第196話

 伊織とて彼女達を蔑ろにしたい訳ではないが、とにかく余りにも今上帝の思いが切な過ぎて、とても自分が思うあいてと、幸せになる気が起きなかったというのが本当だし、伊織程になると互いの思いだけの事ではなくて、相手の親の思惑も動くから面倒な事が多かった。

 だがやっと今上帝も最愛なる皇后様を得られ、一男一女をもうけられお幸せとなられたので、そろそろ我が身もわびしくなって来た頃合いとなった。

 宮中も新旧交代となり、今まで伊織が頼りとし目にかけて来た者達が、続々と出世を果たしているし、高嶺には年嵩の者達が、役職となっている処が存在するが、実質動いて今上帝をお助けする位置には若い者達が配され、朝政に参議する陣定じんのさだめもかなり若い者達で占められた。そして新たに実施した登用試験で、かなりの人材を得られている。

 つまりこれから真実、朝廷は若返りを見せ、大青龍を抱きし今上帝によって、親政が行われて行くという事だ。否、力と云う力全てが、今上帝に集中する政が始まる。

 伊織はそれを思うと、面白くてワクワクとするばかりだ。

 そしてそれによって高揚も覚える。


 ……そうだそろそろ我が身も……


 と、大きく事が動き始める前に、心の安らぎの場を作っておくのもいいかもしれない、と思い始めた。

 伊織は激しく没頭型だ。

 先がどんどん読めるし見えて来るから、それこそ今上帝が政を司られ始めたら楽しくなって、女などに気がいかなくなるだろう。

 だが切な過ぎる愛を御捨てになられた今上帝が、一途に相思相愛を貫かれる皇后様との、それはお幸せそうな御姿を見ていて、伊織はああいう夫婦もいいものだと思う様になった。

 否、恐妻家にはなりたくはないが、愛妻家にはなりたいと切望する様になった。つまり散々御心配申し上げて、見守り続けた今上帝の恋愛を見て、我が身も恋をしたいと思い始めたのである。

 伊織はバリバリ婚活期に、入っているのである。


 ゆったりと進む牛車に揺られながら、伊織は物見から空を見て物思いに耽った。

 ……ああ、忘れられないものの顔が浮かんだ。

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