第7話 ゲームセンター


「そういえば今日って何を買いに来たんですか?」

「そんなのミノリ君との楽しい思い出を買いに来たに決まっているだろう」

「……もしかして喧嘩売ってます?」


 昼食後、俺とマキ先輩は意味もなくショッピングモールの中を歩いていた。


「ふむ……とりあえずゲームセンターでも行くか」

「ほんと何しに来たんですか……?」

 マキ先輩が欲しいものがあるって言ったからわざわざ集まったのに……。


「いやぁ、お恥ずかしいことに私はゲームセンターに行ったことがなくてね。少しだけ興味があるんだ」

「え、そうなんですか?」

 それは初耳だ、休日になったら日中ずっとゲーセンにいそうな人なのに。


「それなら少しだけ行ってみます?その後に色々買い物しましょう」

「ふふ、付き合ってもらってすまないな」

「全然いいですよ。俺もゲーセン好きですし」

「……私の次にか?」

「先輩の前にです」

「な!?そ、そんなにゲームセンターが好きなのか……?」


 違います、先輩への好感度が低すぎるだけです。


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 ショッピングモール内のゲーセンに来るのは俺も初めてだったが中は至って普通だった。

 そんなに広くもないがゲーム機の数はそこそこある。


「人が多いな」

「休日ですし、特に家族連れが多いようですね」


 ゲーム機の音はもちろん人々の楽しそうな声が聞こえてくる。


「カップルもチラホラいるようだな。ふふふ、私たちと同じだな」

「あはは、当たり前じゃないですか。彼らも僕らと同じ人間ですよ」

「この流れで同種族であることを確かめていると思ったのか?」

 だってそれ以外共通点がないし……。


 とりあえず、ゲーセンの中を2人で歩いていく。マキ先輩は初めての見る物が多くずっとキョロキョロしている。


「ミノリ君、これはなんだい?中に人形が捕らえられているようだけど……」

「これはUFOキャッチャーです。このアームを操作して中の人形を取るんです」

「アーム……?」

「これです、上の方からぶら下がってる」

 俺はアームを指さす。


「これをボタンで操るんです」

「ボタン……?」

「これです、押すと矢印の方向に動きます。」

 俺はボタンを指さす。


「やってみます?100円で1回できますけど」

「100円……?」

「あれこの人アホになってる?」

 なんで知能が下がってるの。


「まぁ、詳しいことは分からないが1回やってみるよ」

「そうしてください」

 マキ先輩は機械に百円玉を入れる。


 テレテレテーレーテレーテー

 UFOキャッチャーは陽気な音楽とともにボタンを光らせる。


「今光ってる方を押し続ければアームが左に行きます。止めたい所まで行ったらボタンを離してください」


 俺の説明にマキ先輩は静かに頷きボタンを押す。いつになく集中しているようだ。


「……ここだ!」

 バッと手を離しアームはなかなか良い位置に止まった。


「おおー。良い調子ですね。次は奥行です」

「ふふ、任せておきたまえ」スー、ピタッ

「お、これはいいんじゃないですか?」


 アームが開き人形の元に降りていくき人形を掴む。


「も、持ち上げたぞ!この後どうすればいいんだ!?」

「この穴のところに持って行って人形を落としてくれます」


 しかし、アームは途中で力を失い人形を離してしまう。


「あー、惜しかったですね。もし穴に落ちてたらここの扉から景品が取り出せます。……いや、開けてもないですよ?今の見てなかったんですか?」


 マキ先輩は取り出し口を悔しそうな顔で見つめる。

「ぐぬぬ……もう1回やるぞ!」

 マキ先輩はすぐに百円玉を入れる。

 この人……ゲーセンで破産するタイプの人だ……。


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「いやぁー、楽しいなゲームセンターは」


 マキ先輩は大量の人形やお菓子の入った大きめの袋を持ちながら笑顔を見せる。


「凄い取りましたね……そこまで上手だとは思いませんでした」

「うむ、正直私も驚いている。まさか私にこんな才能があったとは……」


 マキ先輩は最初の人形を取った後、何かコツを掴んだようで次々と景品を取りだした。しかもほぼ100円で。

 この人の性格上破産するかに思われたがなんとか免れたようだ。


「しかしな、帰りの電車賃まで使ってしまったことに関しては後悔している……」


 破産してた。


「えぇ……なんで見境なくお金を使っちゃうんですか」

「仕方ないだろう、景品を取れる感覚がたまらなかったんだ。取り出し口に景品が落ちた時の音を思い出すと100円を入れずにはいられないんだ……」

 うわぁ……どっぷりハマってるじゃん……。手震えてますけどクスリはやってないですよね?


「はぁ、今日はもう帰りましょう。電車代くらいなら貸しますから」

「すまない、後日返すよ。……あ、お礼と言ってはなんだがこれをあげよう」


 マキ先輩は景品の入った袋をこちらに差し出す。


「いやいや、こんなにいらないですよ」

「ふふふ、遠慮はいらないぞ。今日は君から貰ってばっかりだからね……指輪とか、初キスとか」

「キスはしてないですよ?記憶改ざんされてます?」

 あと、指輪も俺が渡しただけで俺が買ったやつではないし。


「あ、時計だけは貰っていいか?それ以外は全てあげよう」


 マキ先輩はそう言って袋から国民的なキャラが描かれた掛け時計を取り出した。


「今日は掛け時計を買いに来る予定だったからな。これさえあれば今日の目標は達成だ」

「掛け時計が欲しかったんですね……今日の目的がやっと分かりましたよ」


 ゲーセンの掛け時計でいいなら近くの家電量販店にでも売ってそうだけどな。


「ほら、残りはミノリ君に全てあげよう。これで一生遊んで暮らせ」

「その景品にそこまでの力はないですよ。それに人形とか俺は使いませんし」


 すると、マキ先輩はニヤリと口角を上げる。

「ふふふ、知っているぞミノリ君。君には妹さんがいるんだろう?」

「いませんけど?」

「うむ、ならば是非その妹さんに人形やお菓子を……いないのか?」


 マキ先輩は首を傾げる。


「いないですよ。そもそもいるって言ったことないですよね?」

「そうか……ならば隣に住んでいる幼馴染にでも渡してくれ」

「隣の家に幼馴染はいませんよ。なんでさっきから当てずっぽうで言うんですか?」

「どうしてもこれを押し付けたくてね」


「自分で持って帰ってください」

「いやぁ……この量はいらないだろ……」

 あ、本音出たぞこの人。



 結局駅で別れるまで貰うよう説得され、最後には受け取ってしまった。


 仕方ない……帰りに後輩の家に寄って押し付けていこう。

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