第163話

何方どなたの天意かは、高々の私には解るはずもございませぬ。ただ理解致したは、その天意を全う致すが為、我らは主上様と関わりを持つを、お許し頂いておるのでございます。私が成せればそれは天意のひとつ。成せねば探さねばなりませぬ。そして必ずや、意に沿わねばなりませぬ。その為の駒でございます。私や主上様とは異なるをお持ちの、貴方様をも使って、必ずや成し遂げる天意でございます」


 伊織は凛とした朱明を、眼を見張る思いで正視した。


 ……まさか、コヤツに慰められるとは……


 そう思って、一瞬卑下した自身に恥じた。

 そうだ。コイツはゆえに、永きに渡り特権を与えられた。しかしながらに行ったままの者達に、大事な今上帝を任せるわけにはいかない。

 そうだ。今上帝は如何なる事があろうとも、の者であって頂かねばならない。

 第六感だの呪術だの神仏頼りで、今生を統べられては堪らない。あってはならない事だ。この稀有なる国の尊い大地に、シカと足を付けて立って頂かねばならないお方だ。そしてその傍らには、この伊織しか立つ事は無いお方だ。なぜなら幼き頃からの兄弟の情で、正しき道を示せるは乳母子の自分で、それをお聞き届け頂ける存在は、自分しかないからだ。


「……そなたに慰められ様とは……」


「伊織様。今現在私のみならず、貴方様も不思議なに関わっておられます、これは有り難き事……尊いもの達と関わりあえるは……」


「陰陽助。確かに有り難きかな関わっておるが、私はを有り難く頂く者ではない。関わりあうは主上の御為……主上が抱きし青龍ゆえだ……そなたの言うが通り、主上におかされます天意の為ならば、この身とて命とて差し出す。ゆえに上手く使うてくれよ」


 伊織はそう言うと、ますます凛として見せる朱明に微笑みを向ける。


「……だがそれは、主上ゆえのみにしてくれ……青龍の為とか神仏の為ならば願い下げだ」

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