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「ひどいことをするものだわ」
って彼女、口ではそう言ってるくせに、これっぽっちもそんな事は思ってなさそうだった
「人間ってこういう時、こういう反応をするんだろうなー」みたいな
気力のなさというか、投げやりというか
自暴自棄、っていうのが一番しっくり来るんだけど
ミミックにすれば、そんな言葉も、そんな感情も知らないので
ぽかんと、口を開けていることしかできなかった
なんせ彼自身、今までにこんなやつに
喰っても消えないやつなんて、彼は知らなかったから
親愛の表現
その先に続くコミュニケーションを、彼はまったく知らなかったから
思考がフリーズしちゃったんだよな
すっからかんになっちまった
「そんなことをしても、私は死なないのに」
って、少女が笑った
楽しくもなんともなさそうに、笑った
嬉しくもなんともなさそうに、笑った
悲しくもなんともなさそうに、笑った
ただ、体に染み付いただけの反応として
なんともなさそうに、彼女は笑った
そんな空っぽの微笑みだったけど
ミミックにすれば、それは生まれてはじめて見る、誰かの笑顔だったから
すっからかんになったところで
そんなものを見せられちまったら
言葉とか、理由とか
ある種の理解ってのは、あらゆる理屈を吹っ飛ばして、急に湧き上がるものなんだよな
嬉しいってのは、こういうことを言うんだろうなぁ
要するにミミックは、そんな風に思ったわけだ
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