中毒性双子姉妹のお話 前編
「いや!メイと離れたくない!」
「私だってマイと一緒じゃないなんてありえない!」
まるで今生の別れのように涙し、ひしと抱き合う二人のツインテールの少女。
彼女たちは鏡合わせのように、同一人物かと見違うくらいに瓜二つだった。
なぜなら二人は双子。
いつも一緒。二人は何でも同じじゃないと気がすまないくらいに仲良しの近所ではちょっとした有名な双子。
同じ髪型。同じ制服。同じ下着。同じストラップ。同じ体型。同じ食器。などなど。
1つでも違えば同じになるよう合わせる。
体重がずれれば同じにするためにダイエットをしたりわざと太ろうとするちょっと、いやかなり偏執的な双子ちゃんだった。
そこに二人の母親がため息交じりに呟いた。
「まったく……相変わらず大げさすぎるわね…。二人の部屋を別々にするってだけじゃない」
「…ぁ…メイ……」
「……ぅ……マイ……」
そんな母親の言うことが聞こえているのかいないのか。
二人は手を恋人のように繋ぎ合わせ、お互いにそっくりの顔を近づけ涙目で熱く見つめあう。
切なくも湿気の含んだ甘い甘い目配せに母親は「まーた始まった……」と呆れながら小さくごちる。
「ん……」
小さく唇を突き出すメイ。
「マイ。その、キス……それはダメだって……ママに見られてるし…」
「今日からメイがおやすみのキスをしてくれないんだから仕方ないじゃない……今、埋め合わせしてほしい…メイだってそうでしょ……?」
「そっか……じゃあ仕方ないよね……」
二人は花のようにはにかみ、目を閉じて唇を近づけていき……
「仕方なくないわー!!!!!!!!!」
もう限界といわんばかりに叫びだす母。
「アンタたち、学校でもそんな調子らしいわね……アヤセ先生から聞いたわ。授業中どころかテスト中でも当たり前のように見つめあうし委員会活動も気づいたら二人でいるし部活はダブルスしかやりたくないって駄々こねるし休み時間中もすぐ抱き合ったりイチャイチャと……」
「ママ、それはね。メイが可愛いから仕方ないの」
「違うの。ママ。マイのほうが可愛いの」
「メイも同じ顔じゃない……」
「……マイ……」
「だー!?そういうところだって言ってんでしょー!!!この脳内ピンクの双子ちゃんめー!」
百合百合な空気の間に割って入る母。
息を切らしながら話していく。
「いい?これはあなた達二人の為でもあるの。これから高校……社会人……結婚……肉親が一緒にいられなくなる可能性なんて当たり前にあるの。アヤセさ……アヤセ先生もうそういってたわ。あなた達がそうやって生まれたときからべったりなのは昔からあまり構ってやれなかった私たち親のせいなのもあるのでしょうけど、だからこそ今私は鬼になろうと思うの」
「マイ……結婚だって……照れるね、どっちがドレス着る?」
「え?こういうのって二人ともドレスだと思うよ。友達のユリちゃん家で一緒に読んだ漫画でもそうだったじゃない」
「
その日、3人は大忙しで部屋の引っ越しをした。ペアのようになってるぬいぐるみや家具は引き離され、まるで同棲していた元恋人の家具を捨てたOLの部屋みたいにどこか欠けた不自然な空白ばかりの部屋が2つできてしまったのである……。
「いい?ベタベタするのも禁止よ。まずは一か月我慢しなさい。触りあいっこしてるところを見つけたらもう一か月延長だからね!学校行っててもアヤセ先生が見てるんだからね!」
「「えーっ」」
「えーじゃないっ」
「「……おはよう」」
翌朝。
いかにも眠たげな皺を寄せた目を手でこすりながら、メイが居間に現れた。
やや遅れてマイも現れ二人は挨拶をする。いまいち覇気がない。
「あんたたち……昨夜眠れなかったの?」
「ママ。私たち、昨日あまりにも寂しくて眠れないからクマの人形を抱えて眠ったわ。でも駄目だった……。どうやら抱く相手が変わると眠れないみたい……」
「枕みたいに言うなよ」
「だから同じ部屋に戻してよ!」
「そういうのが問題だから言ってるの!一か月!一か月まずはやってみなさいよ!ハイ朝ごはん!」
うぅ……と二人して唸りながらトーストを口にはさみ始める。
この時、母は思いもしなかった。こうして二人を離れ離れにすることであのような結末に、なるだなんて。
それから数日が経った。
日に日に双子の目の下の隈は濃くなっていった。よく眠れていないことは間違いない。
眠るだけじゃない。
学校でも教師や友人、そして部活が二人の仲を阻害した。
たまたま行われた席替えでたまたま二人の席は教室内の対角線上。話しかけることも目配せも難しい位置になってしまった。
双子は、「ママが手をまわしたに違いない」と寝不足の頭で被害妄想を働かせた。
休み時間に友人や教師からよく話しかけられるようになった。
これは休み時間になるとすぐ抱き合ったり至近距離で見つめあってたり二人の世界を形成していたせいで話しかけることが躊躇われていただけで二人はそこそこクラスの皆に話しかけたいと思われていただけだったのだ。
しかし双子はもれなく「皆、もしかして
ある日のこと。
たまたま通りかかった担任のアヤセ先生がマイを睨む。
視線の冷たさにすくみながら二人がくっつくことに以前から難色を示していた女教師だということを思い出すマイ。
そしてそういえばママに二人がくっつきすぎだと指摘したのはアヤセ先生ではなかっただろうか。
マイはそこに何かの考えがよぎるが、確証もないことだとすぐに忘れた。
二人は家に帰るやいなや身体を密着し抱き合った。唇を貪るように重ねあった。小うるさい母が仕事から戻るまでの間。
そんな僅かな時間……時間にしてみれば3時間程度。これまで24時間傍にいることが当たり前だった二人からすればありえないことだった。
教室内、机に突っ伏しながら同じことを慟哭する双子。
「足りない……メイ分が足りない……もう動けないいい」
「マイ、マイに触りたい……触ってほしいよ………死ぬ……」
1週間が経った。二人はまるで砂漠で水場を探す旅人のように渇いていた。
2週間が経った。二人は休み時間になるたび、あるいは人の目がなくなったと思う度に抱き合おうと思ったが何故かアヤセ先生がかなりの頻度で見張ってきたのでそれもできず。
3週間。二人はもう声すら発しなくなった。衰弱しきっていたのだ。
そして1か月が経った。約束の日。この日の18時になればもう好きなだけイチャイチャできると母が約束してくれた日だった。
あの離れ離れになることを強要された仲良し双子はどうなったのか。
「メイ……今日も暑いわねぇ…今日の体育は休もうかしら………え?風が吹いてるからまだマシって?ふふっ…もう、そういっていつも無茶ばかりするんだから…」
イチャイチャしていた。
ただし。マイは鏡に向かって一人で話しかけていた。
「ちょ、ちょっとマイ。メイはいないわよ。メイは今日は日直だから早く出るって言ってたじゃない」
「………ふふっママったらおかしいの。メイならここにいるじゃない」
「それは鏡よ!?」
「メイ……メイ……そんな……大胆…私も好きだよ…」
鏡に映った自分に向かって熱っぽい視線を送り今にもキスしそうなほどに顔を寄せるマイ。
まるですごいナルシストみたいだが、彼女には双子の妹に見えているに違いない。
「……行くわよメイ。ママ、行ってきまーす」
何事もなくメイがいるかのように呼びかけるマイ。
一人なのにまるで誰かが隣にいるような手を差し出して繋いでるように歩く。
母は何度も目を擦った。だが何度擦ってもマイの隣は虚空。
そういえば先に登校したそのメイもまた、まるで誰かが隣にいるかのように話しかけてはいなかっただろうか。小声だからその時には特に不思議には思わなかったが。急に危機感が胃の中をせり上がったきたように母は感じた。
「や、やばいっ……」
二人を引き離して姉妹離れをさせようとしたそれは失敗だったのかもしれない。
もう引き離せないほどに二人は二人でいることが自然だったのかもしれないのではないだろうか。
ちなみにメイは今現在、学校で日直の作業を終えて優雅に雑談をしている。窓に向かって一人で。
当然呼びかける相手の名前はいないはずのマイだ。
「どうにかしないと……そうだアヤセさんに……」
母はそう思いつくやいなやスマホを開き連絡を取り始めた。
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