第206話

 朱明は再び今上帝にお召し頂き、今度はひさしに座して妹の婚儀の際の礼を申し上げた。


「妹の婚儀におきましては、皇后様よりもお祝いの品を頂き……」


 畏まって朱明が言うと、今上帝は御簾越しであるが


「気に致すな。皇后にとってそなたは、今生の縁者である……ならば妹の祝いにりきを入れるは当然の事……」


「恐悦至極にございます」


 重々しく頭を垂れる。


「何せ皇后である。夫である伊織は、妻に事が多々とあると致し、暫しのとあいなった……」


「は?」


じきに伯父とあいなろう……」


 今上帝は御簾越しながら、少〜しの溜め息を御吐きになられ言われた。


「あー」


 朱明が、反応のしようがなくて俯いた。

 何と気が利くというか……に関しては、嘴の黄色い雛の御頃から耳年増と言われ、主上をあたふたとされておられたが……相変わらずのご様子に、ちょっと笑みが溢れてしまう朱明である。


「……ゆえにそなたにも、好いものを……とヤキモキと致しておるゆえ、気張るのだな」


 今上帝は少し、笑いを浮かべらて言われた。


「ところで陰陽頭おんようのかみ


 だが直ぐに声音を落として言われたから、朱明はおもてを上げた。


「ただ今大掛かりな、宮中の整理を行っておるは承知であるな?」


「あーはい……」


 朝廷が、大きく変わろうとしている。それに伴い、各役職において整理が行われている。古き物を見直し、新しき物を導入する為の整理だ。

 決して古い物を切り捨てる、御つもりが無いゆえの整理といっていい。


「……そこでかつて天孫降臨の際に、天よりお持ちの御神刀が見つかった」


「は?……かつて御遷都の際に喪失された?」


 今上帝が御指図された様で、蔵人が重々しく御神刀を朱明の面前に置いた。


神祇じんぎの者が申すには、確かなる物とか……そなたは禁庭の祭祀の折に、それは物凄いを見せつけた、ゆえに確認してもらいたいのだ」

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