第200話

 それでも、独り身で過ごさせるは哀れだ。

 こんな家柄じゃなければ、もう少し早く娶ってもらえる相手もいただろうが、何せグロいあやかしの居る家という世間の認識……あながち嘘で無い処が悲しい……だから気味悪がって、通ってくれるものがいなかった。

 たぶん他の屋敷に住めば、婚期は逃さなかっただろう。否、朱明がもっとしっかり者であれば、一族の内からでも……否々……。

 とにかく正妻などと、そんな贅沢な事を考える妹でもない。

 中津國は通い婚で妻方の力が物をいうから、蔵人の様に先が洋々とした官人ものには、それなりの実家の力を持つ妻が存在するだろう。つまり実力者の父を持つ妻が正妻として存在しているかもしれないし、正妻はそういう相手を選ぶだろう。正妻の座は同居する事によって世間に知らしめ、正妻が居住する対屋たいのやも存在する。正妻の産んだ子は嫡子として認識され、通う妻達の子供とはかなり扱いが違うから、子供の将来の出世にも関わってくる。世の女性なら正妻の座につきたいが本心だ。

 まっ……その蔵人の身分によるだろうが……。


「?????」


 朱明は初めてではなくて、相手の名を知らない事に気が付いた。

 余りに身分だとか蔵人に拘り過ぎて、相手を聞き忘れてしまった。


 ……どんなヤツか調べねば……


 使用人などは母が了承していれば、それでいいものだと認識している。

 確かに頼りなく生きて来た朱明よりも、母一人で二人の子を育てた母の方が、使用人達の信頼とて厚いし、家の事は母任せだったから当然の事ではある。

 翌朝母に聞く間もなく参内したので、朱明は焦れる様に考える。

 とにかく今日は早く帰って、母に確認して伊織に相談しよう……。

 やはり、頼りにならない朱明である。

 二日通って来たので、慌て始めている。なぜ最初に慌てないのか……。

 そんなこんなで、早退でもしようかと思っている処に、運良く伊織から呼び出しがあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る