第10話 再
————ピピピピピピ。
うるさい目覚まし時計の音に俺は目覚めた。
寝ぼけ眼で周りを見回す。
カーテンは閉まり、薄暗い。
微かに差してくる光で、埃が舞い散っているのが分かる。
ゴミが至る所に散らかり、ティッシュの屑が落ちていたり、食べ終わったカップラーメンが、いくつも机の上に重なっていたりするのが目に入る。
その光景に腐った心にさらに淀みが走った。
ああ、また1日の始まりだ。あと何回繰り返せばこの生活に終わりが来るのだろう。あと何回繰り返せば夢は叶うのだろう。あと何回繰り返せば俺の努力は報われるのだろう。
幾度も考えたことが、重く心に乗りかかり、さらにきつく沈んでいく。
やりきれない想いを吐き出すようにため息をつき、時刻を確認する。
16時27分を指す時計が目に入った。
もうこんな時間か。早く支度しないと。
毎日のルーティンを、今日もまた始める。
空いた腹を埋めるように、余っていたご飯を口に入れる。
それから服を着替えて、身なりを整えていく。
着替えが終わると、俺は楽器を携え、外へ出た。
外出する頃には、空は薄暗くなり始め、夜が訪れている。
少しひんやりとした空気を肌に感じながら、俺は歩みを進めていく。
見慣れた暗みがかった裏路地の景色を横目に歩き続ければ、やっと大通りへ出る。
人混みのごった返した騒々しさは、裏路地の暗鬱な雰囲気とは相対して華やかだ。
人の間を慣れた動きですり抜け、いつもの定位置にたどり着く。
音楽機器を地面に置き、準備を進める。
その間もチラチラと、前を通る人が興味深げにこちらに視線を送ってくる。
ストリートライブを始めた当初こそ恥ずかしさがあったが、今ではそんな視線など気にもならない。
準備を整え終えた俺は、ギターを持ち、置いたマイクの前に立つ。
そしていつものように歌い始めた。
歌い始めると一気に注目を浴び始める。大体通る人が一度はこちらを向く。
そして時々人が立ち止まる。だが1人、また1人と去っていく。
しまいには誰一人聞いてくれる人が居なくなってしまった。
ああ、また同じだ。1度目の人生と全然変わらない。
5年も歌っても何も成果は得られない。
この惨めで寂しい時間をただ無意味に消費して1日が過ぎていく。
手応えも何もなく、どこへ向かっているかもわからない。進んでいるかも不明だ。そんな先の見えない人生にまたなってしまった。
やはり俺には才能がないのだろうか。愛した人が残した曲、たった一曲でさえまともに伝え広めることが出来ないなんて。
好きな人の残した曲を有名にしてやるなんて息巻いて東京に出てきてこの様か。なんて惨めだ。
辛い。痛い。逃げたい。でもそれは許されない。1度目の人生の時の俺なら逃げていただろう。だが今は逃げるわけにはいかない。俺には彼女の曲を有名にしなければならない理由がある。使命がある。恩がある。
彼女が認めて褒めてくれた俺の歌で彼女の曲を皆に伝えるのだ。そして彼女の名前のこの世に残してやるのだ。それしかもう彼女にしてやれることはないのだから。
ーーーーああ、明日もまた歌おうか。
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