十四話 力の正体

 二階は一階と同じ構造で、廊下からドア一枚を隔てて部屋には入れるようになっていた。二階は倉庫として使われており、鍵を魔法で溶かして無効化して中に入ると、所狭しと並べられた金属製の棚が非常灯の明かりに薄らと照らされていた。倉庫に保管されているのは工具の他、資材もある様子でハガネは鉄製のパイプを手にすると、その先端を鋭いものに変形させる。剣と槍のちょうど中間のような風体の武器を右手に持ったところで、軽い目眩に襲われ立ち止まった。が、すぐにまた部屋の中程にまでハガネは歩んでいった。

 カイトもハガネも、何かを言葉にして思うこともなく、その瞬間を迎えた。

 ハガネはかがみ込むように片膝をついて床に手をかざした。すると、まるで水に水滴を落としたように硬い床に波紋が浮かんだ。波打ちながら灰色の床が蠢いて穴を開ける。――その穴の中に勢いよくハガネは飛び込んだ。


「さて、それでは『商品』の紹介も終えましたのでそろそろ契約書にサインを」

「いやしかし――ひっ!? ひぃっ!」


 ハガネが降り立ったのはウェインのほぼ真後ろだった。応接室のソファに座っていたトチライ興産の社長が悲鳴を上げる。ウェインがとっさに振り向こうとしたその時、ハガネは右手を引き、手にした武器を突き出していた。

 伝わるはずも無いのに、どっ、と肉を突き刺すような感触をカイトは感じた。


「な――」


 振り返りかけたウェインの目が、辛うじてハガネを捉える。が、どうすることもできなかった。ハガネの手によって繰り出された凶刃は、ウェインの胸を背中から刺し貫いていた。その口から、そして凶器が引き抜かれた傷口から赤黒い血が溢れる。ウェインの体がぐらりと傾き、床に倒れる――かに思えた。その時。


「……なに?」


 想定し得ない光景にハガネが声を漏らした。倒れるかに見えたウェインは、力の抜けかけた足に力を入れて踏ん張り、再び直立したのだ。急所を外したか――そう思ったハガネはとっさにまた武器を構えた。ウェインはくるり、と声もなくハガネの方へと向き直る。

 と、ハガネはウェインの胸元――血を流す傷口に見慣れないものを見た。


(……何だ、あれは……いや、あの力の波動、我は知っているぞ……!)

(嘘だろ……似てると思ってたけどマジで……神剣!?)


 ウェインの胸元から『光』が飛び出していた。何かの形を保っているわけではなく、白くぼんやりと光る何かが傷口から突き出しているようだった。ハガネにもカイトにも、覚えがあるものだった。いや、覚えているそれとは幾分、感じられる力の波動が弱いが――それでもそこにあったのは、確かに神剣と同じ力を持つ『何か』だった。


(不味い、あの光を見ているだけで、我が力が削がれる――? カイト……!)


 カイトに呼びかけた途端、ハガネの視界がぐるりと回った。動けるだけの体力がもう残されていない――急速に、体の中にある魔力を削り取られるような感覚。ハガネは自分の意識が落ちていくのを感じ、逆にカイトは自分が急速に浮上するかのような心地になった。


「――っ、くそ、何なんだ……!?」


 ハガネの体の主導権を握るなり、カイトはそう言っていた。訳が分からない。胸元から突き出る光から感じる力は、支社で相対したときと比べて強い。一秒ごとにどんどん強まっていく。そして力が強まるごとに、カイトは酷く懐かしいような気分になっていく。もはや似ているでは済まされないほどだ。


(――ウェインが持っているというか、体に取り込んでいる力の正体が、本当に神剣だってのか?)


 答える声はない。魔法を使い、さらに神剣と同質の力に触れたせいかハガネの意識は完全に落ちてしまったようだ。カイトは判断をためらった。神剣の力をウェインが取り込んでいることも、その力を持ったウェインを放置するのも危険だということも分かる。ここで殺さなければ何が起こるか分からない。しかし、もし神剣がウェインを『選んだ』のだとしたら――?

 それは一瞬の気の迷いだった。次の瞬間にはあり得ないと断じられるほどのことだった。だが、その一瞬でウェインは動いていた。


「は、はは……誰かと思えば先ほどの魔皇の名を騙る小娘ではないか。私を殺そうとしたらしいが……残念だったな! この通り、私は強大な力を得て死を超越したのだ! そして素晴らしい力を、このようにも使うことができる!」


 ウェインは両手を開いて天に突き上げた。すると、その指の先から光の束がまるで糸のように噴き出し、部屋の中でただ佇立していただけの、レジスタンスの一団に突き刺さった。


「何してるんだ!? 止めろ!」


 とっさにカイトは手にした武器を振り回し、刃の部分でウェインを頭から斬りつけた。ウェインの皮膚は裂け、傷口から血が噴き出す。が、ウェインは倒れるどころか動きを止めることもなく立ち続け、その胸元と指先から光を放射し続けた。いっそ物理的に倒すしかない、とカイトは全力でウェインの腹をけり付けたが、まるで壁を蹴ったような硬い感触が足に伝わり、とっさに数歩の距離をバックステップで稼ぐ。


「くそっ……」

「ははは、無駄だ! この力の前では黙ってひれ伏すしか無いのだ! さあやれ、お前たち! 魂の奴隷どもよ!」


 号令を合図に、光の糸を打ち込まれた者たちがカイトに殺到する。これでは支社で戦ったときと全く同じ、いやそれ以上に悪い。どうにか切り抜ける方法をカイトは考えようとしたが、


「ヒエェ! い、い、いったい何が起こってるんだ! もう嫌だっ、これからは奴隷も使わず普通に家を建てるから勘弁してくれェ!」


 情けない叫び声に思考を中断した。すっかり頭から抜けていたが、トチライ興産の社長がソファの上で腰を抜かして泣き叫んでいた。今度は、どうにかして戦うという発想がカイトの頭からすっぽ抜けた。どういう人物かは別として、放っておいて戦闘に巻き込むわけにもいかなかった。


「トチライのおっさん! 逃げるぞ!」

「に、逃げる、逃げるってどこから!?」

「窓だ、窓まで走れ! 通りに出るまで守る!」

「――おっと! そうは行くものか!」


 窓へとトチライが逃げだそうとしたのを見るや、ウェインが右手をその背中へとかざした。とっさに、カイトは距離を詰めつつ下から上へと逆袈裟にその右手へと斬りかかった。刃に切り裂かれた腕が落ちるが、そこから溢れたのはもはや赤い血ではなく白い光だった。幸いその光は狙いを定めてどこかへと襲いかかることはなかった。が、カイトは斬られた腕から溢れる光に激しい嫌悪を覚えた。


「マジでなんだってんだよ……!」


 神剣を武器として振るっていたとき、カイトにとってきらめく白刃は心強いものだった。安心して身を任せるに足る武器だった。しかし、いま目の前にある光からはおぞましさ以外のものを感じない。力を得た者の身から死を奪い、生きた者の意思を奪う、悪意に満ちた光にしか見えなかった。

 ――しかし、そんな力を何故ウェインが?


「ウェイン! 何をどうやってこんな力を得た? 魔族だからってだけで、こんなことが誰にでもできるわけないだろ!?」

「どうやって? ククッ、愚かな小娘には分からないだろうな。私は選ばれたのだ。ある日、星のように降り注いだ光が私の中へと降り立った! それ以降私は人を意のままに操ることができるようになった……まあ単調な命令しか分からぬようだがな。

 しかしそれでも奴隷を使うには充分だった! 奴隷どもが反抗しなくなり、無駄口も叩かずただ荷を運び、給料が安いと言い出すことも、逃げ出すことも無い! なんと素晴らしい力だ! こんな力が芽生えたのも、私に『奴隷を作って売れ』と運命が囁いているからに違いない!」


 聞いているうちにカイトは渋面になっていった。ハガネに対して高説を垂れておいた手前、そうは思いたくなかったが――いますぐにでもこの男を、殺してでも止めなければと強く思う。だが、心臓を貫かれても死ぬことのない者をどうやって殺せばいいのか? トチライ社長はこの場から何とか逃れられたみたいだが、この場にはウェイン以外にも操られたレジスタンスの一団がいる。全員を相手にしつつウェインを無力化する方法。


「何やら必死に考えているようだが無駄なことだ。この場を見逃すというのなら何もせず帰してやってもいいぞ? たとえ誰が来ようが私の手にかかれば、全てを操れてしまうのだからな! この国の民も、警察も、軍も、魔皇でさえもだッ!」

(くそ、打つ手が無いか……!)


 再び撤退するしかない。しかし、ここで逃げればウェインはさらに人々を操るかもしれない。もはや謎の力を使って好きかってすることに躊躇は無いようだ。こうなれば刺し違える覚悟で、と汗の滲む手でカイトは武器を握り直す。


「ほほほ、戦うつもりか。良いのか? ただの一般市民に刃を向けることになるぞ?」

「くっ……!」


 ウェインを視界の中心に見据えながら、カイトは斬りかかれるルートを探る。が、操られている者たちはウェインのすぐ側にいる。盾にしようと思えばいつでもできるような距離だった。


(……この人たちと戦うしか無いのか?)


 ついにカイトの中に、じわりと諦めが滲む。――いいや、駄目だ。

 否定したのは一つの声だけではなかった。


(カイト……諦めるな)

(……ハガネ!? 意識が戻ったのか!)

(お前は……我が失ったものをまだ、持っているはずだ。立ち向かうも、退くも自由だ――だが、お前が、お前自身を諦め、捨てるにはまだ……早いぞ)

(……!)


 その時、カイトの耳に声が届いた。ハガネの声ではない、トチライ社長が逃げるときに開けた窓から聞こえてくる。通りに面した窓から、誰かが顔を出した。


「よう、お嬢ちゃん。大変なことになってるじゃあないか」

「……バナー!? 何でここに来た! いま危ないからあっち行っててくれ!」


 窓からひょっこりと顔の上半分だけ、青いインプ族の顔が覗いていた。


「聞いてるよ、ここの社長さんが泡食って通りを走ってきたんだ。傭兵や従業員も一緒にな。中でヤバいこと起きてんだろ? レジスタンスのやつら、操られちまったらしいな? おおー、後ろのヤツがそうか」

「のんきに覗くな! お前も操られちまうだろ!?」

「見えないもんを操るのはちょいと難しいんじゃないか? だって、支社で倒れてた人ら……起き上がって話せるようになったぜ」


 はっとしてカイトはウェインに目を向けた。失った右腕と胸元から光を噴き出しているウェインは、左手を窓の方へと伸ばすところだった。カイトが右へ、バナーが下へと避ければ光は素通りして夜の街路を通り抜け、反対側にある家の壁に当たってふっと消えた。


「な、言っただろ! あいつきっと見えてないもんを長時間操れないんだ! お嬢ちゃん、こっちに来い! あいつの見えないところに来ればこっちのもんだ!」

「……分かった!」


 カイトは思い切ってウェインに背を向け、窓から外へと飛び出した。背後から再び光が飛び、カイトの頭上を掠める。しかし被弾することは無かった。街路に出ると、なんとそこにはバナー以外の魔族の姿もあった。バーで見た魔族たちだ。


「いまだ! 窓を塞ぐぞ!」


 号令を出したのはバナーでは無く、トロールの青年バリスタだった。バリスタが窓に向けて手をかざすと、窓の周りの壁から黒い蔦がぼこぼこと生えて窓を覆っていった。他の数人の魔族も魔法を使っているのだろう。岩や金属の板が建物の外と中を隔てていく。


「すげぇ……」

「感心してもらってるとこ悪いが、反対側の窓とかは閉めて無いから時間稼ぎにしかなってないぜ」

「ってことは、すぐ出て来るな。けど、どうすりゃいいんだ? あいつ……殺しても殺せなかったぞ」

「そんなん俺らの知ったことじゃねぇよ。俺らにできることは足止めだけさ。こうやって窓閉じるぐらいだ。あと、レジスタンスのやつらが出てきたら力尽くで止めてやるぜ。羽交い締めにしたりロープで縛ったり、ともかくどうにかすりゃ止まるだろ? ウェインがこっちに来るのが先か、それともレジスタンスが来るのが先か……そもそもウェインが一緒になって来るかも分かんねーけど適当なもんや道を盾にすれば、ちょっとはお嬢ちゃんとウェインから引っぺがせるかもな」


 お前が戦える環境を、整えてやる。言外にそう言われていた。しかし、どうやって戦う? それに答えたのはハガネだった。


(カイトよ……お前は、神剣に選ばれたのだ。ならば……もしあれが、あの力、あの光が神剣ならば……)

(……俺に応える?)

(試してみる価値は……あるだろう? いや、己の危険を顧みず、立ち向かう理由などお前には無かったな……)


 この体は、ハガネの体。いまから救おうとするのは、魔族の民たちだ。どちらもカイトが戦ってきた者たちだった。立ち向かう理由にはならないかもしれない。だが――


(確かに、俺が頑張る理由は無いな)

(…………そうだろう)

(でも、理由は無くても、想いはある。お前との初めの契約とか、そういうの抜きにしても……ここで逃げ帰るのは『嫌だ』)


 感情以外の理由は無い。必要も無かった。


「さあ、どうするお嬢ちゃん。みんなで帰って、警察とか軍に通報しちまうかい?」

「いいや。ここで決着を付ける!」


 カイトは、バナーの後ろに控える魔族たちに向き直った。さっき酒場で見たばかりの、よく知らない顔ばかりだった。彼らも、話しているのがカイトだということも、その肉体が魔皇のものだということも知らないだろう。それでも彼らは言葉を待っていた。カイトは言った。


「みんな、俺に――いや、我に力を貸せ! 我は魔皇、魔皇ハガネだ! 民の窮地を耳にしてここに来た! 我が名によってウェインを処断する。そのための力を我に貸せ! ウェインは我が討つ! そなたたちはレジスタンスの者たちの行動を食い止めろ! そなたたちにとっては昨日の敵だが、我にとっては等しく民である! その命を奪わず止めてみせよ!」


 カイトの、魔皇としての言葉をバナー立ちはただ静かに聞いていた。反抗する声も賛同する声も上がらない。けれど、その目には確かな決意が宿っていた。

 カイトは彼らに背を向けた。背中に嫌な気配を感じた。カイトたちがいる通りに繋がる路地から、足音が淡々と連なって近付いてくる。足音の先頭が見えた。ウェインではない。ゆらり、と不確かな足取りで、レジスタンスの集団が通りへと出てくる。彼らを操る力は、各々の体から放射され、一箇所に集束していく。その不可視の力は、上に伸びていた。

 カイトは上を見た。そして叫んだ。


「ウェインは上だ! 上から攻撃が来る!」

「全員散開だ! 物陰やレジスタンスのやつらの陰に隠れろ!」


 カイトが叫ぶのと同時にバナーが号令をかけていた。その瞬間、一気に全てが動き出した。ウェインがトチライ興産事務所の屋上から光の束を放ち、蜘蛛の子を散らしたように散開したバナーたちがレジスタンスの一団へと向かう。体当たりをかまし、羽交い締めにし、あるいは足払いをかけられたレジスタンスの一団の動きが鈍るのを尻目に、カイトは魔法の防壁が解けた事務所のドアに突進していた。


「無駄な抵抗をぉッ!」


 頭上からウェインの怒声が聞こえたのを最後に、全ての音が遠くなる。事務所の中に入れば、壁の向こうから喧噪が聞こえてくる。カイトは事務所の中を全力で走り抜け、階段を上りきり、屋上のドアを勢いよく開けた。

 そこには、光があった。

 カイトは目を細める。まだ操られていない者を操ろうとしているのだろう。両手を掲げているウェインの、全身から光が溢れ出ている。


「くそっ、何故だ!? 何故仲間が操られても諦めん! 数の差は開いているというのに何故抗う! 従え! 私に従え! 私のものだ! 私の! 従え! 従え! 従ええエェェ!」


 狂ったようにウェインは叫んでいる。背後に立ったハガネに気付きもしない。いまのウェインは、ひたすらに自分への抵抗を示す者たちを従えようという考えに支配されているようだった。


(あわ、れな……ものだな)

(大丈夫か?)

(まるで……狭い瓶の、さらに奥底に、押し込められているような感覚だ。息苦しいな……これは、あやつの……いや、神剣の力が増大し続けているのか……?)

(やっぱ止めなきゃヤベーってことだな。けど、本当に……ここまで強まれば嫌でも分かる。この力、本当に神剣そのものだ……)


 その波動はカイトにとても馴染みのあるものだった。だからこそ、分かる。どうにかしなければならない、その手段は具体的に説明できない。だが分かるのだ。振るっていた剣が手に馴染むように。どこに剣の重心があり、どう振るい、そして――

 どう引き抜くのかを、カイトは分かっていた。


「ウェイン! 俺はここだ!」


 その言葉にウェインが振り向く。もはや全身が白く輝く光の塊と化してしまっているウェインは、言葉も無く、間近に立ったカイトへと両手を伸ばしてくる。カイトは一歩前へと踏み込んだ。その腕の内側に。熱さも冷たさもない光に体を囲まれ、ハガネが小さく呻く声を聞きながら、カイトはただ真っ直ぐに手を伸ばした。

 指が光に触れる。光の中にある、硬い感触をカイトは掴む。ウェインの胸元、傷口から突き出した光を――カイトは引き抜いた。


「ヌ、ゥ――オオオオオオォォ――――ッ!!」


 轟くような、およそ生き物が発するとは思えない絶叫が上がった。カイトは、二歩、三歩と後ろに下がる。すると、カイトが手に持つ光に、ウェインの体から発せられた光が引き寄せられていく。光が集まるにつれてカイトの手の中にある光は縦に細く伸び、反対にウェインの体からは光が失われていった。


「――――……ウェイン……」


 カイトは呼びかけたつもりだった。だが、目の前に合った姿に、呟くような小さな声しか出せなかった。

 光が全て失われたウェインの体は、まるで肉が溶けたようになっていた。あちこちからは白い骨が突き出し、どろどろと蝋のように体の一部が骨から剥離していく。骨は白い。光るほどに、酷く、白い。カイトは眉を寄せた。そして、手の中にある光を構えた。それは、剣と呼ぶには短すぎる、光に包まれた小さな刃に形を変えていた。


「ウ……うゥ、わ、私の、体ガ……何故……? 私ハ支配……オまえたち、服従ゥ……」


 驚くことに、ウェインは生きていた。己の肉体に起きたことが受け入れられないのか、それとも他者を服従させる力をまだ求めているのか――ウェインはカイトに背を向けると、通りの方へとふらふらと向かおうとする。目を背けかけたカイトは、しかし歯を食いしばってウェインの背中を真っ直ぐと見据えた。そして、両手を伸ばして通りへと身を乗り出そうとしたウェインの背に、光る刃を振り下ろした。


 悲鳴は上がらなかった。斬られたウェインの体は急速にしぼんでいく。いや、しぼむというよりも、肉体が光る粒子となって消えていっているのだ。


 背後から斬られたウェインの体は街路へと落ちた。歩道へと叩き付けられるその時にはもうウェインの体に肉は無く、叩き付けられた衝撃で骨が砕ける渇いた、軽やかな音だけが街路に響き渡った。

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