第12話 狂鬼乱舞に候

 鬼に金棒、鬼の居ぬ間に洗濯、様々な言葉に潜む彼らだが、それ程の感覚で〝恐れ〟として潜在意識に刷り込まれているのだろう。


何故ならどれも鬼の付く言葉というのは、注意喚起を促すものばかりだ。


「餓鬼!」「金鬼!」「水鬼!」


「名乗るな!」『息が合うな。』

「鬼同士ですからね」

「一緒にすんな!」「すみません。」

屋根の上にて派手にポージングを決め名を名乗り顔を決める。緊張感という言葉とは縁の無さそうな連中だ。


【鬼共が増えた!】

【何匹いても一緒だろ】

【そんな事より雨が降らない。】

 豪雨がしゃんと止んでいる、剥き出し風と冷気が行き場を無くして浮つき漂っている。

「本日は晴天なり..と。

やはり原因は此奴だったか」

【何者だ貴様!】

【いつの間に背後に..?】

【なんて事をしてくれるのさ‼︎】

声の主は直ぐ近く、妖共の傍に寄り添っていた。手元には肌と似た色に濃く染まる変わり果てた魃の姿が。

「怨京鬼!」

名乗るのは洞穴より舞い降りたもう一つの鬼、初対面が隠密の奇襲攻撃とは少々礼儀を知らぬ恥者だ。

「気にするな、死んではいない。

..殆ど虫の息ではあるのだろうがな」


「けっ、タチの悪りぃ奴だぜ。」

「聞こえてるぞ童子

お前も〝隠して〟やろうか?」

『童子、誰だ奴らは』

「吼舵さんも知らないのですね。」

腐れ縁ですら知らない同族のルーツは何処いずこ、随分とフライ関係性のようだが童子は頑なに話さない。

「見りゃわかんだろ。

すっげぇ嫌な奴らだ、糞野郎共だ!」


「ひでぇいいようじゃねぇか飲兵衛、同じ鬼だってのに、変わり無ぇだろ」


「だから一緒にすんなってんだ!

俺がいつ不意打ちで奇襲掛けたよ」


「それはおれの事いってるのか?」

狐や蟲のように特別ソリの合わない連中が居たのだと思ったが、単純に協調する順応性が薄かったようだ。

他に好かれる性質ではない、酒以外の友はいない。だが苦はまるで無い。


「仲良くしてくださいよ..」


『無理を云うな、奴にそこ迄の度量は無い。珍しくお主には人が良いがな』


「確かに、一度死にかけたけど...。」


利用価値があるからか周囲よりは扱いが丁重だ。あくまでも〝周囲より〟だが、取り敢えず命の保証は有る。


「他の奴はどうしてる?」


「街で大暴れよ、云うまでも無ぇ。」


「けっ、くだらねぇ」


『まだいるのか、鬼共は。』


「おれ達はかつてこう呼ばれてた。

 奈落十面鬼」


「...カッコ悪。」

由魅子の地元である埼玉県でも似たようなゴロツキ集団がいた。

「秩父紅蓮ペガサス」

県内の工業高校で結成された不良組織

彼等がたむろするコンビニの前は地元の人々から「ペガサスの庭」と呼ばれ前を通る人々から苦笑いをされるという惨状を常に繰り広げていた。


「もしかしてあの人たち...違うか。」


「任せていいか?」


「なんだよ、頼ってくれんのか」


「俺は閻魔を探してぇ、こんなもんにかまけてる暇はねぇんだよ。」


【こんなもん?】

【馬鹿にされてるよねぇ。】

【凍えて眠りな!】

【………。】

仮にも上級妖、舐められたものだと憤りを露わに歯を噛み締める。鬼は通常妖から見れば地を這う堕ちた存在、上からものを言われる事など有り得ない


「勝手に何処へでも行け。

暴れたい場所が此処で無いのなら、存分に愉しめる場所を探した方がいい」


「..物分かりいいじゃねぇか。」

生粋の遊び人だ。

娯楽の無い奈落では自由な発想が求められる、洞穴に居る時期もまたそれを練る遊び場なのだ。


「女戻れ、行くぞ。」「はい!」


街は既に住う空間じゃない。

暇を持て余しやっとの事で発散が出来ると羽を伸ばすケダモノの巣穴、骨すらしゃぶり残さない、格好の溜り場。


「悪りぃが頭かち割るぜ?

金棒も少し振らねぇと錆びちまう。」


イナゴは群れで動く際、稲穂を総て喰い尽くし更地にするという。

餌を前に野晒しにされれば皆同じ、品があろうと節度を持とうと野性に還る


妖は鬼に喰い殺される。


【天狗の一振り災いの元!】

「なんだそりゃ?

風で人を殺せるって事か。」

海が無くとも水は溢れる、水脈というものは零の場所から見つかるものだ。

金棒一撃地べたに垂直、水鬼とは文字通り水遊びの達人である。


「津波に沈め、高っ鼻...!」


【な、なんだと..!?】


起こした竜巻に水流が巻かれ、渦を逆向きに変え天狗の元へ戻っていく。


「逆駒回し、まぁまぁの曲芸だろ?」


天にて溺れる天狗というのも中々にオツなものだ。現代なら写真を撮ってる


【なにやってんだよ天狗の野郎。】

「アンタもまぁまぁ危ないぜ?」

 腹の飛び出た餓鬼は常に飢え食事を探している、空腹が収まる事は決して無いのだが。

「それよりお前、食いもん無ぇか?」


【..馬鹿にしてんのかよ。】

怒りの雷、のほほんと見上げる鬼に対して寸分の狂いも無く脳天に叩き落した。加減を知らず、幾度も続けて。


「なんだよ怖ぇなぁ..ちょこっと聞いただけじゃんかよ、あー腹へった。」


【なんで生きてんだ、当たってたろ】


確かに当たった手応えを感じた。

しかし平然と腹を掻きながらあくびをしている。そんな筈は無いと威力を高め、再度鬼を目掛けて雷を落とす。


「....あん?」【なんでだよっ!?】

「ん、あぁこれの事か。返すよ」

口を開けてだらりと垂らした舌の上には鈍く光る泥団子のような玉がある、餓鬼はそれをあろうことか素手で掴み雷獣目掛けて投げ飛ばした。


【が..なんだ、こりゃあっ...⁉︎】

「貰った分の飯だけど、不味いからあげるね。おれ以外じゃ相当痛いだろうけど、別にいらねぇから」

軽く当たり弾けた玉はガラス片のように硬い飛沫となり雷獣の腹に突き刺さる。幾度も与えた雷の衝撃だ、意識を保つ余裕もまるで無いだろう。


「あー腹へった。」


【雷獣まで...何事なのさ!】


「舐め過ぎなんだよ。

..お前らは所詮その他一同だ」


【鬼如きが、凍えて砕けちまいな!】


絶対零度スレスレの冷気の氷流、下手をすれば雪女にも影響を与えるほどの温度を誇る。鬼であっても直接受ければ粉々に砕けるであろう。

〝通常ならば〟

【凍えて落ちろ!】「うおっ!」

 赤い肌に触れた途端に凍結し、一気に身体を凍りつかせていく。

数秒と待たず結晶となり大きな塊が出来上がった。


【なんだよ、所詮は口だけか。】


「……手も出して欲しいかよ?」

氷が徐々に頭から、ぴりりとひび割れ

崩れ落ちる。中から元気な鬼の子が泣きながら顔を出し誕生する。

鬼太郎とでも名付けようものならおじいおばあの命は当然無いだろう。


【...え?】「お前が堕ちろ。」

金棒一閃、その後の事は覚えていない


「さぁて、粗方終ぇか?

後は他に任せるか。」


「だね」「お腹空いた。」


「また暇人かよ、つまんねー」


「文句云うな水鬼、あと喋り方変えろなんか被ってんだよ俺と。」


「知るか!

それよりこれからどうすんだ?」


「ん、そうだな。

...人探しの手伝いでもしてみるか」


と言いつつそこへ向かう道中の妖を叩きたいだけなのだが、物は言いようといったやつだ。

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