第199話

 とにかく朱明は、気が気では無くなった。

 そんな手慣れた感漂うあいてなら、こんな怪しげな家柄の娘だから、きっと本気で通っているものではないかもしれない。

 だがしかし、は妹は、父が今上帝の御命の為、ひいては法皇の御為に命をかけたその折に、母の腹に宿っていたそれは尊い妹なのだ。

 きっときっと父は、未だ見ぬ我が子を思い覚悟を決め、心残りがあるとすればそれは妹であったはず……の、我が家ではそれは尊いものなのだ、そんな大事な妹を遊び半分で通われてはかなわない。

 今宵の様子によっては、蔵人達の大ボスである伊織に相談して、妹が夢中なのだから絶対娶らせる事としよう……そう決めた。

 そう思って朱明は、フッと気がついた。

 こんな頼りなく生きて来た自分だが、いざ妹の結婚に際して頼れる、それは驚く程の権力者を得ている事に吃驚した。

 一人は今上帝が最も御信頼なされる乳母子の伊織、そして今上帝が最も愛される皇后……。この御二人の御力を御借りすれば、決して妹を不幸にはしなくて済む……そう思って朱明はちょっと、自分が誇らしかったりした。


 そんな朱明の気掛かりを他所に、その夜もかの公達は通って来て、どうやら朱明の心配は危惧に終わりそうだが、これでも朱明は未だ心配している。三日通って三夜餅を、食べてもらわない事には安心ならない。

 何とも心配性であるから、最後の最後迄安心できない性分なのだ。

 第一最後まで行かずに、捨てられるケースも、捨てるケースもあるのは事実だ。

 だが妹はとうが立っていて、かなり男にご執心だから、余計に捨てられるケースしか頭に浮かばない。朱明だってこれが最後のチャンスだなどと、身内ゆえに思い込んでもいるから、捨てられた時のダメージを考えてもしまうのだ。

 また家柄的にも、正妻にはなれないだろうと思っている。

 蔵人は出世コースの職場だから、家柄重視のこの国で朱明の身分では、妹は正妻には望まれないだろう。



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