第107話

「それは青龍が欲したのであって、決して今上帝が欲したのでは無いと思うぞ?」


 次兄は素直過ぎる碧雅が可愛くもあり、らん族の執拗な一面を見て辟易とする。

 何せ愛しい伴侶の兄の朱麗は、鸞族の中では淡白と評判だが、それでも辟易とする処はあり、それが嬉しい処でもあり、厄介な処でもある事を、充分過ぎる程に知っているからだ。


「何を!同じ事にございます!!……青龍が欲したとかのたまいましても、今上帝の御身で事でございます。悦楽、快楽にございます」


 碧雅の怒りは収まらない。


「ならばお次兄あに君様は、お長兄あに君様が例の陰陽師とねんごろとなっても、御平気でございますか?」


「いやいや碧雅、それは全く違うであろう?」


「はぁ?同じでございます。私以外のものを欲するとは……言語道断……」


 ウルウルと瞳を潤ませる。


「あー解った解った……私が見る限りそなた程に愛らしい妻はおらぬ……そなたのそのトボケ振りは実に愛らしい」


「さようでございましょうや?」


 碧雅がそれは嬉しそうにする。


「朱がそなたを溺愛したゆえ、の特に愛らしい処が似たのであろう?」


「さ、さようでございましょうや?お長兄あに君様は、それは美しく何でも御できになられ、不出来な私とは大違いと思うておりましたが、さように愛らしい処が似ておりましょうや?」


 碧雅は有頂天になって言った。

 だって長兄君様の朱麗は、瑞獣一と誉れ高きお母君様のその美貌を、丸ごとソックリ受け継いだお方で、大神様よりその愛らしさゆえに、ご誕生のみぎりに神を許された程のお方で、ご誕生よりの神であるから、何でもこなされ何でも御できになられる、それは凄いお方なのだ。

 そんなお長兄君様を憧憬の念を持って育った、ちょっと年の離れた妹の碧雅は、お母君様というよりどちかというとお父君様似で、目の前に御いでのお次兄君様に似ている。

 決して不細工では無いし、それはイケてる整った顔立ちではある。

 顔立ちではあるものの、瑞獣一の誉れ高き美貌とは比にもなり様はずはない。

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