第8話 別

 デート当日、俺は待ち合わせ場所の駅前で、ベンチに座って舞が来るのを待っていた。

 ずっと歌ってきたため今まで一度もデートに行ったことがなく、初めて女の子と2人でデートに出かける。

 それも好きな人と出かけるとなれば緊張もして、妙に気持ちが落ち着かない。

 なんとかそわそわする心を抑えようと深呼吸を繰り返すが、まったく収まる気配はなかった。

 そんなことをしながら少し待っていると舞は姿を現した。


「……っ」


 あまりの可愛さに思わず息を飲む。

 上は白の無地のTシャツに下は黒のロングスカート。首元はほんの少しだけ開き、その間からキラリと光るネックレス。耳には揺れる赤色のイヤリングがあった。

 彼女の白い肌が夏日に照らされている。そのきめ細かい肌は煌めき、服から露出した部分を艶かしく色気付かせている。

 一見地味そうな格好だが、舞が着ることで逆にその落ち着いたトーンが彼女を引き立たせ、彼女の優れた容姿を強烈に脳裏の印象に残させた。


「どうかしたの?」


 舞はきょとんと目をおおきくしている。

 くりくりとした瞳がさらに開かれ、驚いたような表情は普段の大人びた雰囲気から年相応のあどけなさが残る雰囲気に変わり、そのギャップがまた愛らしくなる。


「……いや、なんでもない」


 見惚れていたことなど言えるはずもなく、俺は誤魔化した。

 お洒落に無頓着な俺でも分かるほど想像以上に気合の入った服装にドキマギする気持ちを抑えて、舞の姿をもう一度見る。

 やはり、何度見ても見慣れることはなく、目を奪われそうになる程、彼女の服装は彼女にとても似合っていた。


 舞はくるくると髪をいじりながらこっちをチラチラ見てくる。

 服を見せびらかすようにときとぎ体を動かし、スカートをひらひらさせたりイヤリングを揺らしてみたりしている。


「どうかしたのか?」


 そんな不可解な行動に疑問を感じながら尋ねる。

 謎の行動の理由が思い当たらず、舞の行動が訳がわからない。


「……もう、いいわ」


 俺が尋ねると何故か舞は肩を落として落ち込んだ。

 はぁ、と吐息が聞こえてきそうなほどの落ち込む雰囲気には呆れた雰囲気も混ざっていた。

 半分諦めたような雰囲気にそれ以上尋ねることが出来ず、とりあえず話題を変えることにした。


「そうか、今日はどこに行く?」


「えっと……」


 少し恥ずかしそうに下を向き、ちらりとこっちに視線を送ってくる。

 どこか躊躇うようなそぶりで何回か口を開いては閉じることを繰り返している。

 明らかに何か言いたいことはあるのだろうが、言ってくれなければ伝わらない。


「どうした?」


「……え、映画行きたいんだけど、せっかくだしカップルぽいことしたいじゃない?」


 少しの間の後、早口で誤魔化すように話し出す舞。

 誘うことが恥ずかしかったのか、ほんのりと白い肌に赤みがさす。

 

「そうだな」


 映画に誘うことは恥ずかしいことなのだろうか?、そんな疑問がふと脳裏をよぎりながらも、一応納得して返事をした。


「そ、その……だからカップルシートに座ってみない……?」


 かぁっと顔を真っ赤に染めて、消え入りそうなほどか細く小さな声でそう零すと、すぐに俯いて顔を隠してしまった。


「っ!?わ、わかった……」


 そ、そういうことか!

 舞が何故恥ずかしそうにしていたのか理解する。

 カップルシート、噂では聞いたことがあったが、見たことも座ったことも一度もない。

 だがその名前が冠する通り、恋人向けの席なのは明らかだ。

 それを舞から誘ってくれた、という事実に嬉しくなり胸が躍る。

 もちろん、好きな人にそんなことを言われて断る理由がない。

 当然、了承して俺たちは、映画館に向かうことにした。


「あ、待って、楽」


「どうした?」


 歩き出そうとすると舞に引き止められる。

 声をかけられ振り向くと、俺の服の袖を申し訳程度に摘み、上目遣いにじっとこっちを見つめてきた。

 朱に染まった顔がやたらと目を引く。


「えっと……はい」


 躊躇うように目を左右にうろうろさせていたが、覚悟を決めたのか、真剣な眼差しでこっちを見つめ、ゆっくりと恐る恐るといったように、舞は手を差し出してきた。

 手を差し出してきた意味に思わずゴクリと生唾を飲み込む。


「……お、おう。これでいいのか?」


 緊張で心臓を高鳴らしながら、俺はおずおずと舞の手を重ねるようにして握った。

 一瞬、恋人繋ぎをするか迷ったが、俺には意気地がなく、ただ握り合うようにしてしまった。

 舞が恋人繋ぎを許してくれるのか不安で、恋人繋ぎで握ることが出来なかった。


 握られた最初こそパァっと嬉しいそうに顔を輝かせたが、俺が普通の繋ぎ方をしたことが気に入らなかったのか、頰をぷくりと膨らせ不満げな表情を見せてきた。


「な、なんだよ」


 普段の舞の雰囲気とは違う子供っぽい反応に、少しだけドキリとし、噛んでしまう。

 自分が舞のことを意識していることを悟られないよう、少しだけ冷たく言ってしまった。


「……それじゃあ、カップルっぽくないわ」


 舞はそう言って握り方を指を絡めるようにして、恋人繋ぎに変えてきた。


 指と指の間からじんわりと舞の体温が伝わってくる。

 恋人繋ぎは普通の繋ぎ方以上に距離が近くなる。

 普通の繋ぎ方と違う手の感覚がなお一層、俺が舞と手を繋いでいることを意識してきて、顔が熱くなるのを感じた。

 

 なぜ恋人たちがこの繋ぎ方を好むのか少しだけ分かった気がした。


「ふふふ」


 俺と繋いだ手を見て、満足げな表情で微かな笑みを見せてくる。

 ひらひらと華が舞い散るような笑顔は、幸せそのもので見ているこっちの胸までほんわりと柔らかく温かくなった。


「なに笑ってるんだよ」

 

 やはり舞のことを意識してしまい、つい冷たく言ってしまう。

 自分が相手のことを意識しているのを知られるのはやはり恥ずかしいのだ。

 それを誤魔化すために、逆のことをしてしまう。

 まあ、こんなことが出来るのは舞が自分が本当に冷たく言っているわけではないことを理解してくれていると思えるからなのだが。


「いいえ?恋人繋ぎってこんなにドキドキするんだって思って」


 赤く染まりながらも楽しげにそう舞は零した。

 際どい言葉を吐くその姿に俺はドキリとする。

 あざといと思うが、それでもやはり可愛いものは可愛いわけで、胸の高まりを抑えられるわけではない。

 落ち着こうとしても全く収まらず、ドキドキとうるさく鳴り響く。


「わ、わかったから、もう行くぞ」


 あまりに可憐な舞の姿を頭から振り払うように早口で捲し立て、俺は少し早足で動き出した。

 

 まったく、舞はもう少し発言に気をつけてほしい。

 彼女が発する一言に俺の心はいとも簡単に振り回されてしまうのだ。

 舞は正直な感想しか口にしないのを知っているから、余計に嬉しくなってしまう。

 

 俺は舞に気付かれないようににやけそうになる口元を引き締めた。


「はーい。今日は楽しみね」


 舞は少しだけおかしそうに笑った後、俺のあとをついくる。

 俺が舞の姿にときめいているのを察せられているように感じて微妙に居心地が悪い。

 察しのいい舞のことだから、少なくともドキリとしてしまったことには気付いたのだろう。そしてそれを誤魔化そうとしていることも。

 気恥ずかしさが心を襲ってくる。


「あ、そういえば、舞のその服、似合っているな」


 舞の姿があまりに可憐すぎて、服装を褒めるのを忘れるところだった。

 慌てて俺は、感じたことを伝えてやる。


 初めてのデートということで、雑誌やネットで色々予習をしてきた。

 その中に、『最初会ったら相手の服を褒めてあげる』という記述があったのだ。

 本当に意味があるのかは分からないが、やらないよりはいいだろうと思い、昨日から会ったら言うつもりでいたのだ。

 結果としては、舞の姿に見惚れてすぐに言うことは出来なかったのだが。

 まあ、伝えることは出来たのだし、及第点だろう。

 

「え!?そ、そう?ありがとう」


 服を褒めてあげると舞はかあっと頰を赤らめる。

 口元を緩め、目を細めて嬉しそうにはにかみながら礼を言ってきた。


 どうやら効果はあったらしい。

 舞の喜びに溢れた幸せそうな表情に自分も自然と笑みが零れた。


 何気ないひと時が楽しく愛おしい。

 一期一会という四字熟語があるように、出会いとは奇跡とも呼べるものだ。

 その中で彼女に出会い、仲良くなり、好きになる、それがどれほど幸せで代えがたいものか。

 滲み出る感情を噛みしめ、舞と繋いだ手の感覚を意識しながら映画館へと向かった。


 映画館に着き、中に入る。

 今日見るのは恋愛映画だ。最近CMでよく流れているもので、ちょくちょく見かけて気になっていたらしい。


「こ、これでいいのよね……?」

 

 券売機を前にして、不安げな声で俺に聞いてくる。

 心なしか緊張した表情でカップルシートの券を購入するので、不覚にも笑ってしまった。


 普段大人びて見えるからこそ、時折見せる年相応の雰囲気が一層魅力的になる。

 それが美少女でさらに自分の好きな人なら、なおさらその効果は強まった。

 

 自分達の見る映画がどの場所でやるのか確認し、その部屋へと入る。

 自分の座るカップルシートに到着すると、舞はスッとすぐに座った。


「ほら、楽も早く座ったら?」


 ぽんぽんと、舞の細く雪のように白い手で隣を叩いて急かしてくる。

 その仕草は柔らかく惹きつけられるような魅力を見せてくる。

 そんな何気ない一動作にさえときめき、ドキドキとうるさい心臓を押さえながら、俺は隣に座った。


 座ってみると、改めてカップルシートの意味を理解する。

 俺と舞の間に隔てるものは何もなく、俺の肩と舞の肩が触れ合いそうなほどの距離だ。

 想像以上に近く、舞の体温が伝わってきそうだ。


 こんなに近くて、は何も意識しないのだろうか?とふと思い、ちらりと横目に舞の姿を確認する。

 すると、隣で頰を赤らめて少しだけ俯いている舞の姿が目に入り、ますます俺の心臓はうるさくなった。

 あまりに可愛らしい姿に見惚れてしまう。


 舞がちらりとこっちを見てきて、髪の間から目が合ってしまった。

 思わず、パッと目を逸らしてしまう。

 だがやはり気になりもう一度隣を見ると、舞もまたこっちを見ていて、バッチリと目が合う。

 吸い込まれるような黒く澄んだ瞳に俺は目が離せなかった。

 見つめ合って数瞬、舞は少しだけ身体をこっちに寄せてきて、彼女の手で俺の耳を覆うようにした。


「こんなに近いと、少しドキドキするわね」


 漏れ出る吐息が耳をくすぐる。

 照れて赤くなりながら、小さく舞は俺の耳元で囁いた。

 ぞくっと背筋に走る快感にも似た痺れに、思わず息を飲む。

 だが堪えきれない快悦の綻びが口から出そうになった。

 

「っ!?あ、ああ、そうだな……」


 頰を赤らめて吐くあざとい言葉が俺の心臓を強く打ち付ける。

 あまりに甘く切ない言葉に自分の感情を誤魔化すことを忘れ、ただ俺は首肯することしかできなかった。

 そんな俺の反応を見て、素直に認めさせたことに満足したのか、舞は満足げな表情で口元を緩めた。

 

 今日の舞はいつも以上に積極的だ。

 何が彼女をそうさせているのか分からない。いや、薄らと分かってはいるのだが、それはあまりに自分に都合が良すぎる考えだ。

 舞が自分に好意を寄せてくれているなんてありえない。

 自分がそう思いたいと願っているから、そう感じてしまっているのだろう。

 まだ認める勇気も度胸も持つことが出来ず、俺は脳裏に浮かんだ考えを心の奥底で打ち消した。


 積極的な舞のせいでいつも以上に舞のことを意識してしまい、頭の中は真っ白で話す内容が思いつかず、しん、と沈黙が俺と舞の間に漂う。

 だがその沈黙に張り詰めた緊張はなく、舞はどこか楽しそうに隣で佇んでいた。

 しばらくすると、形容し難い妙な雰囲気の沈黙を破るように映画が始まった。


 映画の内容は高校生2人が春に出会い、いろんなイベントを経て付き合うというよくある話だった。

 世の中の人は皆、なんの変哲もない日常、当たり前が当たり前にある世界、そんな中で描かれる物語は偶然と運命の産物でしか起こり得ない奇跡の事象であることを無意識のうちに自覚しているからこそ、いつまで経ってもこのような物語を愛し、憧れ続るのだろう。


 2度目の人生を歩み、努力への後悔と未来への絶望を胸の内に刻み、愛する人は死期が近いかもしれない、そんな俺は、ごく普通の日常からかけ離れて歩んでいる。

 そんなごくありふれた物語とは程遠い世界にいるからこそ余計に、無難に誰もが思い描くこの物語に惹きつけられ、とても眩しかった。

 映画が終わると、なんとも言えない切なく痛い余韻と後味を残して映画館を出た。


「映画どうだった?」


「ええ、とても面白かったわ。本当に羨ましいくらい……」


 陽だまりの微笑みに一筋の影を落とし、沈んだ声で感想を述べる舞。

 彼女は現状の自分に嘆いているわけではない。

 自分には叶わないと知っているからこそ、絶対あり得ないが、もしかしたしたらあったであろう可能性を想像し、羨望し期待する。

 だが映画館で没頭したその世界は映画が終わると同時に失われ、現実に引き戻されると同時に実際とのずれを認識して、ふと冷静になったのだろう。


 彼女は誰もが歩む可能性があった普通な恋愛すら送れなかったのだ。そしてもう送れないで終わってしまうかもしれない。

 それはひどく酷で、18歳の少女にはあまりに辛い。

 青春という人生を彩る華のような時代を強制的に失わされてしまった彼女は、それでも前を向うと笑っていた。

 そんな強く眩しくも痛々しい笑顔なんて見ていられない。

 俺は特に何も言い返すことなくすぐ次の話に持ち替えた。


「……そうか、時間も時間だしご飯食べながら感想言い合おうぜ」


「……ええ、そうね」


 多少強引な話題変換に戸惑った表情だったが、ゆっくりと優しく微笑んで承諾してくれた。

 おそらく俺の意図など気づいているだろう。

 舞の包み込むような微笑みがそう告げていた。


「この先にオススメの店があるんだ。そこでいいか?」


 昨日下調べをしておいたお店を勧めてみる。

 一応、ネットで調べた時は高評価がついていたいたし、沢山の口コミでも評判は良かった。

 せっかくの貴重なデートだ。少しでも彼女には良い思いをして欲しいし、楽しんで欲しい。俺が好きな彼女の笑顔を見たくて、昨日ずっと調べていたのだ。


「いいわよ、ふふふ、どんなお店なのか楽しみだわ」


 さっきまでの沈んだ声は消え去り、明るく弾んだ声で舞は了承してくれた。

 彼女なりに今日楽しもうとしているのだろう。

 彼女は本当に強い。普通の人なら挫けそうになる現実を受け入れ、立ち向かい、歩み続けている。

 沈んだままでは何も変わらないことを理解しているのだ。そうやっていつでも明るくあろうとする姿が俺の憧れる彼女らしくて、凄く愛しく可愛いと思ってしまった。


「じゃあ行きましょう。はい」


 すぐ店へと向かうのかと思えば、俺の隣でさっきと同じようにまたすらりとした手を差し出してくる。

 何度見ても見慣れない彫刻のような惹きつけられる美の結晶のような白い肌の手に、俺はまたしても見惚れてしまった。


「ま、また手を繋ぐのか?」


 まさかまた繋ぐ気だったとは思わず、つい聞いてしまう。

 彼女が自分と手を繋ぐのを気に入ってくれている、そのにやけそうになる程嬉しい事実をもう一度確認したくて尋ねてしまったのだ。

 

「私と手を繋ぐのは嫌?」


 舞は俺が嫌がっていると思ったのか、しょぼんと肩を落として落ち込んだ。

 眉をへにゃりと下げ、伏し目がちにちらりとこちらを覗いてくる様子は、庇護欲をくすぐられた。

 見ている俺でもわかりやすいほどの落ち込み様に、慌てて取り繕う。


「い、嫌じゃない。ただ少し恥ずかしかっただけだ」


「ふふふ、そうなの?私も恥ずかしいからお互い様ね」


 そう笑って恋人繋ぎで手を握ってきた。

 じんわりと包み込むような温かさが手のひらから伝わってくる。

 絡み合う舞の指は細く柔らかで、自分のゴツゴツした男の手とは全く違い、舞が女の子であることを強く意識させられる。


 慣れない手繋ぎにドキドキしている俺をよそに、舞は繋いだ手を見て楽しげな表情で口元を緩めていた。


「全然恥ずかしがってるように見えない」


「あら、心の中ではドキドキしているのよ?男の子の手を繋いでいるんですもの。恥ずかしさだってあるわ」


「本当かよ」


 恥ずかしいと口にはしているが、やはり舞は余裕そうな表情をしていて手を繋いでいることに動揺している様には思えない。

 自分ばかり意識していることが少しだけ悔しく、俺はそれ以上言っても自分の気持ちがバレてしまいそうで反論するのをやめた。

 もうこの話題に触れさせないように、逃げるようにして俺は舞の手を引き出し歩き出した。

 手を引かれる舞の顔にはやはり楽しそうに笑みが浮かんでいた。


 何気ない会話を楽しみながら歩くと、10分くらいして目的の場所に着く。

 調べた通り、少しお洒落なイタリア料理のお店だった。

 お店に着き、中に入る。店員に案内されて席に座ると早速料理を選び始めた。


「……んー」


 舞はしばらくの間メニューを見てずっと悩み続けている。

 口を少し突き出すようにしているので、彼女の赤く柔らかそうな唇が強調され無意識のうちに目を惹かれてしまう。

 彼女の白い肌と対照的な赤い唇は照明の光を反射し艶々と色っぽく光り、ぷるんとした柔らかさをより引き立てている。

 吸い込まれそうなほど甘い魅力を放つ唇を突き出して悩む舞の姿は、少し幼い少女のようで可愛く、つい口元を緩ませながら眺めていた。


 いつまでも少し幼い様子の舞を眺めていたかったが、あまりにもいつまでもメニューを眺めて悩み続けているので、さすがに声をかける。


「どれで悩んでいるんだ?」


「これとこれ。どっちも美味しそうで決められないのよ。決めるからもう少しだけ待ってくれない?」


 俺が尋ねると舞は持っていたメニュー表を広げて俺にも見えるようにして、悩んでいる二つの品を指し示した。

 そしてお願いするように両手を胸の前に合わせると、上目遣いに透き通るような瞳を俺の目と合わせてくる。

 美少女のそんな姿に思わず、ドキリと胸が鳴る。

 あざとくも可愛い仕草を見せられればもちろん否定などできるはずがなく、舞の願いを叶えたくなってしまった。


「っ!?じゃ、じゃあ、両方注文しろよ。片方は俺が食べて少しあげるから」


 せっかくこんなに悩むほど楽しんでもらっているのだ。だったら両方食べて喜んで欲しい、そう思い勧めてみる。

 

「いいの?」


 俺の発言が意外だったのか、きょとんと目を丸くして固まっている。

 くりくりとした愛らしく大きな瞳が一層大きく見開かれている姿は、小動物的でかまいたくなる衝動に駆られ、つい手を伸ばしそうになる。

 腕をピクッと無意識に動かしてしまったところで我に帰り、自分が何をしようとしていたか自覚し羞恥が込み上げてくるのを誤魔化すように俺は少しだけ冷たく言い放った。


「いいから言っているんだ」


「ふふふ、ありがとう。じゃあそうさせてもらうわ」


 舞は口元を緩め、はにかみながら礼を言った。

 俺はそんな礼を言う舞の姿に少しだけ照れくさくなり、ついっと思わず目を舞から逸らした。

 舞は俺の発言が嬉しかったのかいつまでもにやにやとしながらこっちを見つめてくるので、ますます恥ずかしくなる。

 そんなに見つめてくるのを止めるよう言おうとも思ったが、舞はとても幸せそうだったので言う気は失われてしまった。


 決めた2つのメニュー注文し、少し待っていると先に飲み物が運ばれてきた。

 店員によって丁寧に机に置かれ、店員は去っていった。

 

 話したり歩いたりしたことで喉が渇いていたこともあり、俺はストローが刺さった自分の飲み物を吸い始める。

 舞も同じように彼女自身が頼んだ飲み物を一口飲んでいた。


「楽は何を頼んだの?」


 舞はじっと俺が飲んでいる姿を見つめ何か思いついたようにハッとした表情を見せる。そのままニヒッと口角を上げてそう聞いてきた。

 何故か尋ねてきた舞は少しだけ頰を朱に染めて、悪戯っ子のような笑みを浮かべている。


「ミルクティーだけど?」

 

 舞の表情が不可解で内心で首を傾げながらも素直に答えておく。

 すると、舞がとんでもないことを言い出した。


「一口ちょうだい?」


「っ!?い、いいけど……」


 こいつは何を言っているんだ!?


  舞の発言に飲んでいた飲み物を思わず吹き出しそうになる。むせそうになるのを堪えながらなんとか答えた。

 明らかに間接キスを狙っているとしか思えない発言に動揺してしまい、ドギマギして噛んでしまい不自然な話し方になってしまう。

 間接キスを意識するあまり顔が熱くなりそうなりながら、飲んでいたミルクティーを渡してやる。


「ふふふ、間接キスしちゃった」


 脳裏に浮かんでいた間接キスを読んだような発言をすると、大人びた色気で妖艶な笑みを見せてきた。

 小悪魔的な微笑みは、子供のあどけなさと大人の色気を重ね合わせ持ち、相反する2つの雰囲気が互いの魅力を引きてて合うことで、俺の頭を真白にさせるほどのぞくりと背中を撫で付ける魅力を魅せてきた。

 忘れがたいほど強烈な微笑みを脳裏に焼き付けられ、ドキリと胸が強く高鳴る。


「舞のも一口寄越せよ」


 舞の計画通り息を飲むほどの美艶に自分の心が振り回されたことが少し悔しく、仕返しをしてやろうと机に置かれた舞が口をつけた舞の飲み物を奪い一口飲む。

 舞の飲み物はアイスティーでスッとするさっぱりした味がした。


「これでおあいこだな」


 少しは意識しろ、と今日これまでやられた分も含めてやり返したと思い、満足しながらにやりと笑って舞の様子を伺う。

すると舞は顔を真っ赤に染めて固まっていた。


「な、なんで……」


自分で言っていたくせになんで照れているんだよ。


 多少意識してくれればいい、という程度の期待だったが、予想外の舞の反応に自分が動揺してしまう。

 余裕なさげに耳まで真っ赤にしている舞の姿はあまりに可愛く、甘く胸がキュッと締め付けられた。


「自分で言ったら、意識しちゃって……。楽が、私が口つけたのを飲んでいるんだなって思ったら、恥ずかしくなってしまったわ……」


 伏し目がちにちらちらとこちらを見ながら、ぽつりぽつりと想いを零す。

 たじたじになりながら甘く蕩けるような声で小さく呟くと、限界を迎えたようで頰を茜色に染めて俺から目を逸らすようにして俯いて黙ってしまった。


 何か話そうと口を開くが、俺もドキドキして頭の中は真白でまったく考えがまとまらず声にならない。

 舞と話すため前を向くたび、舞の顔を紅くして俯く姿が目に入り言葉を失ってしまう。


 結局何も話すことができず、俺と舞は2人で俯いて黙っていた。

 妙な気恥ずかしさと慣れない甘く切ない雰囲気を漂わせた沈黙がしばらく続く。

 その雰囲気を打ち消す方法は分からず、店員が料理を運んでくるまで落ち着かない雰囲気は続いた。


「お待たせしました」


 店員の声とともに沈黙は破られ、緊張で強張った体から力が抜ける。うるさく鳴っていた心臓も落ち着き、冷静さを取り戻した。

 息苦しく乱れた呼吸を整えながら、頼んだ料理が机に並べられていくのを見守る。


「以上でお揃いでしょうか?」


「はい」


「ごゆっくりどうぞ」


 そう言い残して去っていく店員を見送り、俺は舞と向かい合った。

 舞はもう待ちきれないといった表情で目の前に置かれた料理を見ている。

 目をキラキラと輝かせ、ほんの少しだけ口元を緩めている。年相応の女の子らしい反応が微笑ましく、見ているこっちまで笑みが溢れてしまった。


「じゃあ、食べるか」


「そうね、いただきます!」


 俺がそう声をかけると嬉しそうに顔を輝かせ、早速舞は一口パクリと頬張った。

 もぐもぐと咀嚼している間、舞は目を細め口角を上げながら幸せそうに料理を味わっている。


「ん〜!!とても美味しいわ!」


 ゴクンッと飲み込み食べ終えた瞬間、舞はパァっと目を輝かせ、甘く蕩けるような満面の笑みを浮かべてくれた。


 どうやら口に合ったらしい。


 舞の幸せそうなゆるゆるの様子に安心し、調べた甲斐があったと思いながら俺も食べ始めた。

 舞が悩んでいた品は、『海老と貝の海鮮グラタン』と『4種のチーズグラタン』だ。

 俺の前には海老と貝の海鮮グラタンがあるので、それをスプーンですくう。

 口に含んだ瞬間、クリームソースのコクと海鮮のダシが効いた豊かな風味が一気広がり、口一杯に満たされる。 

 あまり料理に詳しくない自分でも普通のグラタンと違いが分かるほど美味しく、舞が幸せそうな笑顔を浮かべたことに納得した。

 その後も料理の美味しさに酔いしれながら食べ続けた。

 

「楽、私の食べてみる?」


 お互いに運ばれてきた料理を食べていると、舞が声をかけてきた。


「ああ、そういえばそうだったな。食べるぞ」

 

 料理が想像以上に美味しく、無我夢中で食べていたせいで舞との約束を忘れていた。

 言われて、そういえば交換する約束をしていたことを思い出す。

 これだけ美味しい料理なのだ、もう一つの料理も食べたくなる。

 舞の提案を快く引き受けようと承諾する。

 

「ふふふ、じゃあ、あーん」


 舞はにやにやといたずらっ子のような笑みを浮かべながら、そう言ってスプーンですくって俺の口元へと差し出してきた。


「い、いや……」


 突然何言い出しているんだ!?


 とんでもないことを言い出した舞に動揺し、心が乱れる。

 古今東西カップルの代名詞とも呼べるあーんをまさか自分がされるとは思わず、驚きを隠せない。

 あーんをしてくれるのは嬉しいが、それよりも周りからの視線が気になり恥ずかしすぎる。

 顔が熱くなるのを自覚しながら、差し出されたグラタンを前にして躊躇してしまう。


「これもカップルっぽいことでしょ?私の願いを叶えてくれるって言った楽はどこにいっちゃったのかしら?」


 からかうようににやりと笑って見てくる舞。

 俺がスプーンの前で固まっているのが面白いのか、その表情は楽しげだ。

 弾んだ声で惚けたように言う舞は華が舞い散るように明るく眩しく、一層彼女の無邪気さや陽気さを魅力的に映えさせていた。


「な〜んてね。冗談よ、冗談」


 俺を赤面させたことに満足したのか、差し出したスプーンをもどそうとする。

 舞は冗談と言っているが、やはり憧れてはいるのだろう。そうでなければあーんの発想は出てこない。

 出来るだけ彼女の願いを叶えたい俺が拒否などできるはずがなく、こみ上げる羞恥を押さえ込み、差し出されたスプーンを咥えた。


「え?!冗談だったのに…」


 舞は願いを叶えてもらい満足して喜ぶかと思ったが、なぜか驚いた声をあげる。

 そのまま顔をボワッと赤くすると、俯いてしまった。 

 舞の不可解な行動が理解できず、内心首を傾げながら声をかけてやる。


「舞がカップルらしいことをしたいと言ったんだろ。出来る限りのことは付き合ってやるよ」


 彼女が願うならそれを叶えてあげるのが俺の役目だ。

 一度目で彼女が亡くなってしまったという記憶はない。つまり今回の手術で死んでしまうことはないと思いたいが、既に前回とは全く違う方向に進んでいることを考えると何が起こるかわからない。

 少しでも彼女の心残りをなくして欲しく、俺は力になりたくなってしまうのだ。

 まあ、好きな人の願いだから、というのもあるのだが。

 

「そ、そう……。あ、ありがとう」


 舞はちらっとこっちを向いて礼を言ってくれたが、俺と目を合わせているのが耐えきれないといった様子ですぐにまた俯いてしまう。

 耳まで真っ赤にして俯く姿に目を惹かれる。

 余裕なさげに動揺している様子に少し嗜虐心をくすぐられ、仕返しをしたくなった。


「ほら、今度は舞の番だぞ?」


 にやけそうになる口元を引き締めながら、舞を追い込む。

 内心はからかう気満々だが悟られないように、真顔で真剣な雰囲気を醸し出す。

 こうすることで断りにくくさせ、舞にも恥ずかしい思いをさせてやるのだ。


「え?え?!さ、さすがに恥ずかしいのだけれど……」

 

 俺の言葉に素っ頓狂な声を上げて驚く舞。

 俯いていた顔を上げ、元から大きなくりくりとした瞳はさらに大きく見開かれ、幼い少女のような純心な驚きで固まっている。

 その後、俺の言葉を理解したのか徐々に顔を茜色に染めて耳まで真っ赤にして、チラチラと周りを気にし始めた。


「なんだ、人には食べさせておいて、自分は食べてくれないのか?」


 俺だって恥ずかしい思いをしたのだ。舞にも少しは俺の気持ちを分かってもらわないとな。


 俺は舞の目を見つめ、納得するしかないように追い込んでいく。目が合った舞は、うろうろと目を左右に動かし逸らそうとする。

 あまりの動揺っぷりが見ていて面白い。

 

「そ、それは楽が勝手に……。わ、分かったわよ!」

 

 少しの間、俺が差し出したスプーンを前にして躊躇していたが、決意したかのようにこっちを見つめ返してくる。

 途中もごもごと聞こえなかったが、覚悟した表情で半分やけくそな感じでそう答えてきた。

 顔を真っ赤にしてちらちらと周りを見ながら、俺の方へ近づいてくる。

 ゆっくりゆっくりと俺の差し出したスプーンに乗った料理を口に含み頬張った。


「どうだ?」


 顔一面を真っ赤にしてもぐもぐと口を動かしている舞に尋ねる。

 舞は身体を縮め込み大人しくして、俺があげたグラタンを味わっていた。


「お、美味しいわ……」

 

 口に含んだグラタンを食べ終えた舞はようやく口を開き、余裕なさげにそれだけ呟いて静かになってしまった。

 恥ずかしさのためかこちらを見ようとはせず、顔を赤くしたままひたすら目に前の自分のグラタンを頬張っていた。

 珍しい慌てふためく舞の姿に満足しながら、俺も自分のを食べ進めた。

 量はちょうどよく、お互いが食べ終わる頃には程よく腹が膨れていた。


「次はどこに行く?」


 ご飯を食べ終え外に出て、舞に尋ねる。


「んー、特に決めてないないのだけど、楽の歌を聞きたいわ」


 尋ねられた舞は、その魅惑的な桜色の唇に人差し指を当てながら考えるように上を向く。

 悩んでいる時の癖なのか、唇を突き出しキス待ちのような仕草をしながら考えていた。

 結局、最後ははにかむような笑顔を浮かべていつものお願いをしてきた。


「またかよ」


 予想どおりというか期待どおりというか、いつものお願いに内心嬉しく思いながら苦笑する。

 一度は自信とやる気を失っていた自分の歌声を受け入れてくれていることには、やはり得難い喜びと安心感が込み上げてくる。

 舞の言葉の力を改めて実感した。


「それはそうよ、楽の歌声は何度聴いても飽きないわ。むしろますます好きになっていっているくらいよ」


 当然のように肯き、幸せそうな笑顔を浮かべて呟く舞。

 情感のこもった声と柔らかい表情に疑う余地はなく、彼女が本気で思ってくれているのが伝わってくる。


「仕方ないな。あんまり人のいないところの方がいいから、俺のいつも歌ってた場所に連れてくな」


 彼女が何気なく言った好きという言葉にドキリとしたが、バレないよう出来るだけ平然に努めながら返事する。

 見惚れそうになる程眩しい笑顔に嬉しく思いながら、1度目で中学時代に練習していた公園へと歩みを進めた。

 歩き出すとすぐに隣に並ぶように舞がやってくる。心なしか口角を上げていて楽しそうだ。


「随分楽しそうだな」


そんな舞の様子にふと尋ねる。


「ええ、楽と一緒にいるととても楽しいわ。心が湧き立つみたいに胸躍るの」


 弾んだ声で話す舞は朗らかな陽気のような雰囲気を纏い、柔らかく周囲を巻き込んで俺までも包み込んだ。

 じんわりと心の奥底まで舞の柔和な言葉が染み込んでくる。

 ほんわりとした温かさで心が満たされた。


「そ、そうか」


 なんだか無性に照れ臭くなり、素っ気なく返事をしてしまう。

 恥ずかしさから逃れようとするこの気持ちはどこか甘く、そして切なかった。


「ちょっと?信じてないでしょ?本気で言っているのよ?」


 俺が疑っていると思ったのか、不満げに頰を膨らませてじっと見つめてくる。

 きっと怒っているのだろうが、頰を膨らませた顔は愛らしく全く怖くない。

 むしろ小動物的で、撫で回したくなるほどの可愛さがあった。


「いや、別にそういうわけじゃ…」


 舞の勘違いを慌てて否定しようとすると、さらに舞は芯の通った強くも甘い声で続けてきた。


「本当なんだから!楽と話していると楽しいし、ふわふわしてる感じがするの。それにドキドキもするし…」


 そこまで言うとハッと自分が何を言っているのか自覚したらしく、顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 無意識のうちに告白紛いのセリフを吐いていたことが余程恥ずかしかったのだろう。普段は白い彼女の首まで真っ赤になっている。

 そんな舞の様子に自分まで頰に熱が篭るのを感じながら、妙な雰囲気を吹き飛ばすように強引に話題を変えた。


「わ、分かった。これからも舞には楽しんでもらえるよう頑張る。まずは手始めにこの後行く公園を楽しみにしていてくれ」


 恥ずかしがって俯く舞はあまりに可愛く直視できない。

 照れる舞はどこか扇情的で、見ると胸がうるさく鳴ってしまう。

 これ以上自分の顔に熱が籠もらないよう、少しだけ右上を見るようにして、舞のことを視線から逸らしながら俺はなんとか言葉を吐いた。


「ふふふ、そんなに言うなんて、どんな公園なのか楽しみだわ」


 俺の言葉に桜舞は頰に桜色を残しながら、優しく微笑んだ。

 陽だまりの太陽のように笑う舞は、強く明るい彼女自身を表しているようだった。


「楽、まだ?」


 しばらく歩いていると隣からそんな声をかけられた。


「もう少しだ。悪いな、そんな靴なのに結構歩かせて」


 ちらっと舞の靴に視線を送る。


 舞の履いている靴はそこまで高くはないが、ヒールがあり、長く歩くのは良くないだろう。


 昨日読んだ記事の一つに書いてあったことを思い出して謝罪する。

 昨日の記事に、ヒールを履いている時は長距離を歩かせないようにすると書いてあったのだ。

 まさか、中学時代に行った少し遠い公園に行くとは思わず、ヒールの彼女を連れまわしてしまった。

 ヒールというものは歩くのが大変ならしいので、申し訳なさが募る。


「ふふふ、心配してくれてありがとう。大丈夫よ、楽が楽しみにしててって言うほどの公園を見られるなら平気よ」


 そんな俺の心配を察してか、気を遣う言葉を言ってくれた。

 理解できなかったが舞はなぜか嬉しそうにはにかんで微笑んでいた。


 そんな何気ない会話を続けていた時だった。


「あっ……」


 舞が変な声を出したかと思えば、視界の端に映っていた舞の姿が消えた。


「おい!」


 消えた理由を瞬時に悟り、慌てて舞の身体を抑えようとするが、俺の手は空を切り、虚しく何も掴むことは出来ない。

 舞は躓いた勢いのまま膝から落ち、地面に手をついた。


「大丈夫か!?」


 突然の出来事に動揺し心臓がうるさく鳴り響く。

 突然の出来事に頭が真っ白になりそうになりながら、急いで舞のもとへ駆け寄った。


「……っ」


 舞が痛みで顔を歪めながらなんとか起き上がろうとするので、舞の細く折れそうな手を取って起きるのを手助けしてやる。

 舞は痛みを堪えるようにぎゅっと俺の手を強く握りしめてきた。


「うわ……、凄い痛そうだな……」


 起き上がらせると、舞の膝は擦りむけ赤く濁った血が滲み出ていた。

 舞のきめ細かい雪のような白い足と怪我の生黒い血が対照的でより一層痛々しさを強く感じさせてくる。

 あまりの痛々しさに見ているこっちまで痛みが伝わってきそうだ。


「……ええ、まあ。でも、平気よ。このぐらいなら放っておけば乾いて治るわ」


 まだ痛んでいるはずなのに無理に平気そうな顔を作ってそう言ってくる舞。

 痛みのせいか口元は引き攣り目尻に涙を浮かべているので、強がっているのは丸わかりだ。

 そんな我慢している姿を見て、何もしないでいられるわけがない。


「馬鹿言うな。女の子なんだから傷が残ったらどうするんだ?公園までもう少しだからそこまで運んでやるから。ほら」


 せっかくの綺麗な肌に傷跡なんて残ったら大変なので、腰を下ろして背中に乗るよう促す。

 歩くと皮膚が動くので、傷口が広がる可能性があるし痛みもより強く出てくるかもしれない。

 舞の体を気遣った俺は、半分無意識におんぶをすることを選択した。


「え、自分で歩けるけど……」


 舞はしゃがんだ俺に背中を前にして躊躇うような口振りを見せてくる。

 大方、俺に迷惑がかかることを気にしているのだろう。

 舞とはそういう奴なのだ。基本的に優しく思いやりがあり、人に気を遣える人間なのだ。そんな温和で明るい彼女は、譲れない強い芯のようなものを持っているからより一層魅力的なのだ。

 そんな彼女は少し不器用で、頼ることが基本的に苦手だ。

 強い彼女にとって頼ることは弱いことと思っているのだろうが、頼ることは弱いことじゃない。

 それを伝えたくて、俺は手を差し伸べたくなってしまうのだ。

 強い彼女に頼ることを教えたくて、俺は彼女を助けてしまうのだ。

 

「いいから、大人しくおぶされておけ」


 まだ何かを言おうとする舞を無視してさらに急かす。

 強引に言えば受け入れることを知っている俺は、あえてそうすることで彼女を頷かせる。

 

「じゃ、じゃあ……」


 背後から緊張し上擦ったような声がかかると共に、背中に重さが乗った。

 じんわりと滲むような人肌の温かさが背中から伝わってくる。

 触れ合う体の柔らかさが想像以上で、精神が揺さぶられる。

 背中から回された腕が自分の体に絡みつき、ぎゅっとしがみつかれた。


「しっかり捕まっていろよ」


 舞の重みを感じながら俺はすぐに怪我の処置をするため、急いで公園へと向かった。


「じゃあここに座って待っていてくれ」


 近くにコンビニがあったことを思い出した俺は、公園に着くと舞をベンチに座らせて走ってコンビニへと向かった。


「……水と消毒液と絆創膏、これでいいか」


 応急処置に必要そうなものを買って急いで舞の待つ公園へと戻る。


「はぁっ、はぁっ、……大丈夫か!?」

 

 公園に置いてきた舞のことが心配で、自然と歩く足は早くなり、最後は駆け足になった。

 駆け足で戻った俺はベンチに座る舞に声をかける。

 背後から声をかけると、舞はまん丸と目を大きく見開いて驚いたようにしながら振り向いた。


「……どうしたの?そんなに息を切らして?」


「いや……、舞の怪我が心配で……」


  だんだんと冷静さを取り戻し、自分がどれだけ慌てていたかを自覚する。

 自分が必死になっていたことを知られ、恥ずかしさが込み上げてきた。


「……あ、ありがとう。そんなに心配してくれるなんて嬉しいわ」


 舞は少しだけ俯く。そのまま上目遣いにほのかに頰を赤みを宿らせ、優しく微笑んできた。

 緩ませた口元が印象的で、つい目を惹かれる。甘く蕩けるような笑顔に思わず見惚れてしまった。


「……ほ、ほら、足見せろ。応急処置してやるから」


 見惚れてしまったことが気恥ずかしく、早口でまくし立てる。


「……あ、足!?」


 俺の言葉になぜか驚いたように慌てた声を上げる舞。

 頰が舞のさっきまでの桜色から、かあっと一瞬で真っ赤に染まる。

 目をまん丸にして固まってしまった。


「そりゃそうだろ、怪我してるんだから」


 なぜそんなに驚いたのか分からないが、応急処置は早くしたほうがいいと思うので、真剣な目で舞を見詰める。


「……わ、分かったわ」


 口元をきゅっと結び、目だけが緊張したようにうろうろも左右に彷徨わせている。

 少しの間の後、さっきよりもさらに茜色に頰を染めながら決意した表情を浮かべた。

 舞はその細く白い手でロングスカートを摘み持ち上げる。

 ゆっくり、ゆっくりと持ち上げ、徐々に隠されていた艶かしく見惚れるほど美しい足が現れ始めた。

 そして怪我した膝まで露出させるとロングスカートの生地をくしゃっと握りしめ、上目遣いにこっちを見つめてきた。


「……ど、どうぞ……」


 細く柔らかそうな生足。

 きめ細かい肌は夏日に照らされキラキラと煌めいているように見えるほど白い。

 普段隠されていて見えないからこそ余計に情欲を掻き立てられ、思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまう。


「……ら、楽?」


 俺がぼーっと立ち尽くしていることを不思議に思ったのだろう、舞は上擦らせながら声をかけてきた。

 頰を真っ赤に染めて脚を見せながら上目遣いに見つめてくる姿はあまりに扇情的で、心臓に悪い。

 

「わ、悪い、今からやるから」


 舞の声に意識を取り戻す。煩悩を振り払うように首を振りながら俺は応急処置に取りかかった。


「……ねぇ、楽って本当に優しいよね」


「なんだよ、急に」


 頭上からふんわりと包み込むような、温かくしみじみとした声が降りかかる。

 水で洗ったり傷口を消毒したりなど、応急処置をしていると舞が声をかけてきた。


「前から思っていたのよ、楽って本当に優しい人だなって」


 怪我を治療しながら舞の様子を伺うと、舞は思いを零すようにポツポツと言葉を口にしていた。

 それは、何か込み上げたものを打ち明けるようであり、俺の心にスッと染み込んできた。


「そんなことない」


 すかさず俺は否定する。

 そんな温かい声で言わないで欲しい。自分の醜さを自覚して逃げてしまいたくなる。

 そもそも俺はそんな綺麗な人間じゃない。挫折し、心を折られ、諦めに諦観して逃げた俺にそんな優しい言葉をかけられる資格はない。

 聖人君子のような慈悲深い人でもないし、俺はただ救われた分を感謝として返したくて、舞に接しているに過ぎない。

 誰かれ構わず優しくできるような出来た人間なんかじゃない。相手が舞だから優しくできるし、助けたいと思えるのだ。

 そこにはどうしようもない下心も含まれているし、義理のための思いもある。

 だから舞が思うような優しい俺は、偽りの虚像に過ぎないのだ。


「そんなことあるわ、現にこうして私の膝の怪我を心配して治療してくれているし。コンビニから戻ってきた時、あんなに必死な姿で来てくれて凄い嬉しかったのよ?」


 舞は俺の否定にもめげずに、まだ温かい言葉をかけ続ける。それが嬉しくもあり辛く痛い。

 所詮自分が偽善者だと分かっていながらも舞の優しい言葉に喜んでしまう。

 何か特別な意味があると思って期待してしまう。そんな自分が嫌になる。

 どんなに頭で理解し納得していても心が動いてしまうのだ。それは一種の呪いのようだ。


「それは、舞が怪我したから……」


「ねぇ、なんで楽はそんなに私に優しくしてくれるの?こんな無理やりに一緒にいてもらっているのに。本当ならもっと嫌って愛想を尽かされてもおかしくないのに……」


 あまりに痛々しい顔。

 舞は俯き、唇を噛みしめるように顎に力を入れている。

 言葉の端々に宿る懺悔の重みが俺の心に深く強くのしかかった。


 彼女はずっと気にしていたのだろう。俺のことを強引に誘ったことを。

 例え、自分のやりたいことを全部やると決意していても、元は心優しい女の子。そんな彼女が強引に誘ったことを気にしないはずがない。

 多少なりとも親しくなればそれだけ情も湧いてくるはずだし、そのせいで余計に強引に誘ったことへの罪悪感が増しているのだろう。


 彼女にそんな落ち込んだ顔は似合わない。

 彼女には笑っていて欲しいのだ。いつもの陽だまりの笑顔で、包み込むような柔らかい声で、人を惹きつける甘い仕草で、彼女にはそうあって欲しいのだ。

 

「無理やりじゃない。俺が一緒に居たくて一緒にいるんだ」


 最初こそ嫌な奴だと思ったが 接してみれば彼女の人柄の良さはすぐに分かった。

 そもそもそんなに嫌ならずっと一緒にいるはずがない。

 俺が望んでいるからそばにいるのだ。

 少しでも彼女の笑顔が見たくて、少しでも長く彼女の隣にいたくて、俺が選んでそうしているのだ。

 

「嘘よ、そんなの理由がないじゃない。歌いたくないって言っていたのに、それを無理に何回も歌わせたりしているのに。離れるのが当然よ」


 そんなの好きだからに決まっている。好きな人と一緒に居たいことに理由なんてあるわけない。でもこの気持ちを伝えるわけにはいかない。


ーーーーだから俺はもう一つの理由を言うことにした。


「俺、舞に感謝しているんだ」


「……感謝?」


 唐突な発言に舞はコテンと首を傾げる。

 彼女のくりくりとした瞳が丸く大きく開かれ、キョトンとしている姿はとても愛らしく、愛おしく思ってしまう。

 

 確かに俺は舞のことが好きだ。

 どうしようもなく今にも溢れそうなくらい抑え切れないほど彼女のことが好きだ。

 そして俺はそれ以上に彼女に感謝をしているのだ。


「ああ、感謝だ。出会った時は確かに俺は歌が嫌いだった。でも歌う楽しさや喜びを思い出させてくれたのはお前だよ、舞。だから感謝しているんだ」


 そう、彼女がいなければ俺はつまらない2度目の人生を歩んでいただろう。

 現に彼女と出会うまで、俺はなにをしても燃え上がることはできず、熱中するものはなく、灰色な日常を送っていた。

 そんな俺の日常に彩りを与えてくれたのは舞だ。


 歌うことがどれほど楽しく俺の生き甲斐であったか、もう十何年もの間忘れていたそのことを彼女は思い出させてくれた。

 俺の腐った心や後悔、折れた生き方それらを癒してくれたのも彼女だ。


 こんなことは誰にでも出来ることではない。人によっては一生治らず、癒えない傷として残り続ける人もいるだろう。

 そんな中、俺は癒された。それを感謝せずにいられないわけがない。


「そんなの……、信じられない。私は楽に全然何もしてあげてない。ただ私の欲のためにあなたを利用しただけ」


「……」


 俺が言葉で自分の気持ちを伝えようとしても彼女は信じようとしない。

 そりゃあそうだ。相手の思いを変えるなんてそんな簡単に出来ることじゃない。

 思いを変えるなんてことは、限られた一部の人間にしか出来ない。それこそ彼女のような強い人でなければならないのだ。

 だが俺にはその才能はない。俺のような逃げ続けてきた奴が言ったところで心の底には刺さらないし、届かない。

 俺の言葉では届かない。言葉でこの感謝の気持ちは伝えられない。


 ああ、また折れそうになる。どうして想いを伝えられないんだ。こんなにも伝えたい想いはたくさんあるというのに。


 届いて欲しい。届けたい。それだけは確かな俺の想いで、強く願うもので、だけど言葉では叶えられない。


 言葉なんてものは不完全だ。感情や想いを正確に伝えられるものではなく、そこには解釈の齟齬が生じてありのままには伝わらない。


 それでも伝えなくちゃならない。それが今彼女にしてあげられる俺の唯一のことだ。

 感謝を伝えなくてはならない。俺がどれだけ君に救われたかを届けなければない。


 言葉では届かないというなら何で届ければいい?


 簡単だ。俺にあるたった一つのもの。舞によって救われたもの。俺の大好きな人が認めてくれたもの。彼女が意を決して震える声で強くその想いを乗せて褒めてくれたもの。


ーーーーさあ、届けよう。舞が見つけてくれたこの歌で。


「ほら、立て。今からとっておきの場所に連れて行ってやる」


 既に舞の脚の応急処置は終えていた。舞を立たせてその手を引き、どんどん奥へと進む。


「ちょっ、ちょっと!?とっておきってこの公園じゃないの?」


「ここだけど場所が違うんだ」


 そのまま突き進み、草木の茂みの間を抜けていく。

 久しぶりにきたせいで足場は悪いが、そんなことを気にせずグイグイと舞の手を引っ張って進んでいく。

 そのままの勢いでひらけた場所まで突き抜けた。


「ほら、ここだ」


「えっ……」


 目の前に広がっているのは街を一望できる景色。

 夏の青空から夕焼けによって赤く染まり始めかけている景色は、どこか失われていくようで物寂しい。

 だがそれ以上に透き通るように綺麗で、その赤と青の対照的な色合いが幻想的だった。


「ほら、そこに座れ」


 景色を見て言葉を失っている舞を景色を見渡せるベンチに座らせる。

 そして俺はそんな舞と景色の間に立ち、景色を背景にするようにして舞と向かい合った。


「一体なに……「いいか、よく聞け」」


 舞が何かを言おうする言葉を遮り、俺は歌い出した。


 なんの歌を歌おうか、そんな迷いが一瞬頭をよぎる。

 だがすぐに頭の中である曲が流れ出し、迷いはすぐに消えていった。


 俺頭の中で流れ出した曲は、舞から貰った謎の曲だ。

 この曲は不思議だ。前に聞いたときは恋の曲だと思ったのに、今は感謝の曲に聞こえる。

 まるで歌う人や気分によって曲自体が変わっているみたいだ。

 もちろんそんなことはない。だが受け取り手によって解釈が変わる曲なんて聞いたことない。

 そんな曲を作った作曲家の天才性を改めて認識する。


 自分の心情に合わせて変化する曲のおかげで、すらすらと気持ちを歌に乗せて歌うことが出来る。

 俺の舞への想いは言葉になり、声になり、歌となり、舞へと届いていく。


 ああ、舞に会えてよかった。彼女がいてくれたおかげでどれほど俺が救われたか。

 言葉では言い尽くせないほど彼女には救われた。

 生き甲斐のなかった人生に一つの光を与えてくれた。

 長らく忘れていた歌の楽しさを思い出させてくれた。

 挫けた心を癒し、立ち直らせてくれた。

 俺の歌を認め、褒めてくれた。

 突き刺さる強い言葉で俺を励ましてくれた。

 生きる気力を失っていた俺に、前を向く強さを見せてくれた。

 

ーーーー俺に好きという感情を教えてくれた。


「……伝わったか?」


 歌い終えて、俺は舞に声をかける。


「え、ええ」


 顔を真っ赤に染めながら舞は返事すると、俯いてしまう。


「……ほんとうに、楽はずるい人だわ。こんなことされたら……抑えられる筈がないじゃない。卑怯だわ。全然言うつもりなんてなかったのに……」


「……一体何の話だ?」


 舞が俯いたままポツポツと小さく言葉を零す。

 切なく囁くような声はどこか艶やかで、不覚にも胸がドキドキ鳴る。

 だが舞の言葉の意味が分からず俺は聞き返した。


「……ねぇ、こっちに来て」


「はぁ?」


「いいから」


 舞の色っぽい雰囲気に緊張しながら舞の前まで歩いて行く。

 辿り着くと一気に舞が俺のことを抱きしめてきた。


「な、なに……」


「…………」


 沈黙の時間が進んでいく。どこか切なくて甘い沈黙に胸が痛い。


「なぁ」


 ずっと黙ったままなので声をかけると、舞が抱きしめる腕の力を緩め俺から離れた。

 舞は顔を上げ、俺と目が合う。潤んだ瞳、火照った茜色の頰。目が離せない。

 

ーーーー見つめ合ったまま舞は俺との距離をゼロにした。


「……っ!?」


 鼻腔をくすぐる甘い舞の匂い。唇に感じる柔らかくしっとりとした感触。

 キスされたことを認識するのに数秒を要した。


「お、おい!?どうい「私、楽が好き!」


 一体どういうことか聞こうとするが遮られ、舞はとんでもないことを口にした。


 は?好き?


 まったく理解できず頭の中は真っ白に染まる。


「最初、楽が歌っている姿を見た時から好きでした。一目であなたのことが好きになったの。この気持ちは隠していようと思ったけど、もう無理。抑えられない。好き。大好き。本当に好きよ。これは嘘じゃない。人として、異性としてあなたのことが好きなの。返事は……明日聞かせて」


 一気に告げると舞はそのまま走り去って行った。

 突然のことすぎて俺はその場で立ち尽くすことしかできなかった。


♦︎♦︎♦︎


 一人で家に戻り、俺はだんだんと舞の言葉を頭で理解し始める。

 舞が自分のことを好いてくれていた、その事実を知り悶えたくなりそうなほどにむず痒い。

 嬉しいという感情よりも先に、信じられないといった非現実感がふわふわと頭の中を漂う。


 自分が好きな人が自分のことを好きだった、その奇跡のような事実があまりに自分に都合のいいような気がして受け入れ難い。

 だが確かに告白された事実はあり、あの凛とした声で告げられた言葉は耳に残っている。

 明日「俺も好きだ」、そう言おうと思いながら眠りについた。


 次の日、いつもの場所に向かう。

 両想い、その言葉ににやけそうになる自分を抑えながら待つ。

 だが待っても待っても舞は現れない。いつ屋上のドアが開くのか、ドキドキしながら待っていても開くことはなかった。結局その日舞は現れなかった。


 次の日、その次の日も現れない。

 連絡を取ろうとしても、舞の住んでいる場所も連絡先も知らない俺は何もすることが出来なかった。

 舞に何か起こったのではないか?そんな不安が脳裏をよぎる。

 不安を拭おうとしても嫌な予感は消え去ることなく、ねっとりと残り続ける。

 結局そのまま舞に会うことなく数日が経過し夏休みが終わった。


 得てして、嫌な予感というものは当たるものだ。


 学校が始まり登校する。学校の教室に舞の姿はなく、俺の隣の席は空いたまま。

 待てど舞は来ず、そのまま朝のホームルームを告げるチャイムが鳴る。

 朝のホームルームが始まると先生が入ってきた。


 先生の普段と違う雰囲気、それが俺の嫌な予感を増長させる。

 先生は神妙な面持ちで口をゆっくりと開く。

 聞きたくない、知りたくない。俺の本能がこれからへの恐怖を告げてくる。

 だが残酷にも時間は流れ、先生の告げた言葉が耳に入ってきた。













ーーーーー七瀬舞が亡くなった。




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