第15話 面接は情報戦


「ミノリ君、おデコの傷は大丈夫かい?」

「ご心配なく。だいぶ治ってきたので触れたりしない限り痛くないです」

「そうかそうかそれは良かった。……触ってみてもいいか?」

「あれれ?話聞いてました?というかなんで皆、俺の怪我に触ろうとするんですか」


 放課後。俺とマキ先輩はメアリの面接をするために指定の時間よりも早めに部室へと集まっていた。


「ところでマキ先輩。メアリについて何か情報はなにか見つかりましたか?」


 昨夜、その日あったことをマキ先輩に電話で話したところ「それならメアリくんの情報があった方が落としやすくもなるだろう。明日までに調べてくるよ」と張り切っていたのだが、本当に調べられたのだろうか。


「あぁ、ある程度の情報は入手できたぞ」


 マキ先輩は鞄から取り出した紙を机に置く。覗き込むとかなり細かい情報まで載っていた。


「メアリくんはその容姿からも分かるようにスウェーデン人の母と日本人の父との間に生まれたハーフだ。親の仕事の都合上、先週の月曜にこの学校へと転校してきたようだ」


 転校!なるほど、だから今まで学校で見たことがなかったのか……。


「以前は華乃都女学院にいたそうだな」

「華乃都女学院……!?めちゃくちゃお嬢様学校じゃないですか!」


 華乃都女学院といえば、国のお偉いさんとか世界的に有名な企業の社長、大御所芸能人といった超がつくほどお金持ちの孫や娘が多く通っているお嬢様学校だ。

 華乃都女学院は小中高一貫であり、メアリの礼儀の良さや品のある言動もそこで培われたものだろう。


「ということはメアリの親もすごい人なんですか?」

「あぁ、父が〇〇電気の代表取締役社長であり。莫大な資産を有しているらしい」

「そ、想像以上の大企業ですね……」


 〇〇電気、全国的に有名な家電量販店だ。俺もよく利用している。


「他の情報としては……血液型はA型、誕生日は12月13日。勉強が得意で、以前の学校でも成績は良かったそうだ。得意科目は数学。好きな食べ物はうどん、趣味は映画鑑賞。ジャンルはスパイとアクションを好む」


 マキ先輩が紙を次々と読み上げていく。


「そんな細かい所までよく一日で調べられましたね」

「ふふふ、実は昔から情報収集が得意でね」

「え、そうだったんですか」


 まさかマキ先輩がそんな特技を持っているとは思わなかった。たしかにこの人は初対面相手にも躊躇なく話しかけれるし、友人も多いから情報を得やすいのかもしれない。


「凄いですね。正直なところ、マキ先輩のことだから『情報を集める』とか言って心底どうでもいい情報だけを持ってくるんだと思ってました」


「君の中で私がどんなふうに思われているのか気になるところだが……しかし、褒めてもらえたのは嬉しいよ。私としてもメアリ・・・から聞いたかいがあったよ」


「流石マキ先ぱ……え?……今なんて言いました?」

「風呂上がりにフルーツ牛乳を飲むとうまいよなって」

「言ってないですよね!?え、この紙に書かれた内容ってメアリから直接聞いたものなんですか!?」

「そうだが?」


 マキ先輩は当たり前のように頷く。

 えぇ……普通こういうのって秘密裏に集めるものじゃないの?


「なんで直接聞いちゃうんですか」

「嘘の情報が混じってたらいけないだろう?」

「いやいや、本人から聞いた方が嘘つかれやすいですよ……メアリに限ってそんなことは無いと思いますけど」


 どうりで情報が多すぎると思ったよ。


「……これ全部質問したんですか?」

「うむ、結構時間がかかったぞ」


 この量を……メアリも大変だったろうな。うわ、体重とか書かれてるし。


「あ、もちろん落とすことは話してないから安心してくれ」

「マキ先輩のせいで落としづらくなってますけどね……」



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 それから10分後、集合時間になった。


 コンコンコン


 ノック音が部室全体に響く。


「どうぞ」


 ガチャ


「失礼致します」


 入部届けを持って入ってきたメアリが丁寧にお辞儀する。


「ふむ、素晴らしい。合格だ」

「いやいや早すぎるでしょ」


 どんな面接なんですかそれ。というか合格にしたらダメなんですって。


「そうか?やっぱり今のはナシだ」

「あら、残念ですわ」

「すまないな。そこの席に座ってくれ」


 マキ先輩は俺たちの向かい側の席を手で指す。


「失礼致します」

「入部届けを預かろうか」

「はい、こちらになります」


 マキ先輩は入部届けを受け取ると中をざっと読む。俺も隣から見る。字が綺麗だ。


「うむ、抜けはないようだな……それではまず自己紹介でもしてもらおうか」

「かしこまりました。わたくしの名前はメアリです。趣味は映画鑑賞、好きな教科は数学ですわ」

「ほぉ、映画鑑賞が趣味……好きなジャンルは?」

「スパイ系とアクションですわ」

「おぉー良いね。私も好きなジャンルだ」


 このやり取りは二人の間では二回目だ。それに俺もこの情報は知っている。つまりただの茶番。


「メアリくんは最近転校してきたと聞いたが以前はどこに?」

「華乃都女学院ですわ」

「は、華乃都女学院!?あの!?」


 マキ先輩は目を大きく見開く。いや、あんた知ってるだろ。


「凄いな……お嬢様学校じゃないか」

「いえ、それほどでもありませんわ」


 マキ先輩は手を震わせながらメモ用紙に「金持ち」と書く。そのメモいります?。


「失礼だが、親御さんの職業を伺ってもいいかな?」

「父が〇〇電気の代表取締役社長をやっております」

「〇〇電気!?あの中毒性のあるCMで有名な!あの〇〇電気!?」

「えぇ」

「お、おいおいミノリ君、これはとんでもない娘が来たな」

「……そうですね」


 ツッコむと面倒くさそうなので適当に流すことに決めた。



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 その後、知っている情報を初耳風に聞くマキ先輩と初出し風に言うメアリの面接は続き。30分もの間、俺が口を開くことは無かった。


 掛け時計を見ながら、時間的にも次が最後だとマキ先輩に伝えるとコクリと頷く。


「えー、それではこれが最後の質問だ。『力が欲しいか?』」

「最後の質問それでいいんですか?」

「ほ、欲しいですわ!」

 欲しいのかよ。


 まぁここでどう答えようとも結果は変わらないのだが……。とにかくこれで面接は終わり。後はメアリには申し訳ないが落とさせてもらおう。


「うむ、分かった。……それでは合否を発表したいわけだが。その前にメアリくんからなにか質問はないかな?」


「質問……部活の内容で気になることはありませんが、それ以前にクーラーなどはないんですの?体が火照って仕方ありませんわ」


 メアリは額から汗を浮かべながら周りを見渡す。わかる、この暑さは地獄級だ。



「ふむ、私としても付けたい所なんだが……予算が足りなくてね」

「まぁ、そうなんですか。それなら父の会社から持ってきましょうか?」


 え……マジ?メアリの父親は家電量販店の社長だし、嘘だとは思えない。

 クーラーがあれば勉強も捗る……。この暑さも乗りきれる……。俺は無意識のうちにゴクリと生唾を飲み込む。


「はは、素敵な提案だね。しかし残念なことに今回の面接で君の入部は……」

「合格です!!!」


 俺はマキ先輩の言葉を声量で遮る。


「なっ……!?どうしてだミノリ君!?不合格にする予定では……」

「いやだなーマキ先輩。クーラーを持ってきてくれる人を不合格なんかに出来ませんよ!末永くよろしくお願いしますねメアリ様!」

「様……!?」

「はい、こちらこそよろしくお願い致します」


 メアリはそう言って深々と頭を下げる。


 マキ先輩は困惑した表情のまま俺らを交互に見る。


「ま、待ってくれミノリ君!君は物に釣られて入部を許可するというのかい!?」

「はい!全くもってその通りです!メアリ様バンザイ!」

「い、潔い……!メアリくんも理由はそれでいいのかい?」

「私、手段にはこだわりませんので。よろしければ扇風機もお付けしますね」

「流石大企業の娘だ……これは入部を認めるしかなさそうだな」


 マキ先輩はため息をつきながらもメアリの入部に賛成してくれた。


 かくして、『スゴい部』にメアリが入部した。




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