第197話

 さて朱明の妹の件を御聞きの今上帝は、かなり真顔の皇后様をじっくりと見つめられる。


「確かに私と同年であらば、女人としてはとうが立っておるな」


「さようなのか?我らはそういった考えはないからなぁ……何万歳の瑞獣ものが、何百歳の瑞獣を夫としたとて可笑しくはない……要は互いが気に入るか……だけだ。とにかく我らの生は長いからな……」


「そなた達は、いつまでも変わらぬからな……」


「……そうではない。我らはここで決めぬのだ。ここで決めるのだ。ゆえに見た目など気に致さぬ」


「……それがそなたの御母君様の、であるか?」


 今上帝はスルリと皇后を、背後から抱き包められて言われた。すると皇后は嬉しそうに、クルリと向きを変えてしがみ付かれる。


「……そうなのか?試しであったのか?」


「そなたを……」


「……そなたは何処まで愛してくれる?」


 皇后碧雅は、ジッと覗き込む今上帝の鼻に、鼻を擦り付けて聞いた。


「……青龍を抑える程に……」


 御ふたりは暫し時を御忘れになられて、唇を合わされる。


「……確かにそなたの縁者二人にも、この幸せは分けてやらねばなるまいな……」


 今上帝は唇を離されると同時に、妖しく色を放ち始められた妻を見つめて囁かれた。


「……縁者?」


「おうよ。伊織と陰陽頭おんようのかみにも、愛らしいものを当てがわねば……」


「陰陽頭?」


 碧雅が怪訝気に、首を傾げて今上帝を見つめる。

 それを見て今上帝は、笑みを御浮かべになられた。


「安倍の朱明だ」


「陰陽頭になるのか?」


「……いや、その先を見据えての陰陽頭である」


「?????」


「伊織と共に、は私の側に置く」


 今上帝はそれは神妙な顔を作って、碧雅を抱き上げられた。


「……そなただけで充分であるが、の父の分も高みに上げる……の父には恩がある……」


 今上帝は碧雅を抱き抱えて、御帳台に向かいながら言うが、もはや碧雅はそんな言葉は聞いていない。


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