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 彼女のそばにいたら、きっといいことがあるに違いない


 ミミックは、そんな風に考えたのかもしれない


 なんにせよ、それ以来、彼が少女をつけ回すようになったのは事実だ


 ぱかん、ぱかんと、フタを開けたり、閉じたりしながら


 嬉しそうに、ぴょんぴょん少女に着いて行く


 少女からすれば、彼みたいな化け物に付きまとわれるのは、鬱陶うっとうしくてしょうがなかった


 けれど、数千、数万の生命を喰らってきたミミックは、化物のとしての格も、相当に高かったので


 少女には、どうすることも出来なかった


 しかし少女も、諦めの悪い方だったので

 

 ことある事にミミックを追い払おうと、蹴ったり、殴ったり、燃やしたり、と


 思いつく限りのことはやってみた


 しかしミミックにとって、それは攻撃と呼べるものではなく


 だから、決して脅威になることもなく


 ただ彼は、少女のとった行動に、首をひねるだけだった


 そしてミミックも、ミミックなりに少女の気持ちを考えることになる


 考えて、考えて、彼のはじき出した結論は


「それが彼女にとって、親愛を表現する方法なんだ」というものだった


 親愛には、親愛で応えるのがいいんだろう


 そう思ったので、ミミックも、少女に親愛を表現することに決めた


 ところで、ミミックにとって「親愛の表現」ってのは、喰っちまうことに他ならないから


 以来、少女はことある事にミミックに喰われて死ぬのだが


 それすらも、彼女にとってはどうでもいいことだった


 どうでもいいので、そのうち適当に諦めて、ミミックの好きにさせてやることにした


 まぁ、ミミックにとってはいいことだった


 喰っても喰ってもいなくならない存在が、ずっとそばにいてくれるのだから


 これまでなにをしても埋まらなかった空白が、やっと埋まったかのような


 そんな日々が訪れたことに、彼は満足していたのだから


 そんな彼の事情を知るよしなんて、少女はこれっぽっちも無いんだけど

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