必死に堪えてるし。


「そ、そうだったのか!?てっきりバニラアイスだとばかり……」

ここにも存在したよ。この部屋のバカ密度高くない?


「それにしてもこのアイスは誰からの奢りなんですか?」

「あぁこれか?これはな……」


ガチャ!


「おいおいおい!冷凍庫に入れて置いたアイスがなくなってるんだが!?」

声を荒げながらモトオリが入ってきた。随分ご立腹なご様子。


「食べた奴はどいつ……お前か……」

モトオリはアイスを片手に固まった状態のムギに目を合わせる。


「いやいや違います!」

「違うも何も手にバニラアイスを持ってるだろ。」

「いえ、これはチョコアイスです!」


モトオリは眉間に皺を寄せる。

「……何言ってんだお前?」

「だ、だからこれはバニラ味のチョコアイスであって。バニラアイスではないんです!」


「……ほほぉ、人の物を取っておいて馬鹿にするのか。なるほどなるほど、そんなに仕事の手伝いがしたいんだな。よし来い」

「え、え?いや、そんなことは……あぁー」

モトオリはムギの腕を手に取り引っ張っていく。


「先生待ってください!」

俺はその光景に慌ててストップをかける。


「なんだミノリ?」

「せ、先輩……!」

ムギが希望の眼差しをこちらに向ける。



「俺はちゃんと『食べない方がいい』って言いました!」


「流石だミノリ!」

「先輩裏切りましたね!?」


だって手伝いとかしたくないし。ちゃんと『(嫌いなら)食べない方がいい(ぞ。俺が食べてやる)』とも言ったし。


そのままムギは俺を睨みつけながらモトオリに連れていかれてしまった。他2人は終始無言でそれを見守っていたが、部室に静けさが戻ると「コホン」とマキ先輩が咳払いをした。


「えーそれじゃあ、2ゲーム目を始めるとするか」


「そうですね」

「そうですわね」

俺らは何事も無かったかのように頷く。ムギはまたもや不戦敗だろう。


「2ゲーム目はこれだ!」


フリップのシールが素早く剥がされる。


『クイズ』


なるほど、どのみちムギに勝ち目はなかったようだ。

















~リザルト~


メアリ 3pt

ミノリ 2pt

ムギ 1pt

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