第4話 開かずの扉
「ここです!目的地周辺に来たので案内をやめますね!」
「お前はカーナビか」
放課後、俺とムギは噂の『開かずの扉』に来ていた。
その扉は保健室の隣にありその隣は壁だ。つまり突き当たりの部屋ということになる。
扉は木造で銀色のドアノブがついている。小窓はなく、他の扉と比べてもかなり年季が入っている。
「確かにこの扉前からあったな……」
以前から保健室の隣に扉があることは何となく認知していたが特に気にしたことはなかった。
ムギは人差し指を立てる。
「何でもこの扉、屈強な大人の男たち3人が力を合わせて押しても開かなかったそうですよ」
「なるほど、学校に屈強な大人の男たちが3人も来たのか……不思議だな」
「重要なのはそこじゃないです!それでも開かなかった扉の方です!」
いやいや男たちの方が怖いからな?
ムギはドアノブを掴み、回してみる。
「あ、ドアノブは回るみたいです。鍵は閉まってないんですね」
「そりゃあ鍵穴がないからな、鍵を閉めようにも難しいだろ」
俺がそう言うとムギは掴んでいたドアノブを確認する。
「か、鍵穴が無いことくらい分かってましたよ?」
頬を赤くしといてよく言うよな。
「それで、ホントに開かないのか?」
ドアノブが回るなら開きそうだけどな、壊れてる様子もないし。
「そうですね、ふっ、はっ!んくっ……」
ムギは扉を力いっぱい押すが開くことはない。
建付けでも悪いのか?俺は扉を隅々まで目視する。
……ふむふむ、なるほど。建付けが悪い様子もないし劣化も無いことは分かった。
あとこの扉が
どうリで屈強な男たちが押しても開かないわけだ。ムギも必死に押してるけどそれだと一生向こうの部屋にはたどり着けないぞ。
「び、ビクともしませんね……」
ムギは首筋に流れた汗を手で拭いながら『開かずの扉』を見つめる。
「そうだな」
押してるからな。
「ミノリ先輩もやってみて下さいよ!めちゃくちゃ硬いですから、部屋の中で何か倒れて扉が押さえられてるんですかね?」
何この子、そんなに近くで扉を見てるのに気づいてないじゃん。
「へー、ほんとだ動かないな(棒)。でもこれ向こうに何か倒れてるって感じじゃないけどな」
俺は適当にドアノブを回して開かないフリをする。ついでにヒントもあげる。
「ムムム……不思議ですね。もしかして幽霊の仕業ですかね?」
ムギは顎に手を置き、真剣な表情で面白いことを言い出した。
「ゆ、幽霊?そ、それはいったいどういうことだ?」
俺は笑いを堪えながらムギの話に乗っかる。
「ぷぷぷ、ミノリ先輩声が震えてますよ?もしかして怖くなっちゃいました?」
あぁ、これだけ真剣に悩んで答えが分からない残念な奴がいることが恐怖でたまらないぞ。
「な、なんで幽霊の仕業なんだよ?」
俺の言葉にムギは得意げな表情になる。
「ズバリ!幽霊がこの扉を向こう側から押して、我々人間が入室するのを拒んでいるんです!」
ビシッと『開かずの扉』に指をさして自信満々に結論づける。
「そうなのか?引けば開くのに?」
このままでは俺の腹筋が崩壊してしまうのでネタばらしも兼ねて俺は扉を引く。
扉は音も立てずにスムーズに開いた。
「……」
それに対しムギは目を丸くして、扉に指をさしたまま固まった。
「へぇ、これが開かずの扉か」ガチャ、バン、ガチャ、バン
俺は扉を開け閉めしてムギに目を向ける。
ムギは依然として石像のようになっているが顔全体、耳の先まで赤くなっている。
「あれ?幽霊は?どこにいるの?ねぇ__」
「ああああああああぁぁぁあああ!先輩なんか嫌いですぅぅぅ!」
ムギは突然動き出したかと思えば大声を出して走っていく。
「おい、どこ行くんだよ!」
「旅に出ます!探さないでください!」
「暗くなる前に帰れよー」
「うち門限ないんで!」
そういう問題じゃないんだけどな。
ムギはそのまま走り去っていった。
まぁアイツのことだ、そのまま家に帰るだろう。
とにかくムギがいなくなり、部屋の中を見る必要がなくなったので俺もそのまま帰ることにした。
近くに置いていた鞄を手に取り、靴箱に向かおうとした。その時、
『ガチャ』
後ろから扉の開く音がした。
俺は不気味に思いながらも振り返る。もしかしてホントに幽霊……
「おや、やけに外が騒がしいと思えばミノリ君じゃないか。もしかして私に会いに来たのかい?」
そこには例の部屋から顔を出すマキ先輩の姿があった。この人が出てくるくらいなら幽霊が出てきて欲しかった。というかさっき開けた時いました?
「なんでこんな所にいるんですか?」
「その発言から察するに私に会いに来たわけじゃなさそうだな」
マキ先輩は残念そうに俯く。俺の人生の中でこの人に会いに行くなんて今までもそしてこれからもない。
「私がここにいる理由は秘密だ。しかし、ミノリ君がどうしても知りたいというなら……分かるよな?……あぁ、安心してくれ、今この部屋は私しかいないからな」
そう言ってセクシーに舌なめずりをする。マキ先輩の言いたいことは何も分からないし分かりたくもない。
唯一分かったのは、この状況で俺を助けてくれる人が部屋の中に居ないことだけだ。
「そうですか、分かりました帰ります。さようなら」
「ふむ……それはつまり『続きは家で』ってことかい?それならミノリ君の両親に挨拶してからでもいいかな?」
おやおや?なんで伝わらないかな?
「違います。帰宅するだけです。マキ先輩とは今後一切会いません」
「そうか、それは残念だ。ところでミノリ君は今週の日曜日は暇かい?」
「……暇ですが、マキ先輩の要件しだいで忙しくなります」
「正直だな。いや何、ちょっと買いたいものがあってな。一緒に街でショッピングでもしないか?」
マキ先輩はそう言ってウインクする。
「あー。ちょうどその日、親戚の葬式なので無理ですね」
いけないいけない、忘れるところだった。
「勝手に親戚を殺すんじゃない。そんなに私と一緒に行くのが恥ずかしいのか?そうだな……昼飯と晩飯くらいなら奢るぞ?もちろんミノリ君が好きなものを食べるといい」
「なんか親戚生きてそうなんで行きますね」
マキ先輩は笑顔で頷く。
「うんうん、ミノリ君のそういう素直な所が私は好きだぞ」
「あ、会話は基本ナシ。歩く時は3メートル以上の距離を置いて、座る時は隣の席以外っていう条件付きでいいですか?」
「うんうん、そういう素直じゃない所も好きだぞ」
マキ先輩はそれでも嬉しそうに頷いていた。
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