第3話 耐えられないときは
姉さんへの気持ちを隠しつつ生活している私だが、もちろん耐えきれないときはある。
「ごめんなさい…お姉ちゃん…」
姉の部屋から持ってきたワンピースを罪悪感に苛まれながらも匂いを嗅ぐ。
耐えきれないときはこうして姉さんの服をこっそりと持ってきて匂いを嗅いでいる。
姉の匂いは甘くもあり爽やかでもある匂いだ。この匂いを嗅いでいるだけで、醜い心が洗われる気がする。
だが、この行為自体が醜いものでしかないのだが…。
たっぷりと姉さんの匂いを堪能したあとは、バレないように姉の部屋に戻す。
見つかる可能性は無きにしも非ずだが、こうでもしないと心の蓋が開いてしまう。
自分でもこの行為はほんとに醜く浅ましいものであると常々感じてはいるのだ。だが、止めることはできない…。
姉さんは今のところ気づいてはいない。
気づかれてしまったら、言い訳を述べるしかない。気持ちを隠したままどのように言い訳をすればよいか全く考えられないが…。
ーーーー
幸い、今のところ姉さんは恋人などは出来たことはない。気になる男子の話なども一切ない。
しかし今後、姉さんにも好きな相手ができて付き合ったり結婚もするだろう。
姉さんは人気者で美人で優しい人だ。
誰も放ってはおかない。
「お姉ちゃんにも彼氏とかできるんだろうな…」
ふと、口から言葉が漏れた。
もし姉さんに彼氏ができたら私はキッパリと諦められるだろうか…。
想像しただけで吐き気を催す。
絶対諦められる訳がない。
私は幼い頃から姉さんに恋をしていたのだ。
誰よりも姉さんのことを愛している自負もある。
なぜ姉に、女性に恋をしてしまったのか。
片時も私の心から離れない疑問が浮かぶ。
近くに、同じ家に住み、手を伸ばせば触れられる距離にいるのにすごく遠く感じる。
まるで、物語の中にいる人物のように感じる。本の人物は一応、その人物の名前を触れれば少しは触っている気持ちになれる。
しかし、こちらの想いが届くことはない。
私と姉さんとの感覚に似ている。いくら触れても、こちらの想いは届くことは決してない。
ただ心の内に秘め、想像するしかないのだ。
だって、実るはずがない恋なのだから。
そこまで心の中で想像したあと、ふと窓の外を見る。
「綺麗な月…」
暗い闇の中で月が爛々とまるで自分を見せつけるように青白く光り輝いている。
私は月が好きだ。
ほんのりと光り私を優しくそっと抱きしめてくれるような感覚になる。
そして少しだけでも私の心を救ってくれる。
何も言葉はかけず、そっと闇夜に浮かび、夜を照らしている。
ふっ、と軽く微笑みながら布団に入る。
「おやすみなさい、お姉ちゃん…」
姉さんもこの月を見ているのだろうか。
ふとそう考えながら眠りについた。
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