第205話

 妹は何だかんだと言っていたが、暫く……すら我が屋敷に留まる事なく、さっさと伊織の屋敷に赴き何と朱明の妹でありながら、北の方と呼ばれる様になった。

 一体妹のどこが、お気に召されたのやら……。

 身内の欲目は人一倍あるものの、どんなに考えたって、伊織を独り占めできる女では無い……と思うのは、真に身内だから思える事だ。……まぁ、贔屓目ひいきめであるが、器量は良い方だ。決して美人系では無いが、愛らしい顔をしている。だが高貴なお方の姫の様な躾けはされていないし、好奇心旺盛でじゃじゃ馬的な処があるのも、我が家の緩〜い躾けの所為だ。

 とにかく三高処ではなく、何だってこなせる天才肌の伊織だ、我が母の血を引く妹は、朱明に劣らずのボーとしているタイプで、おっとり型であるし、朱明の様に慎重派小心者でないが為、ちょっと何をしでかすか不安なタイプなのだ。そんな女人として抜きん出た処の無い妹が、男の最高峰的な、伊織の愛を独占できるとは……これはもはや神仏の加護か、父の思いの他には考えられない領域である。

 祝宴の折に思わず朱明が、伊織に聞いてしまった程の疑問である。

 すると伊織ははにかむ様に、兄となった朱明を見た。


「確かにそなたの妹ゆえ、実に面白い……」


「はっ?」


「世の姫とは物の捉え方が違う……実に飽きぬ女人だ」


「さ、さようでございますか?……そんなに変わっておりましょうか?」


「……さすが妖し屋敷の姫である」


 朱明は思わず絶句してしまった。

 伊織のはにかむ様子と、多少紅潮する顔を見ていれば、が可愛くて仕方ない様だが、何だか朱明には納得がいかない。

 妹がさっさと出て行ってしまってから、母にその事を伝えると、母はそれは嬉しそうに、目を赤くして朱明を見つめた。


「ほんに有り難い事……伊織様の様なお方に、その様に思われて……」


 その涙は悲観的ではなく喜びの涙と思うが、未だその様な相手に巡り会えぬ朱明には到底解らぬ事だ。

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