第十章 あの頃を思って

 二〇二〇年。

 俺と聖は家のリビングで昔話の花を咲かせていた。

「懐かしいね、あの合併吸収報道が出てから横浜フリューゲルスは一度も負けなかった」

「それをニュースとかで何をトチ狂ったか『合併問題でチームが一つになった』とか言ってたな」

「はは、覚えているよ。それに対して君が中指立てて『はぁ!? フリエは最初から一体感の強いチームだから! 適当なことほざくな』って言ってたのもね」

「そう言う聖も評論家が『最初からこういう試合をしていたら合併にならなかった』って言う言葉に対して『は? 何をしたり顔でアホなこと言ってんのこのハゲ』とか言ってたよな」

「事実だからね」

 澄ました表情でコーヒーを啜る聖。それから二人の会話がなくなる。リビングに響くのは天皇杯決勝の試合の音声。

 そして聖がポツリと呟いた。

「天皇杯の準決勝。覚えているかい?」

「覚えているよ。お父さんがチケット取れたからって準決勝も長居スタジアムに観戦に行ったな」

「開始早々に永井がボレーを決めてくれたよね」

「そうそう。それでその後に相手にレッドが出て退場処分になったのを薩川がガッツポーズしちゃってイエロー出されてなぁ」

「しかも薩川、その後にもう一枚イエロー出されて退場だもんね。流石に僕も『お前何やってるんだよ!』って怒鳴っちゃったよ」

「でも選手はその一点を守りきってくれてなぁ」

 そして俺は天井を見上げる。

「泣いたよなぁ」

「泣いたよねぇ」

 俺達は横浜フリューゲルスが天皇杯決勝に進んだことに泣いた。そして同時に後1試合で横浜フリューゲルスが消滅するという事実に泣いた。

「最後だったんだよなぁ……」

「最後だったんだよねぇ……」

 一九九九年元旦。第78回天皇杯決勝戦。

 横浜フリューゲルス最後の試合である。

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