第106話

「麒麟?未だに大神様は、麒麟でございますか?……真実まこと大神様はお好きでございますな?して如何してでございます?」


 碧雅は行儀悪く、口に目一杯頬張った飯を飛ばして聞いた。


「……そなたが不憫ゆえ、神と致してもらうのやもしれぬ」


 次兄は神妙に言う。


「……女神でございますか?」


 モゴモゴと口を動かしながらも、満更ではない表情で言う処は、とても二児の母親には見えない。

 次兄は何時迄も愛らしい妹を、微笑ましく見つめる。


「……当然ながらも、大層な騒ぎとなっておろう?早く回復致して戻るがよい」


「……さようでございますが……」


 碧雅は再び飯を頬張ると、再びモゴモゴと言う。


「如何致した?なんとも……らしからぬ……」


 すると碧雅は、手にしていた箸を卓上に置いて、それは現世では偉大なる次兄を睨め付けた。


「お次兄あに君様は一度たりとて、お長兄あに君様以外を、欲した事などありませぬ……それをあのは……生力だけのものを召そうと致しました」


「その確証ある物言いは、如何してだ?そなたはずっと、仮死状態であったのだぞ?」


「こちらに戻りまして、気懸りゆえに神泉を覗きに参りました」


 神泉とは神山に在る、それは神聖なる水を湧かせる泉で、その泉を覗くと覗いた者の見たい今時ときの見たい映像が、その泉に映し出される、それは有り難くも、面倒事を起こすきっかけとなる泉である。知らなければ丸く収まっているものを、やたらと映し出すから、此処神山に住む神使や精霊達の間でも、面倒な事に多々となるのだ。そして人間がその泉に落ちると、泉に呑み込まれて、むくろさえも浮かんで来ないと言い伝えられているが、人間以外のもの達は、そこで泳いだりして楽しんでいる泉だ。


は乳母子の伊織が、后妃を宮中から出した事を、ネチネチと責めておりました……あの気の利いた伊織が居りませねば、うに后妃とねんごろと致しておりましょう……」


 それは、不機嫌極まりない言い方をする。


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