第37話・兆しのない悪意-3

「…そっか、それでも私は君に今回のパーティーに出て欲しい、なぜならっ…」


 殿下は相変わらず私の気持ちを考えず、残酷なことを要求してきた。


 ぎりっ!私は歯を食いしばり、必死に笑顔を維持していた。


 「殿下!」


 でもさすがにもう我慢の限界だった。私はついに声のトーンをあげて、直接殿下の話を打ち切った。


 「殿下のご好意には感謝致しますが、今日はとても疲れておりますので、これから自宅に戻って休養します。」


 「リリっ…」


 殿下は何かを言いかけたが、私はすっと立ち上がって、もう一度彼の言葉を打ち切った。


 「この数日殿下には大変お世話になりました。まだ少し体調が優れないので、先に失礼させて頂きます。」


 簡単に適当な挨拶と礼をして、その場を離れようとしたとき、


 「あっ、んん…」


 ポーカーフェースの殿下の顔が、うっすらと残念そうな表情を見せたが、直ぐに消えた。


 激しい怒りを胸に、急いで王家休憩室から出た。ロキナが私を心配してついてきた。


 「リリス様…殿下が…」


 ロキナはこれ以上ないほどに心配していた。


 「大丈夫、殿下はきっと分かってくれるわ」


 私は振り向かずに言ったが、ロキナは何度も振り返って殿下の方を見ていた。


 ああ、これは恐らく私が今までにした中で一番失礼なことね。


 王族の話を断ち切って、先に出ていくなんて、もし正式な場でこんなことをしたら、恨まれてしまう。幸いさっきの会話ぐらいなら、まだそんなに酷い結果にはならないと思う。


 でも考えて見ると、テストで倒れたのは逆に良かったのかもしれない。


 なぜなら、もうこれからは殿下と向き合う必要がなくなかったから。


 そんな慰めにもならないことを考えて、長いため息をついた。


 私はこっそりと学院から出た。


 私は馬車でロキナと共に公爵邸まで戻った。屋敷の近くまで来たら、私は急いで部外者の痕跡を探した。幸い家に誰かが来た痕跡はなく、見知らぬ足あとも、余計なティーカップもなかった。つまり今日家に来るはずだったエリナとミカレンは、前世と違い、こなかったということね。


 まるで体が軽く感じるぐらいに心の中でホッとした。


 今日のカシリア殿下は本当に腹立たしい。全く訳わからない。


 私はまっすぐに寝室へ戻った。


 ここは、嘗ては母上の寝室だった。


 母上が無くなってから、私は母上の温もりが残っているこの寝室に寝ることにした。ベッドに横になって、緊張で硬くなっていた体を緩めた。


 殿下とのことはほっといて、もう一つの心配事が頭の中に浮かび上がってきた。


 おそらくもうすぐに来る、継母であるミカレンと、姉であるエリナのこと。


 今度は彼女らとどう接すればいいかな?


 【勿論、前世の様に家から追い出すことはできないし】


 となると今度は新しい家族ができて嬉しいふりをするべきか…


 心の狭い私にできるかしら。


 でも、そう決意した以上は、行動に移すしかない。頑張って我慢すれば、きっとできるわ。













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