第4話
翌朝、通学路を進みながら欠伸を噛み殺していた僕の隣では、異様に元気な弟が伸び伸びと両腕を伸ばし歩いていた。
「ん~! 気持ちいい朝だね」
強引に参戦を決めた張本人のその清々しさたるや、いっそ憎らしいほどである。僕だって朝は弱い方ではないとはいえ、今日はとある事情でどうにも睡魔が抜けきらず余計に苛立ちを覚えたが、
「朝から上機嫌だね……僕は眠いよ」
「昨日の今日じゃそうだよね、まだ回復しきってないの?」
「僕の消費だと本来ならもう少し寝ないといけないし、寝足りないだけ」
残った二割を口にすると純粋な心配からの労いの視線が飛んでくるものだから、どうにもこいつには強く出れない。寝足りないのは緋のせいでもあるものの、もう決まってしまった事に今更グダグダ言うのも情けないから、今のところは文句を口にしないことに決めていた。というのもあるけれど。
人の心配も知らないで――なんて、僕が言うまでもなく母や祖父に散々言われているだろうし。
「そっか……でも、次からは俺が頑張るから!」
「しばらくは、難しいと思うけど……お前も僕ぐらい消耗しそうだし」
「うっ……
僕達が相手にしている妖怪という存在には、物理的な攻撃が通用しない。どんなに鋭利な刃物を当てようとしても、鋭い切先で刺そうとしても、そこに何もないかのようにすり抜けてしまう。にもかかわらず、奴らは人間に対しちょっかいを掛けられるというのだから、人間と妖怪の関係はフェアじゃないのだ。
そこで妖怪と同じ土俵に立つために必要になるのが、人間では恐らく僕ら一族にのみ使える【神通力】だった。その力を纏わせた得物や、その力そのものならば妖怪に触れる事が可能になるため、僕達は常に体と武器に神通力を纏い戦っている。だが、厄介なことに、力の使用には精神力と体力の消耗が常について回る。
元々は人ならざる存在が使っていた力なのだから身体に負担がかかるのは仕方ないとはいえ、なんだってこんな面倒なものが自分達に使えるのか――そう文句を言っていたのは、ひと月前の
つまるところ、今日の僕はその必要な睡眠時間の確保に失敗したせいで、疲労感と睡魔に悩まされているのだ。
「そうだよ。それに僕だって、まだ上手く使いこなせてないんだから」
「でも、出遅れた分は頑張らなきゃ……碧や
例えば、昨夜の悠真がとどめに使った地面の隆起現象や、僕の矢が狙った標的に確実に当たるという現象も、全て神通力のおかげで成り立つものだ。当然、使えば使うほど使用者の負担は増えるし、超常現象の類(炎や水を出すなど)を起こしたり、僕のように遠距離武器をコントロールする場合は、近距離で武器にのみ力を纏わせている状態に比べると格段に消費が大きい。
それは銃弾をコントロールし、あまつさえ神通力で爆破させる必要のある緋の負担の大きさにも繋がるわけなのだが、昨夜口を酸っぱくして説明したにもかかわらず、弟自身は真の意味では理解していないのだろう。戦いを目前に控え興奮しているようだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「僕としては、あんまり無理してほしくないんだけど」
「碧だって、無理するじゃん」
「……まあね」
とはいえ、曲がりなりにも戦いにおいては先輩にあたる僕の忠告に素直に首を縦に振らないだけでなく、唇を尖らせて屁理屈を口にするところは、本当に可愛くない奴だと思う。
まあ、嫌いじゃないし、これがなければ緋ではないとも思ってはいるが。
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