第3話 旧鼠、猫舌、またたび要らず

 『蓋閉めろ、数が増える』

 やらずとも既に遅い事暗いわかっていた。独立独歩の狩人である筈の猫が集団を作っているのだ、逃げ場は無い


『とっくに化かされてたぞ。

正義ヅラしてみっともねぇ事したな』


「窮鼠猫噛むですよ。」『あん?』


「鼠に被害を被っているように見せおびき寄せたんです。」


『呼んだ人間に鼠を駆除させて、頂く寸法って訳かよ』


「違います。」『あん、じゃあ何だ』


人を喰らうのが目的ならば、他の街へと駆り出して、直接喰らえば話が早い。しかしそれをしないのは、本来の目的が〝ソレ〟では無いからだ。


「鼠を育てているんですよ、餌を与え丸々太った鼠を満を持して喰らう。人はそれに伴う前菜のようなもの」


人の住んでいる家屋を街ごと奪い町人に化け、家中に旧鼠の好む餌を置く。捕食する餌を己で育てる訳だ。


『確かに野良だとすりゃ家はいらねぇ

...お前何で奴らが野良だと?』


「首輪を着用していません、飼われているなら着けるのが義務です。」


『化け猫がそんなもん着けるかよ..』


 初めての事でなく化け猫たちは以前から様々な街を奪い鼠を育てて喰べてきた。その度に住人は前菜として皿に添えられた。


「ニャー..」『すっかり囲まれたな』


「拳銃でもあればいいのですが、生憎持ち合わせていません。ここは潔く、逃亡を図るしか...」


『馬鹿か、逃げたら猫が外に行く。巣穴を拡げるようなもんだろうが』


「確かにそうだ、ならどうすれば..」


臭香酒の効果が切れる、今更遅い期限に苛立ち蔑んだところで変わる現状は何も無い。


『瓢箪に酒を注ぐ、そしたらそれをぐいと呑め。』


「...言ってる言葉の意味がよく..」


『いいから呑め。全部だ、いいな?』


猫と宴で仲良くしろと言うのか、並々注いだ瓢箪の酒を喉へ流せと言ってくる。他にアテが無いからと、従う他選択肢が無いが確実に悪酔いをする事は決定事項となり果てた。


「...ぐっ..ぐっ...!」


『全部飲み干せ』「....ぷはっ!」


『上出来だお廻り、よくやった。』


嫌に辛い酒だった。

まるで煮えた血を流し込むような、喉越しの悪い癖のある酒。


『お前の身体、借りるぜ?』


周囲に一瞬気迫が拡がる、その後見えたのは赤い肌と、鋭く穿つ二本の角。


「痛って..小せぇなぁ、コイツの体。気ぃ抜いたら節々を折っちまいそうだ

浄化どころか消滅だな。」


「ニャー!」「驚いたか、宿り酒だ」


 宿り酒。

 臭香酒と同様に期限があるが、呑ませた体に鬼の力を憑依させ操作する。酒の期限は個人差で決め、基準はその体が保つかどうかだ。

「恋いよ野良猫ども、震える程叩き壊してやるからよ。」


「ニャー!」

多対一も戦力は鬼、野性の獣が叶う筈も無し。無駄な戦が時代に消える。


「窮鼠猫を噛むだったか?

ケダモノの歯は柔らけぇなぁっ!」


顔を殴った赤い拳の掌に、血溜まりの牙が浮いている。それを再度握りしめ粉々にして、拳はそのまま次の猫の顔を吹き飛ばす。


「脆いなおい、テメェらに喰われるような連中ってのはどんな奴だよ?」


祭りのように吠え猛り、狂気乱舞の暴威を振るい騒ぎ立てるも借り物の器、思うようには遊べない。


「そろそろ腕が折れるな..時間も無ぇし面倒だ、纏めてかかって来い。」


地面に掌を付き、気迫を大きく拡げる

言葉の通じない化け猫にも伝わるよう物理的なシグナルを送るように。


「ニャー!」「上出来だ..猫助」

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