第49話・運命の約束-3

隠し子なのか?カシリアはそう思った。恐らく、どこかの爵位の高い貴族が爵位の低い貴族の娘との間で作った隠し子だろう。


 彼女はカシリアの存在を気にもせず、ただ景色を眺めながら食べ物を口に運んでいた。その食べ方が実に爽快で、とても羨ましく思った。


 やっとカシリアにじっと見られていることに気づいて、ゆっくり食べ始めた。


 「なあ、そんなにじろじろ見ないでくれない?こんなふうに食べるのは貴族のエチケットに反するのはわかってるけど、こうやって食べるのが好きなんだよ。」


 「今のうちだ。学院に入学したら、君はマナーに合った食べ方をしたほうがいい。」


 カシリアは苦笑いしながら忠告した。


 「わかってるんだよ!なんでママと同じことを言ってんだよ…みんな脅してくるなんて、貴族になったら一体どんだけめんどうが待ってるか考えるだけで頭が痛くなるぜ?」


 貴族になったら?とはどういうことだ?。法律上私生児は貴族になりえない。たとえ妻がいなくなったとしても、その妻との子が爵位を継ぐ。だから私生児は当然家族に入れない。


 一体どういう状況だろう?カシリアが聞こうとしたその時。


 


 【バルコニーのカーテンがめぐられた。】


 


 「エリナ!どうしてこんな所に、さが…」


 慌てた様子で現れたのは、先程パーティー場の端で戸惑っていたご夫人だった。


 「あっ!?カ、カシリア殿下様!?」


 夫人が自分を見て、すぐ優雅に貴族の礼をした。そのスムーズな動きから見て、彼女は爵位の低くない貴族の家の出自で間違いない。


 いよいよおかしい。我が国には子供を平民の様に生活させるほど落ちこぼれた貴族がいた覚えはない。


 「殿下にご迷惑をおかけしてないでしょうね?」


 夫人は横にいたエリナを強く引っ張り、小声で訊ねた。


 「もちろんよ!ここで隠れて料理を食べてただけよ!ねぇ、ママも食べてみる?」


 母親の今にも怒り出しそうな顔には微塵も気づくことなく、相変わらず料理を食べていた。


 「エリナ!殿下がいらっしゃることが分からないの!」


 夫人は急に声のトーンを上げ、礼儀正しく優しい微笑みがだんだん引きつってきて、今にも爆発しそうだ。


 「ねぇママ、殿下ってどんな貴族なの?確か貴族の爵位に殿下っていうのは無かったわ?」


 「エリナ!この前渡した資料はちゃんと読んだ!?」


 夫人我慢できなくなって、ついに叫びだした。その美しい顔が鬼の様になった。


 「だって…あんなに分厚い資料・・・長くて変な名前ばっかりで、公爵と伯爵の名前と顔を覚えるだけでいっぱいいっぱいだぜ…」


 【「昔通ってた騎士学院の一学期分よりも多いんのよ…」】うなだれて、今にも泣き出しそうだった。


 「エリナ!!!」


 夫人の怒声は会場の中まで響きそうだった。


 「ブハハハハ」


 この破天荒な会話に、カシリアはまたしても我慢できずに笑い出してしまった。













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