十二話 反抗する者たち
ハガネは屋根から下りると、なるべく人目に付かないように……というより自分を追いかけ回した一団に見つからないよう細い路地を歩いてバーへと向かった。ハガネにとっては軽く意識を失っている間にたどり着いていた場所だったが、どうやら場所は分かったらしい。まだ営業している店に、今度は正面から入った。
真夜中だというのに、バーの中は満席だった。
しかし酒に舌鼓を打ちながら談笑しているという様子でも無い。どこか暗く、尖ったようなひりつく空気を感じてハガネは訝しげに眉を寄せた。昼に来たときとはだいぶ雰囲気が違う。時間帯の影響だけとは言い切れない、まるで戦場にいるような空気感だ。
ハガネはテーブル席の間を通ってカウンター席へと向かう。そのハガネの姿を、テーブル席に座っていた客たちが見る。小さな女の子がこんな時間に、というだけの視線では無い。何事かを囁き合う声が聞こえた。が、その内容は聞こえてこない。ただ、良い印象を持たれてはいないだろうというのはその表情からうかがい知れた。
(……何だ、ここの客たちは。昼はこのような様子では無かったはずだが)
(確かになんか、変だな。ママさんは……ああ、いた。ウェインのことと合わせて話が聞けりゃいいんだが)
ハガネとカイトが、カウンターの中にその姿を見付けたあたりで、バーのママもハガネの存在に気付いたらしい。目を見開いて驚いたかと思うと、さっと視線を左右に走らせ、すぐにハガネへと視線を向け直した。ハガネは彼女の正面にある椅子へと座った。不思議なことに、カウンターにだけは客がいなかった。
「どうしてこんな時に来たんだい?」
座った途端にそう言われ、ハガネは思わず周囲に気取られないよう視線だけで店内をまた見回した。やはり、この場にいる大半の客がハガネへと目を向けている。どうやらハガネにとって都合の悪いタイミングだと言いたいらしい。
「少し尋ねたいことがあった。が、どうやら出直した方がいい様子だな」
「もう遅いわよ、無理に席を離れたりしない方が良いわ。襲われるってことはないけど……もうちょっとしたらバナーが来るから。そうすりゃ面倒事はあいつに押し付けて出られるはずよ」
「……妙に信頼を置いている様子だが、バナーはそこまでの大人物なのか?」
その問いには答えず、バーのママはそっとハガネの前に、昼に出した物と同じジュースが入ったグラスを出した。ハガネがそれに視線を一瞬落とすと「おごりよ」と彼女は言った。
「あんたがあのウェインの事務所にカチコミしたって話を聞いたからね。詳しくは聞けなかったけど、市民を助けに動いてくれたって、あたしは信じてるから。お礼というか、お代の代わりにね」
「悪いがそういうことなら受け取れぬな。ウェインは取り逃した。今頃帝都のどこぞを逃げ回っておるところだろう」
それを伝えても、返ってきたのは小さな笑いだけだった。
「それも聞いてるわ。言ったじゃない、バナーが来るって。さっき電報送ってくれたのよ。短かったからあんまり詳しいことは分からなかったけれどね」
「……よもや、我を付けていたのか?」
「見張っていたのはレジスタンスの方らしいけどね。レジスタンスのこと、知ってるかしら。反魔皇を筆頭に不満のあれこれを力尽くでどうにかしようって連中がねえ、いるのよ」
「反魔皇の、過激派か。力量差を考えれば小競り合い程度にしかならぬだろうが、それでも戦になるだけの頭数だけはあるようだな」
周囲の気配を感じながらハガネは言う。襲いかかってこないことを見ると、ここにいる者たちはそのレジスタンスとはまた違うのかもしれない。警戒するハガネを、他の客のためのカクテルを作りながらバーのママはまじまじと見つめた。
「なんかあんた、昼と雰囲気ちょっと違うねぇ。そっちが上様モードってわけかい?」
「上様モード?」
(あー……昼は俺が話したし。そりゃ雰囲気全然違うよ)
流石にこればかりは説明しがたいことで、ハガネは特に何も言い返さなかった。沈黙をどう解釈したか、
「ま、悪党を追ってる最中だ。仕事中! って感じでいいんじゃないかい」
「……その悪党を追っている我が、民に追われているのだがな」
「あいつらもね、必死なのさ。擁護したかないけど、失ったものが多すぎる人から順に、今度は奪う側に回ったのよ。悲しいわね。それとも、魔皇様が聞いたらこれも、実力主義に適うことだって言うのかしらねぇ」
(言われてるぞ、ハガネ)
(言われているが、何も言えんな。強いて言えば『そうだ』としか言えぬ)
それを言わないでいるあたり、昼よりかは多少考え方がマシになったのかもしれない、とカイトは思った。
「ウェインのこと、あたしは詳しく知らないけれど。バナーのことなら少しだけ教えてあげようかね。あいつはね、貧乏くじばっかり引いてるのさ」
「貧乏くじ?」
「無い金をかき集めてこんな店を行きつけにしたせいで、親政府組織に目を付けられちまったのさ。反魔皇派からすれば反魔皇反対組織らしいけど。魔皇に反する連中に反する連中って、もうわけ分かんないわよね。
……あいつらの言いたいことは分からないでもないよ。けど、いまお上とやりあったって、軍相手じゃあ一般市民の魔族なんてちり紙みたいに散らされるに決まってる。それよりも、もっと穏便な方法で窮状を訴えようって。そういう目的で集まってたんだよ。バナーは結構聞き上手でねぇ、酒場で延々話を聞かされて、みんなの意見を聞いて最後に答えてるうちに、まとめ役みたいなものになっちまったのさ」
ハガネもカイトも意外に思った。インプ族といえば全体的に小柄でそう体も強くなく、魔力だって魔族の多数派であるエルフ族より、やや少ない程度しか保有しないというのが常だ。強い者が一目置かれるというのは一般魔族にも浸透した考えで、バナーは組織のトップに立つようには到底見えなかったのだ。
「最初はね、上手くいってたんだよ。帝都民の不満とかをまとめて、役所の方に投書してみたりして。受け取ってもらえないもんだとばかり思ってたのに、いいお役人もいるもんだねぇ。バナーのやつ『たまたま凄い人に会っちまった』って言って、その次の日にはもう、役所が蓄えてた毛布やらが配布されたんだ。何ヶ月前だったか、まだ寒い日のことでさ……よく覚えてるよ」
「その者の名は?」
「それがね、バナーは秘密だって言うんだ。相手の方から秘密にしてくれってさ。どうやら内密に帝都のあちこちを視察していたんだから大層なお方なんだろうけど、あたしには見当もつかないね」
カイトは思い当たる人物をハガネに聞こうとしたが、ハガネの方も皆目見当つかないらしかった。
「そうやって色んな事を伝えて、ちょっとずつ町は良くなっていって……初めはレジスタンスの奴らとも関わり合いがなかった。けど、いつからか向こうの連中がこっちを勧誘するようになってねぇ。もっと力尽くで、国に色々要求しよう、そのためには大きな組織が必要で、合流しようってね。
『国は自分たちを救うつもりは無い。ただ適当に餌を放って大人しくさせてるだけだ』
そんなことをよく言ってたもんよ。
――実のところ、あたしだってそうかなと思うことはあったわ。あたしたちの暮らしはちょっとずつ良くなっていった。けど、本当にちょっとなのよ。雨の日のカタツムリの方がまだ早く動けるわ、なんて冗談も言われたものよ」
「歩みの遅い馬を、鞭を打って走らせるがごとし――か。道理は通るが、しかし、無謀だな」
(だが、その無謀な挑みに駆り立てたのは我の思惑か)
ハガネは思う。意図しなければ聞こえないハガネの思いに、カイトは少し戸惑いを覚える。朝、城を出る前。昼に歩き回っている時。ハガネは怒りを感じるほど尊大だった。こうして直に触れるだけで揺らぐ実力主義だとは思えない。いまだって思想は変わっていないはずだ。ただ、ハガネの心にも少しずつ何かが起きているようだった。
「そう、無謀な話さね。バナーはそういう勧誘を蹴っていった。すると今度は、民同士の争いになっちまった。バナーたちのすることが連中はどうしてか気にくわないんだ。送ろうとした投書が破り捨てられたりもしたし、お上と通じて自分たちだけ甘い汁をすすってるとか罵倒されたりもした。
そんなことが続くうちに、憎しみを向けられた人たちが、憎しみを向けるようになった。顔を合わせりゃ殴り合いみたいなことも起きる始末で……そういうことが起き始めたあたりから、バナーは色んな連中と関係を切ったのさ」
そこまで話し終えると、バーのママは言葉を切ってハガネの背後を見た。出入り口のドアが開いて、青い肌のインプ族が片足を引きずりながら入ってくる。まるで何事も無かったかのような素振りでひょい、とハガネの隣に座ると、疲れたような笑みを向けてくる。
「よう、お嬢ちゃん。一日に二回もここに来るなんて、よっぽど気に入ったのかい?」
「一日に二度もというのなら、お前も同じことだろう」
「おっと、それもそうだな。はぁ……にしても今日は厄日だ。ちょっとした収入も蓄えにしようって気にならねぇや。ママ、ベーコンのキッシュ一つ。酒はいいや、適当な安い飲みもんも付けてくれ」
「おや珍しい。肉食うなんて今日は気前がいいじゃあないか」
「言ったろう、ちょっとした収入があったんだ。本当は受けたくなかったんだがね、ちょいと厄介な理由で引き受けちまったってわけさ」
何か危ない仕事にでも手を出したのかとカイトは危ぶんだ。バナーは、良い奴だ。魔族にも大変な思いをしたり、良い奴がいたりする。当たり前のことだが、戦争の中で段々と少なくなっていった当たり前の部分をバナーは持っていた。
「……バナーよ。その仕事とは何だ。法に触れるような身の危険があるものではあるまいな」
カイトの意図を汲んでか、それとも自分も気になったのか。あるいは会話の糸口からかハガネはそう聞いた。野菜か果物を搾ったジュースだろうオレンジ色の液体をちびちびと飲んでいたバナーは、軽く首を振った。
「法には触れちゃいねぇよ。……大きな声じゃ言えないが、お上からの話でな。いま帝都で起きてるごたつきを知りたがってたんだ。なんでも、魔皇様がこちらにお忍びでいらしてるってさ」
ハガネは口をつぐんだ。まさか知られているとは。それとも、ダイスがその『お上』を含めた臣下らに言って見張らせたか――難しい顔をするハガネに、バナーは苦笑した。
「何を警戒してるのか知らねぇが、魔皇様の件ならまだ報告しねぇよ。役所の方も閉まってるんだ。それに魔皇様ったって俺はそのお顔もろくに分からねぇし、魔皇様の方から名乗り出られたことも無いからな。調査は難航してるのさ」
「……そうか。しかし、ウェインの商会は見張っていただろう」
「まさかお嬢ちゃんが飛び出してくるなんて思ってもみなかったさ! 豪快に窓まで割っちまってまあ……スカッとしたぜ。ウェインのヤツ、ざまあみろってんだ。ま、本人は逃げちまったみてぇだが……ああ、それで、俺がウェインの商会から出るお嬢ちゃんを見た理由だな。それはお嬢ちゃんを追ってたんじゃない。レジスタンスの連中を見に行ってたのさ」
「レジスタンスを?」
「魔皇様のことを調べてる最中でな、変な噂を聞いたんだ。レジスタンスの連中が魔皇様を町で見かけて、五十人がかりで襲いかかったとかどうとかでな。ウェインが関わってる土建屋があの路地に入ってきたせいで、乱闘騒ぎも終わっちまったみたいだが……自分たちが適わなかったとなると、あいつらヒートアップしちまう。もっと強い手段に出て相手を負かそうとするんだ。魔皇様が城にいてくれるんならまだ大丈夫だろうさ。あの城壁と城門をぶち破って魔皇様と戦おうなんて無謀なこと、勇者様でもなけりゃ実際にはやれねぇだろうさ」
その勇者様は現状ここにいるんだけどな、とカイトは少し情けない気持ちになった。無謀と言うほど勝算が無かったわけではないのだがとうじうじ考えていると、何故かハガネから(神剣と魔剣ではなく、同じ武器を持っていたなら勝負は最後まで分からなかっただろう)というフォローが入った。
「あいつらにだって魔皇様に喧嘩売るのが無謀だってのは分かりきったことだったんだろうな。だから、標的を一旦は変えたんだ。積もりに積もった鬱憤を、ウェインにぶつけようってな。ウェインを叩き潰すつもりなら、もういっそ好きにしてくれって感じだったんだが……まあ一応見張っておくかって思って張ってたら、事務所に入っていった連中が出てきて、かと思えば、窓から飛び出したお嬢ちゃんを追いかけ回し始めちまった。お嬢ちゃん、すげーな。屋根をあんな軽々飛び回れるなんて。おかげでどこに行くのか追うのも楽じゃなかったぜ」
「我がどこへ向かうか見えていたのか。だとしたら何故、すぐにここに入ってこなかった?」
「そりゃあ連中の動向と、商会の前から出た馬車の行方を探るためさ。本当はさっさと帰りたかったんだがね。巻き込まれたら命が危ない。けどまあ、最後のご奉公だと思ってな。ほとんどやけっぱちさ。もう二度と仕事は受けないと思いながら追ってたというわけだ」
一呼吸入れるようにバナーが言い終えると、バナーの前にベーコンのキッシュが載った皿が出された。
「ベーコンはサービスで増量しておいたげたよ。で、サービス料として、この店でピリピリしてるのをどうにかしてくれないかねぇ」
「サービスって言いながらちゃっかりお代を取ろうとするのはどうかと思うぜ、ママ。いや、いいんだけどな。」
「後ろの連中は、何なのだ? 何をするでもなく集っているだけのようだが……」
「さあなあ。直接聞いた方が早いだろ。――おーい、バリスタ! いい加減そんなしかめっ面してないで、こっちに来て話そうぜ。それともママの前じゃ誰に告げ口されるか分かんねぇってか?」
バナーが呼んだのは、隅の方のテーブルに一人で座っていた男だった。かなりの巨躯で、身長はゆうに3メートル以上はあるだろう。肌の色は浅黒く、肉体は筋肉質で、典型的なトロール族だった。よく見るとバナーに比べて顔のしわもなく、むしろ目鼻立ちから若い青年のように見えた。
バリスタと呼ばれたトロールは呼ばれて驚いた様子だったが、すぐに冷静さを取り戻したようで、軽く会釈をしてテーブルを立つとバナーの隣に座った。トロールの中では平均以下の体躯に見えたが、それでもハガネとバナーは、彼の顔を見るために軽く首を傾けなければならなかった。
「紹介するぜ、バリスタだ。いまのクレブリック地域会のトップさ」
「……トップってほどのもんじゃねえ。みんなデカくて強そうな方がいいだろうって、退役軍人の俺にお鉢が回ってきただけだ。全然強くねぇよ、腕もこれだ」
軽く掲げた腕の動きはぎこちない。指や肘の節は丸い関節が剥き出しになっている。右手が義手になっていた。
「よく戦ったようだな」
「褒められたもんじゃねえ。勇者と戦うどころか、人間の、普通の兵士とやりあってこれさ。向こうの腕も落としてやったが、それが俺の精一杯だ。トロールとして恥ずかしい」
「敗北は恥ではない。真の恥とは信念を失うことだ。どうやら役所に陳述を出していたようだな。世に見せられぬような恥は掻いていないだろう」
「どうだかな。でも……あんたのような方にそう言ってもらえるのは嬉しいよ」
どうやらこの男も、目の前にいる少女が魔皇だと知っているらしい。横からバナーが「お嬢ちゃんのことを話したのは、ここにいる二人だけだ」と言ってくる。二人の様子から口は堅そうだという印象をカイトは受けたが、どちらにしろハガネは堂々と街路で名乗っているのでそこまで気を使わなくてもいいことだろうと思った。
「で、バリスタよう。どうして地域会の面々がここに揃ってるんだ? やっぱりレジスタンス絡みかい」
「ああ、そうなんだ。レジスタンスが力尽くでウェインをどうにかしようって話は俺たちも掴んでて……けどそれは非合法なことだろ? だからどうしようか話し合おうとしたんだけど、会の中でも意見がバラバラになっちまったんだ。警察に通報しようってやつ、静観しようってやつ、一緒になってウェインを叩く好機だってやつ、力尽くでも止めてやろうってやつ……」
「てんでバラバラだなぁ」
「そうなんだよ。なあバナー、せっかく来てくれたんだ。どうにかして話を纏めてくれないか?」
「本当は帰って寝たいぐらい疲れてるんだがね。いいさ、乗りかかった船だ。しかし俺はお客さんを相手にしなきゃならないんだ。先にそっちの話を済ませちまおう。なに、長くかかる話じゃないさ」
そう言うと、バナーはバリスタからハガネへと視線を移した。ハガネも同様にバナーへと目をやる。
「お嬢ちゃんがどうしてこんな時間に町を出歩いてるのか、俺には分からねぇ。さっさと帰って、心配してるだろうご家族の方を安心させてやりな。何でかウェインの商会に入り込んでたみたいだが、興味本位で首を突っ込むようなことじゃあねぇ。後は大人に任せときな」
「悪いが任せられん。我は――」
「駄々こねちゃいけねぇぜ。いいか、真っ直ぐお家に帰るんだ。この件に深入りしようとして、たとえばいまウェインがいるクローセ通りのトチライ興産なんかに行ったりするなよ」
ハガネは呆れて笑いそうになるのを堪えて、しかめ面になった。カイトの方はというと笑っても空気を壊せないので、ハガネの頭の中で遠慮無く笑っていた。正体は知られているのだろうが、あくまでもバナーは、魔皇が目の前にいるということを知らなかったという体で通すつもりらしかった。
「なるほど、トチライ興産か。そこが危険なのだな」
「そう、危険だ。ア国から来た商人も交えて何か話してるって噂だからな。さっきの襲撃だってあるし、何かしらの対策は取ってるだろ。少なくとも事務所の前に見張りは立ってたからな。前をうろちょろしてたら捕まっちまうぜ」
「なるほど、よく分かった」
ハガネはそれ以上何も言わなかった。バナーはハガネに向けて小さく頷くと、バリスタの方へと向き直った。
「――さて、小さなお客様との用事も終わったことだ。面倒事を引き受けようかね。ああ、キッシュが冷めちまったよ。これ食ってからな。……ん? お嬢ちゃんまだいたのかい。ほら、夜遅いんだから。さっさと帰りな」
ハガネは無言のまま席を立った。バーのママに目礼だけをして、その場を立ち去る。客たちの視線はやはりハガネに向けられていたが、バナーと話したあたりから、その視線に含まれていた険は和らいだようだった。
外に出れば、雲がゆっくりと月の上を横切っていくところだった。暗い路地を歩きながら、ハガネはふと笑いをこぼした。
(どしたんだ、いきなり笑い出して)
(……いや。信念無きことが恥と説いたのを思い出してな。あのトロールの若者にそう説いている我こそが、信念を失った者ではないのかと、そう思っただけだ)
(信念か。お前の信念って、何だったんだ?)
カイトはそう問いかけた。しかし、ハガネからの答えは返ってこなかった。沈黙の中、言葉にされない意識だけが何となく伝わってくるようだった。話したくないというより、話せない、という戸惑いのような感情を、カイトはハガネから感じ取っていた。
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