第14話 あらあら

わたくしはメアリと申します。学年はミノリさんと同じ2年です」


 緩いカールのかかった金髪を揺らしながらメアリは会釈する。制服を着ていても言動で育ちと品の良さを感じる。やはり本物のお嬢様なのだろうか。


「い、1年のムギでしたでございますですわ」

「おい、語尾が渋滞してるぞ」


 相手の上品な挨拶に動揺してしまったムギを置いといて、俺はメアリに顔を向ける。


「俺はミノリ……って名前知ってるんだな」

「はい、モトオリ先生に教えていただきました。お二方共体調の方はいかがですか?」


 メアリはそう言って交互に顔を合わせる。


「俺は随分楽になった。メアリ、助けてくれてありがとう」

「私も大丈夫です!助けてくださり本当にありがとうございます!メアリ先輩がいなければ今頃私たちどうなってたことやら……考えるだけでジッとします」


 止まってどうする。ゾッとしろゾッと。

 俺とムギが深々と頭を下げるとメアリの優しい声がお告げのように聞こえてくる。


「いえいえ。お二方が元気なら私も嬉しい限りです。特にミノリさんにはあの時のお礼ができて良かったですし」


 あの時……あぁ、うどんを奢った時か。


「ミノリ先輩とメアリ先輩って知り合いなんですか?」

「あぁ、うどん仲間だ」

 ムギの問いに俺は頷いて答える。


「ふふ、そうですね」

 メアリは口元に手を置いて上品に微笑む。


「へへ、まぁな」

 モトオリは自慢げに指で鼻を擦る。


「モトオリ先生は知らないですよね?というかまだ居たんですか」

「え、ずっと居たよ?もしかして存在感なかった?」

「窒素並にはありましたよ」

「つまり俺は空気だったってことだな。よし、泣いてくる」


 モトオリはそう言って保健室を走り去って行った。


「……それでうどん仲間ってなんなんですか?」


 モトオリを全スルーしてムギが会話を続ける。少しは何か言ってやれよ……。


「以前、ミノリさんが私にうどんを買ってくださいましたの」

「……買ってあげたというより交換したって感じだけどな、代わりに指輪貰ったし」

「ゆ、指輪!?なんですかそれ!ポケ〇ンの過去データから強いヤツを持ってくる時の交換みたいになってるじゃないですか!」


 なんだその例え。だいたいあの指輪はレプリカだからそこまで価値に差はないと思うぞ。


「ポ、ポケ……?なんですのそれは?」

「え!メアリ先輩ポケ〇ンをご存知ないんですか!?人生の半分損してますよ!」

「おい、煽るな」


 確かにポケ〇ンを知らない人も珍しいけど……。


「まぁ、私半分も損してますの?」

「間違いなく損してます!仕方ありません、今度貸してあげますね」

「あら、よろしいんですの?」

「もちろん!全作貸しますね!」

「何時間やらせる気だよ、一作にしとけ」

「えぇー、全部通してやるのが面白いんですが……仕方ないですね、明日部室に持ってきますのでメアリ先輩も取りに来てください」


 するとメアリはムギの言葉に首を傾げる。


「部室……?どちらの部室に迎えばよろしいのでしょうか?」

「私たちが倒れていた場所です。ここ保健室の隣になりますね」

「まぁ、そうでしたの。分かりました。……それにしても部室で倒れるほど何をやっていらしたんです?」

「え!……え、えーっと、それは……」チラッ


 ムギは俺に目配せをしてメアリから飛び出してきた「一番されたくなかった質問」の答えを求める。もちろん俺は答えなど持ち合わせてない。

 しかし、メアリの育ちの良さからモトオリのように変な勘違いをしている様子はない。だからといって本当のことを伝えるとバカだと思われてしまうだろう。実際バカだったし……。ここは上手いこと誤魔化すしかない。


「じ、実は部の一環としてだな……」


 俺は慎重に口を開いた。






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「まぁ!『スゴい部』はそんなに素晴らしい部活動なのですね!私感心致しました!」

「イエイエ、ソレホドデモナイデスヨ」

「まさか部室で『戦闘技術』を磨くための特訓として、お二人で『熱き戦い』をなさっていたなんて!しかも、緻密な『知略戦』のすえに相打ちだなんて映画のようですわ!」

「ハハハ……」


 バカだと思われないように話を盛り続けたのだが、案の定取り返しのつかない所まで来ていた。

 目を輝かせたメアリに後ろめたさを感じずにはいられない。やめろムギ、そんな目で俺を見るな。


「しかし……そんなに鍛えて何を倒したいのですか?」

「え……?じ、自分……かな?」

「それはつまり、もはや敵は己しかいないということですわね!勇ましいですわ!」

「ま、まぁな……」


 ここまで来てしまったら仕方がない。メアリには申し訳ないがこのまま嘘をつき通してこの会話を終えよう。


「メアリ、このことは他言無用で頼むぞ。今回は助けて貰ったお礼として教えたが、本来部外者に教えてはいけないんだ」

「な、なるほど……」


 よし、これならメアリが変な噂を広げることもないだろう。


「それなら私、『スゴい部』に入部致しますわ!」

「え、入部?」

「はい!そうすれば部外者じゃなくなりますし、私としても『スゴい部』に興味が湧きましたので!」

「いや、でも……入部には面接とかあるけど……」

「構いません!必要なものはなんですの?面接はいつ頃出来ますの?」


 メアリの勢いに押し負けた俺は入部に必要な書類の説明と面接の日時を教えた。


「承知致しました!では明日、部室に伺いますね!」


 そう言ってメアリは担任に入部届けを受け取りに行った。


 静まり返った保健室に俺とムギだけが残る。


「……あのー、メアリ先輩は入部させるんですか?」

「あのまま入部させたら嘘がバレるからな……どうにか理由をつけて落とすしかないだろ」


 とりあえずマキ先輩に連絡しとくか、裏を合わせないとあの人がすぐにボロを出しそうだし。


「ですよねー……というか、私の面接はやってくれないんですか?」

「こんなことになった元凶を入れるわけないだろ」

「えぇー酷いですー。そんな意地悪なミノリ先輩にお仕置です」

「うわっ!こっち来んな!」


 ムギがベッドに入ってきて俺にしがみつく。


「暑いんだって!離れろぉ!」

「離れません!認めてくれるまで離れません!」


 デジャヴの感じるやり取りを数分やった後、帰ってきたモトオリに写真を撮られたことは言うまでもない。




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