十巻

第104話

「碧雅よ。如何程喰らうつもりなのだ?稲荷大明神よりのおすそ分けの米を、平らげてしまう勢いであるぞ?」


「何を申されますお次兄あに君様、私は子を産み乳を与え、ちょっと弱っておりました所に、非道にも他国の呪を受け傷ついたのです。まずは神気を守り癒さねばと思い、深き眠りにつきました……ゆえにモウ!腹が減って腹が減って……」


 瑞獣の碧雅はそう次兄に真顔で言うと、てんこ盛りの飯を碗から掻き込む。


「……と申してもだな、如何して妙な大岩に籠って眠ったのだ?そなたの気配が消えて、大騒ぎとなったのだぞ?朱の教育係の眷属けんぞく神の銀悌の一部の孤銀が、巷で今上帝が妖狐の呪に眠らされ、その呪をかけたのが妖狐の皇后で、それを見破った陰陽師によって退治されたと噂になっている事を、銀悌に知らせて来たゆえ、聡い銀悌であるがゆえすぐ様、他国の皇帝の寵妃の妖狐が寵愛を欲しいままと致し、皇帝をそそのかし我が子を皇太子に据え、皇帝を弱らせ玉座を奪わんとして退治された噺を思い出し、碧雅が逃げた先のを付け、それらしき岩を総力をあげて探させ、体力を戻す為に仮死状態となって眠るそなたを見つけ出したのだぞ……」


 次兄が捲し立てる様に言って、呆れた様子で咽喉につかえながら食う碧雅を見ている。

 伊織の屋敷に落ちたいかづちと青い炎が、として民衆の間で、噂が広がっていたのが幸いした。

 何処の世界でも、こういった話しは面白おかしく、それは想像もつかぬ尾鰭がついて大きくなり、荒唐無稽な話しとなって、民衆を楽しませる娯楽へと変わって行く。それが宮中の事なら、なおさら皆んな大好物だ。

 碧雅は大飯を掻き込みながら聞いていたが、その手を止めて次兄あにをしみじみ見つめた。


「お次兄あに君様、は事もあろうか、私を他国の妖狐伝説になぞらえて、退致そうと致したのです……ゆえに私もそれにならい大岩に閉じ籠ったのです……妙案でございましたでしょう?」


 碧雅は、したり顔を作って言った。




 











 

 

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