第162話

 つまり一番御頼りになりたいその部分に、伊織は御側にはべる事が許されないのだ。


「……して?真実そなた、できるのか?」


 伊織は苦しげに聞いた。

 すると朱明は、案の定の表情を浮かべる。


「……自身はないか……」


「有りませぬ……有りませぬが、それでも成さねばなりませぬ」


 朱明の表情が、一瞬にして変わった。

 その変化を伊織は、決して見逃さない。

 伊織は、フッと視線を落として口元を歪めた。


「……ならばそなたに、賭けるしかあるまい?」


「は?」


「私はは、如何様とも致せぬ……ゆえに全てを、そなたに預けるしかあるまい?」


「有り難きお言葉……」


 朱明が恐縮したりで言った。


「……否……主上におかれましては、が全ての御苦悩であられる。御母君様をみまかられたも法皇様との行き違いも、皇后様を失せられたも……全ての御苦悩がに在る……だが不甲斐ないかな、私はには無縁の者だ。ゆえに伝説のお妃様はそなたを選ばれた。そなたは主上と御同様だからだ……」


 伊織が微かに、自嘲の笑みを浮かべて言った。


「はい。私は父同様に、それ故にかのお方様と関わりを頂きました」


 すると伊織は、見せた事も無い悲哀を見せる。


「金鱗様は、神は全てを見通して動かされると、そう言われます。ゆえに私も父も関わりを頂きました……そしてそれは、主上様の側近中の側近であられる伊織様とて例外に非ず……」


 朱明は眼を見張る程に、凛とした様子を見せる。


「主上様において、必要不可欠なる存在として、伊織様は御誕生の砌より、御関係をお許し頂いておられます」


「はっ……私など、青龍すら信じぬ者であるのだぞ?」


「ゆえに貴方様がお側に……」


「陰陽助よ……」


「伊織様、主上様が大青龍をお抱きであられる以上、我らは全て駒でございます。天意を通す駒……誰一人として、欠ける事はございませぬ」

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