十八巻

第179話

 あの不思議な感覚は何だろう?

 ずっと朱明は考えている……。

 禁庭の儀式での、得も知れないあの感覚……。

 最初天の大神、瑞獣のお妃様、そしてお妃様がお仕えする大神に、畏敬の念と敬意を込め鈴を鳴らして祝詞を唱えた。

 ……だが、いつからだろう、意識が何処かに飛んだ気がした瞬間からの記憶が無く、何かに導かれる様に舞い鈴を鳴らした。

 天を仰ぎ、その高く青い空を覚えている。白い雲が浮いて流れ行くのを、脳裏に焼き付けている。

 煌々と眩ゆい、金色こんじきの輝く光を覚えている。その先に今上帝が座す事を確信して睨め付けた。

 次から次と体が動き、言葉が溢れ出たがその言葉は覚えていない。

 ただ大神を、讃える言葉だった様な気がする……。

 その大神を崇め讃える言葉……。

 だがそれをはっきりと覚えているのは、ほんのいっときだ。あとは自分の意識は何処かに行っていた。

 何処に行ってしまったのか?

 幾ら考えても解らない。


 朱明は貝耀と共に、天狗山のお師匠様のボロ寺にやって来て、住居の円座に座してぼんやりと思いを巡らせている。

 貝耀がいようは手筈とは全く異なった行動をとる朱明を、ただ怪訝に見つめながら経を唱えていた。

 すると朱明が、恐ろしい程に舞う様に動いていた体を、ピタリと止めて立ち止まり、まるで自身の意識とは無関係に、天から持ち上げられた指先を掴まれ引っ張っられる様な格好をとり、余りにおかしな格好だった為に、その姿に釘付けとなった瞬間に、天から雷が朱明の引っ張られている、その指先に振り落とされた様に見えた。すると朱明は意識の無いままにクルクルと回り、その意識を失した眼をカッと見開くと、貝耀としっかり視線を合わせて、雷が落ちた指先を擡げて貝耀に向けた。と思った瞬間に貝耀は、反対側の寝殿からそれは恐ろしい視線を身に受けてすくんだ、金色の輝く光が孤を描いて天を回っている。

 あの法皇が身に受けて救ってくれた……だ……

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