第39話・パラノイア-1
誘拐の件の進捗を報告しに来たバド伯爵を送り出した後、
カシリアは会見室の傍らに座り、頭を抱えて悩んでいた。
ずっと王室と学院で暮らしてきて、これまで悩んだことがないカシリアにとって、
王都の街の裏にある闇市組織と、それに連なるもっと深い闇の事情には詳しくはなかった。
今までは、ただ王国内でコソコソと違法なことをしている小さな組織だと思っていた。
今更だが、それは自分の想像を遥かに超えた、ひいては現時点の力では処理できない程の重大事件であるかも知れないことに気づいた。
誘拐事件の裏には複数の国が関わっていた。
仲介である闇市貿易が盛んな商業帝国ラペオ、実行組織のいる国リバカリ盟国、奴隷の最大需要国であるチモネカ聖教国、そして我が国を含めた4ヵ国で自由に活動出来る闇の組織というのは、かなり巨大な組織だと言える。
その背後は強力な貴族勢力が支えているに違いない。
そして一番厄介なこととして、この中で我が国だけが奴隷制度を禁じていた。
それがゆえに、もし我が国の方から無理やり他の三国の奴隷貿易に干渉すれば、国同士の関係が悪化し最悪の結果になる。
これだけはどうしても避けなければならない。
しかしそうはいっても、誘拐問題は一刻も早く解決せねばならない。随分と前から、町で平民や貧民が誘拐される事件が起きていた。
当然、このような貧乏人や生活困窮者の生死は誰も相手にしなかった。そのせいで誘拐組織は巨大化し、その魔の手を、より高く売れる人物にまで伸ばしてきた。
まさかリリスにまで襲いかかるとは、断じて許せない!そう思ってカシリアは憤りを覚えた。
何があってもこの闇の組織を根こそぎにしなければならない。
しかし現時点ではまだ良い方法が思い浮かばない。ただちょうど来月がラペオ帝国第一王子の入学式。
入学式は共に話し合い問題を解決する良いタイミングかもしれない
とはいえ、所詮短時間では解決できないことなので、カシリアは一旦作業を中止し、気晴らしに散歩にでた。何故かリリスに会いたくなって王家休憩室に来てしまった。
だが生憎、病人であるリリスは既に寝ていた。遣わしたメイド達もどうやらもう帰ったようだ。
ベッドで横になっていたリリスの、天使のような安らかで可愛らしい寝顔が、月の光で一層輝いているように見え、カシリアの心は強く揺さぶられた。
それはまるで人の心を惑わし、夜空にきらめく星にも劣らない魔女の美貌。それに比べてなんと小さくか弱い、保護欲を煽る弱々しい体。
いつも感情の薄いカシリアでさえも、今は妙にドキドキしていた。
何故かわからないが、彼女の近くへ行きたい。彼女の病状が気になる。彼女がよく眠れているかも気になる…
理由はともあれ、とにかくカシリアは我慢できずにリリスの寝顔に手を伸ばした——
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