3

起きた。

「え?」

起きたというのは、どういうことなのか。生きているのか。

拳銃を探した。ひしゃげているのがひとつ。

「違う。予備のほう」

「これのことか?」

倒れていた姿。ひっくり返る。さっきまでナイフを握っていた手に、予備の拳銃。

「そう、それ。撃ってくれる?」

引き金が引かれる。弾が出ない。

「え?」

「俺がナイフを打ちつけたとき、たぶん、壊れた」

「じゃあナイフで殺して」

「なぜだ」

「なにが」

「なぜ死ぬことにこだわる」

「この街のためよ」

街が平和になるなら、私は、必要ない。

「お前も、この街の一部だろ。死ぬなよ」

「いや。私は死ぬの。あなたに刺されて。あなたは生きてもいいかもしれない。でも私は」

「俺も、そう思ってた」

「でしょ。私たち似た者同士だから」

「違う。いや、違うと思いたくなった。さっき、会ったとき。お前は逆光で俺の顔が見えなかっただろうけど、俺はお前の顔が見えてしまった」

「だからなに」

「切ない顔だった」

せつない、顔。

「救うべき人間の、街で俺たちが必死に守り続けたいと思った、あの顔だった」

「だから、なに」

「わかんねぇのか」

「わかるわよ。わかるけど」

認めたくない。私が、助けを求める側に。

「だから、助けないといけなくなっちまった。全然、違うもんだな。逆光ひとつで」

倒れている顔を、のぞきこんだ。

そして、わかってしまった。

「あなたも」

「やめろ。それを言うと、俺も死ねなくなっちまう」

「いや。自分だけ言って逃げるの?」

「やめろ」

「あなたの顔も、せつない。助けを求めてる」

「やめろ」

「どうしようか、わたしたち。お互いに死ねなくなっちゃったね」

「とりあえず、どこかで眠ろう。雪も降ってきた」

「そうだね」


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