第11話 開いた扉


「着いたぞ!ここが『スゴい部』の部室だ」


 マキ先輩はドヤ顔で『開かずの扉』に手を指す。

 外見は前回来た時と特に変化はない。扉も相変わらず引き扉のままだ。


「ここって鍵付いてませんよね?大丈夫なんですか?」

「あぁ、大丈夫大丈夫。ここの扉って押し扉と間違える人が多いからね。すぐに開けれる人は早々いないよ」

「全然大丈夫じゃないですよそれ」


 ムギやモトオリみたいなアホな人達は気づかないかもしれないけど普通の人ならすぐ分かるだろ。


「そうだな……鍵の件については後々考えよう。とりあえず今日は中を見てほしいんだ」


 よほど自信があるのかマキ先輩は部室を開けて俺を手招く。


「失礼します……おぉ、広い……」


 部室の中は教室の半分くらいの大きさだった。思っていたより広いな……。

 縦長で、一番奥には大きめの窓があり外の光や空気もしっかり入ってきている。

 手前には扉を背にするように大きな赤色のソファーと脚の低いテーブルが置いてある。奥には教室にあるような机が4つ、くっつけてあった。椅子は少し錆のついたパイプ椅子だ。


「どうだね結構しっかりしているだろう?タイトルは『人生』だ」

「部室にタイトル付ける人初めて見ましたよ。しかも無駄に深いですね」


 しかし、マキ先輩の言う通りかなりシンプルで綺麗な部室になっている。


「元々は古くなった教材や使わなくなった備品なんかが置かれていたんだ。それをいらない物は処分して、使えそうな物はそのまま再利用している。この机やパイプ椅子なんかがそうだな」


 そう言ってマキ先輩は部室を見渡す。

 長年使われていない倉庫を数週間でこの綺麗さに……流石マキ先輩だ、行動力は誰にも負けないだけのことはある。


「凄いですね……ちなみに、このソファーと小さなテーブルはどこから持ってきたんですか?」

「あぁ、それはそこのソファーに寝転がっている部顧問のだな」

「え?」

 俺はソファーを上から覗き込む。


「うわっ、いたんですね!?」


 そこには気持ちよさそうに眠っているモトオリの姿があった。早速サボっているようだ。仕事しろ仕事。


「モトオリ先生がな、私達のためにわざわざ自腹で買ってくれたんだ」


 マキ先輩は誇らしげにそう言っているがモトオリは自分が寝たいから置いたのだろう。仕事しろ仕事。


「とりあえず、今はこれくらいしかないがそのうち本棚やロッカーなんかも置こうと思ってる」

「そうですね。まだまだスペースがたくさん余ってますし、そうした方がいいと思います」


 特に左右の壁側はかなり空いている。マキ先輩の言う通り棚が置ければさらに部室っぽくなりそうだ。


「あと、この前ミノリ君と一緒に買いに行った掛け時計もちゃんと付けてるぞ」


 マキ先輩はドア側の壁を指さす。俺が振り返るとそこにはゲーセンで取ったキャラクターの描かれた掛け時計があった。なるほど、だから掛け時計を欲しがっていたのか。


「とまぁ、こんな感じだな。どうだ?入部する気になってくれたかい?」


 正直ここまでちゃんと準備されているとは思っていなかった。

 勉学に適した机と椅子があり、部室が1階にあるので移動も楽、おまけに隣が保健室なので周りが騒がしくなることもない。間違いなくこの環境での勉強は捗るに違いない。


「そうですね……ちなみに今って部員はマキ先輩だけなんですよね?」

「ミノリ君と私の2人だけだな」

「マキ先輩の中で俺は入ってることになってるんですね……」


 他の部員が居ないということはマキ先輩が卒業した後に俺がこの部室を独占できるということだ。受験の時期にここを一人で使えるなんて夢のようだ。モトオリは……寝てるし気にならないだろう。


「分かりました。入部します」

「おぉ!本当か!」

「ただし、絶対に他の人を絶対に入部させないでくださいね」

「なっ……!?ミノリ君は独占欲が高いんだな……」


 マキ先輩は何故か頬を赤らめる。確かに部室を独占しようとしているがそんなに恥ずかしいことなのか?


「ミ、ミノリ君がそこまで言うなら私も勧誘などは控えよう。しかし万が一、入部希望の子が来たらどうするんだ?無下に断ることも出来ないだろう」

「その時は面接でもやって落としましょう」

「落とすことは確定なんだな」

「勉強熱心な人が来てくれれば例外ですけどね」


 先輩が来てくれれば教えて貰えるし、同学年ならライバルにできる、後輩なら教えることによって復習になる。いずれも学力が上がること間違いなし。まぁ、あくまで勉強熱心な人が来たらの話だけど。そんな人がこんな頭の悪そうな部活に来るわけ__


 コンコン


 その時、部室の扉を叩く音が響いた。


「お、さっそく入部希望かもな」

「いくらなんでも早すぎません?この部活自体知ってる人少ないですよね」

「ふむ……今ここにいる3人くらいだな」

「じゃあ、誰なんですかね……?」


 コンコン


「どうぞ」


 マキ先輩が声をかけるとドアノブが回る。


 ガッ!


 ……ガチャ


「失礼します!こんにちは一年のムギです!」

「1回扉押しただろ」

「そ、そんなのどうでもいいじゃないですか!」


 やけにテンションの高いムギが入ってきた。


「おや、ミノリ君の知り合いかい?」

「いえ、初めて会いました」

「知り合いですよね!?なんでそんな嘘つくんですか!」


 こんなうるさい後輩は知らないし知りたくもない。


 ムギはコホンと咳払いをする。

「とにかく、話は聞かせてもらいましたよ!ミノリ先輩が入部するそうですね!仕方ないので私も入部します!」

「断る」

「決断早くないですか!?さっき面接はするって言ってましたよね!」

「貴殿の今後益々のご活躍をお祈り申し上げます」

「面接受けてないのにお祈りしないでください!ほら!入部届けもありますよ!」

「はいはい、他を当たってくださいね」


 俺はムギを部室から追い出す。


「うわぁぁぁん!入れてくれてもいいじゃないですかぁぁ!」ドンドン

「盗み聞きする人は入れません」

「別にいいじゃないですかぁぁぁ!減るもんじゃないですしぃぃ!」ドンドンドン

 そういう問題じゃないんだよな。


「い、いいのか?彼女すごく入りたそうだが……」

「いいんです!この部は俺とマキ先輩で十分です!」

「ほぁっ!?そ、そうだな……私と君だけで……うん、十分だな……」


 マキ先輩は指を絡めてモジモジしている。そんなことしてないでドアを引っ張って欲しいんだけどな……


 結局、ムギが諦めて帰るまで30分かかった。

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