第180話

 貝耀がいようは、瞬時に覚悟を決めた。

 ……鬼島から逃げて来た時から、もはや覚悟は決まっている。

 ただ朱明の呪具となれぬのだけが心残りだが、それも天意ならば仕方のない事だ。そう思った瞬間、大池の水柱が大きく動き、それは物凄い音と水飛沫を上げた。するとほんの一瞬、今上帝が視線を大池に送った、その隙を突く様に朱明の放った雷が、貝耀を通って今上帝に向かった。交差する様に、今上帝の金色の閃光が貝耀を呑をみ込んだが、朱明の呪のこもった雷を受けて通した貝耀は、もはや意識を失していた。ただ温かく香しい何かが、貝耀を包んでくれていた様だが、そんな記憶は真実か最後に感じた幻覚なのかは解らない。

 その後朱明と共に、朱明の屋敷で目を覚ました。

 朱明は儀式の大半を覚えてはおらず、貝耀は天意によって朱明がその身を動かしていた事を理解した。


「主上におかれましては、再びお眠りになられておられるとか?」


 お師匠様が、一躍と五一を側に置いて言ったので、ぼんやりしていた朱明は孤銀に促されて、慌てて現実に戻った感じで師匠を見た。


「あーはい……。しかしながら此度は皇后様が、ずっとお側に居られますゆえ、じきにお目覚めであられましょう」


「さようでございますか?神社仏閣の祈りは、皇后様に届いたのですね?」


「……はい。神社仏閣の祈りが始まってから、河神かしんであられます金鱗様には、皇后様の気配を微かに、感じられておられた様でございます……」


「……それは何より。高々の我らではございますが、拘りや縛りなどを無くし、共に一心に祈れば成せる事もあるというもの……」


 お師匠様はそれは、安堵の色を浮かべて言われる。


「皇后様が仰られるには、貝耀様の特別なる力を、是非とも主上様にお使い頂きたく、上手く育てるようにとの事でございます」


 朱明が神妙に言うと、お師匠のみならず貝耀が唖然としている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る