第17話 部長戦①


「今から君たちには3つのゲームでそれぞれ順位を決めてもらう!」


 フリップがめくられ、そこには『1位3ポイント、2位2ポイント、3位1ポイント』と書かれている。


「ゲームの順位でポイントが入る。3つのゲーム終了後にポイント数が最も高かった人が勝利となる!」


 マキ先輩の気合いの入った解説に俺達は完全に置いてかれている。


「……えーっとつまり勝ったら部長になれるってことですか?」

「そうだな」


「マキさんも参加されるのでしょうか?」

「いや、私はもう3年だからな。今回は審判をさせてもらう」


「もしかして部員じゃない私も入っていいんですか!?」

「もとからその予定だ。無論、ムギくんが勝利すれば部長権限で君が入部するのも自由だ」

「おー!頑張ります!」


 マキ先輩の言葉にムギは目を光らせる。

 部長権限か……


「それって俺が部長になったらムギの入部を拒否してもいいんですか?」

「うむ、それも可能だ」


 お、それならやる価値アリだな。

「分かりました。やりましょう」

「プッ、ミノリ先輩が私に勝てると思ってるんですか?」


 ムギがニヤニヤしながら分かりやすく煽ってくる。ゲームの内容も知らないのになんでマウントとれるんだよ。


「お前も無傷でここを出られると思うなよ?」

「……え、ちょっ、暴力は無しですよね?怖いんですけど!?」


 そして、俺とムギがゲーム参加を許諾したのを見て、メアリも頷く。

わたくしが部長を目指すメリットはありませんが……勝負事には全て勝たせていただきますわ!」


 そう言ってどこか楽しそうに両拳を握る。


「よし全員参加だな!それじゃあゲームの準備をするとしよう」


 マキ先輩は嬉しそうに新たなフリップを3枚ほど鞄から取り出した。何枚あるんですかそれ。


 かくして、スゴい部の『部長戦』が始まった。





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「1つ目のゲームはこれだ!」


 マキ先輩は意気揚々にテレビでよく見るフリップに貼られたシールを勢いおく剥がす。


『腕相撲』


「部長たるもの貧弱であってはならない!力ある者こそいつの時代もリーダーに相応しい!」

「脳筋だなぁ……」


 別に力はなくてもいいだろ。ここスゴい部運動部じゃないし。


「困りましたわね……私、力には自信がございませんの」

「フフン、これは私の圧勝ですね!ミノリ先輩なんて満塁ホームランでボコボコにしてやりますよ!」


 メアリは眉を寄せて不安そうに、ムギは鼻を高くして自信ありげといった雰囲気だ。というか野球しようとしてない?


「マキ先輩、バカムギはこう言ってますけど正直男の俺が有利すぎません?」


 この人が相手ならまだしも、あの2人に負ける未来が見えない。

 そう言うとマキ先輩は俺を下から上にかけて一見する。


「フッ……いや、失礼。……まぁミノリ君なら大丈夫だろう」

「それどういう意味ですか?あと今笑いましたよね?」

「ほら!はじめるぞー!」パンパン


 あ、誤魔化しやがった。


「対戦順はこんな感じだ」


 マキ先輩がそそくさとフリップをめくる。


『1回戦 ミノリ VS メアリ

 2回戦ミノリVSムギ

 3回戦メアリVSムギ』


 なるほど俺は連続で戦うのか。


 俺達は順番どうりにそれぞれのポジションにつく。


「ごめんなメアリ、勝たせてもらうぞ」

「ふふふ、お手柔らかにお願いしますね」


 机を挟んで向かい側のメアリが余裕のない表情で微笑む。

 よほど自信が無いんだな。これならムギまで体力を温存できそうだ。


「それじゃあ、お互い手を合わせてくれ」


 部長の合図で俺らは机に中腰で向かいながら右手を合わせる。


「まぁ、ミノリさんは手が大きいですわね」


 メアリは握った手の指で俺の右手を優しく撫でる。


「……俺のが大きいというよりメアリのが小さいんだよ」

「あー、そんなこと言って。ミノリ先輩顔赤くなってるじゃないですか!ちょっと撫でられたからって、チョロすぎじゃないですか!?」

「うるさい。ちょっと動揺しただけだ」

「へー、じゃあ私も撫でて動揺させてあげますよー」


 ムギがニヤニヤしながら俺の頭に手を伸ばす。


「だァァ!Don't touch me!」

「急な英語!?でも残念ですね!私英語分かりませんので!ほら、よしよーし」

「なっ!?お前そんなにバカだったのか……くそぉぉ!」


 こいつ次の試合で絶対倒してやる。


「まったく何をやっているんだ、早く始めるぞ」


 マキ先輩がムギの手を掴む。おぉ、ナイス……ってめっちゃ睨んでくるじゃん!?なんで!?怒るならムギの方だろ!


「……ほら、お互い力を抜いて」


 マキ先輩は俺らの手に自分の手を重ねる。その間メアリは深呼吸をしていた。


「いくぞー、よーいスタート!」


 マキ先輩の合図と同時にメアリの手に力が入る。


 うぉ!?こ、これは……思ってたより……よ、弱い!?


「ふっ……くっ……」


 メアリは歯を食いしばっているようだが、俺の腕は大した力も入れてないのに全く動いていない。俺も男の中では力が弱い方だが、それでもメアリの方が圧倒的だ。


「おー!お互い接戦ですね!」

「ふむ、なかなかいい試合だな」


 傍観者達はそう言っているけど、こちとら倒れてきたペットボトルを支えてるくらいの感覚ですよ?

 それから10秒ほど見守っていたが戦況がひっくり返ることもない。そろそろ終わるか。


「よっ」


 俺は右手に力を入れる。


 それと同時にメアリが「……痛っ……」と眉を寄せて声を漏らした。まずい、力入れすぎたか……?


「あ、ごめ……」


 ドンッ!


「……え?」


 俺が手を緩めた瞬間、メアリが逆に力を入れてきた。しかも今までよりも、ずっと強く。呆気にとられたまま手の甲を机に付けられる。


「勝者メアリ!」

「ふふふ、良い戦いでしたよミノリさん」


 メアリは右手を振りながらこちらに微笑む。


「うわっ……嵌められた……」


 恐らくメアリは元から腕相撲には自信があったのだろう。しかし、男である俺と対等に戦うのは不利すぎる。だからあえて弱気な発言や序盤で力を抜くことにより反撃はこないと油断させ、俺が緩めた瞬間に攻める作戦だったんだな。不安そうな表情も全部演技だったわけか……まんまと引っかかってしまった。


「すみません、こうでもしないと勝てませんので……」

「いや、これは嵌められた俺が悪い」

「そうですよ!メアリ先輩は勝ったんですからもっと誇っていいんですよ!まぁ、こんなクソ雑魚ミノリ先輩に勝った程度じゃ喜べませんか」


 ムギが俺の頭をポンポン叩きながらメアリに話しかける。……いつ頃になったらこいつの処刑を国は認めてくれるんだろうか。


「だいたいあんなに自信なさげな人に負けるなんて人間失格ですよ!太宰どころかダサいですよ!」


 メアリの高度な策に何も気づいていないのかこいつは……。


「フム……まさかミノリ君がそこまで弱いとは……正直私も驚いたぞ」


 ここにも気づいてない人いるじゃん。いや負けたから弱いってことでいいんだけど。なんか釈然としないんだよな。


「次は私とクソ雑魚ミノリ先輩ですね!」


 ムギはそう言ってメアリとポジションを交代する。


「……お前が負けたら低脳アホムギって読んでやるよ」

「好きに呼べばいいですよ。クソ雑魚ミノリ先輩が『勝てれば』ですけどね?」


 ムギはメアリと打って変わって余裕の笑みで手を机に置く。


「やけに白熱してますわね……」

「2人ともだんだん口が悪くなってるだけだけどな。それじゃ、始めるぞ」


 俺も机に中腰になってムギの手を握る。


「ふっふっふ、先程の戦いを見て私も勝つ方法を見つけましたよ」


 ムギはニヤリと腹の立つ表情を見せてくる。

 なっ、ムギも俺に勝つ方法を思いついているというのか……?これは用心せねば。


「よーい、スタート!」


 マキ先輩の掛け声と共にムギが口を開く。


「その方法とは!クソ雑魚ミノリ先輩のここを指で撫でれば弱体k……」


 ドン!!!


「勝者ミノリ!」


「はい、勝ち。力よっわ。勝負中に説明するとか低脳アホムギさん頭大丈夫ですか?」


 地面を向いているムギの頭を小突きながら耳元で囁く。


「ふえぇぇぇん!クソ雑魚のくせにぃ!!先輩方今の卑怯じゃないですかぁぁ!?」

 あ、泣いた


「いえ、今のは煽ったムギさんが悪いですわ」

「うむ私もそう思う」

「うえぇぇん!仲間いないよぉぉ!」


 ガチャ

 バン


「あ、出ていった」


 仲間が居ないことを知ったムギは泣きながら部室を去っていった。


 マキ先輩は扉を眺めながら口を開く。

「ふむ……とりあえず次の試合はメアリくんの不戦勝にして一旦休憩にしよう」

「……まだ1ゲーム目ですけどね」

「ミノリ君はムギくんを呼んできなさい」


 えぇ……あの低脳アホムギさんはもういいだろ……。












~リザルト~


メアリ 3pt

ミノリ 2pt

ムギ 1pt

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