第100話

 あの側に在るだけで恐ろしく、身も縮まる程の恐怖は半端ではなくて、そして何よりその背後に立ち上がる、眩いばかりの光の神々しさ、それが帯を作って天に昇る姿は龍が天に昇る姿を彷彿とさせる。そして天空で孤を描いて回る姿は、余りに崇高過ぎて、仏に仕えた事のある身ですら、あれ程の神々しさは知らないものだ。

 あれは真実龍だ……。それもかなり馬鹿デカイ大物だ。

 そしてそれ故の力の巨大さを伺わせ、それ故の恐れを与える……。

 そんな恐ろしいに、どんな事をされるのか?考えただけで全身が震えて止まらなくなる。

 今まで威勢のよかった貝輝がいようは、ちょっと身を縮めて黙った。


「ならば貝輝様、大鬼丸にお従いください」


 伊織がしたり顔で言うから、だから貝輝は反抗するべく体を動かした。すると


「伊織様……」


 声を震わせながら、一人の蔵人が伊織の名を呼んだ。

 見ると瞬時に、大鬼丸が姿を消した。

 どうやら蔵人は、今上帝の余りの恐ろしさに我を失して、大鬼丸の存在など目に入っていなかった様だ。まさか今上帝の恐ろしさが、こんな時に役立つとは、意外過ぎて唖然の朱明と伊織である。


「主上様が、御呼びにございます……」


 それを聞いた瞬間、貝輝は身を震わせてうずくまった。

 絶対鬼なんかに救われたくはないが、何せ体が動かない。


「解った只今参る……」


 そう蔵人に言い渡すと、伊織は貝輝の側に寄って


「直ぐさま大鬼丸と、御ねくださいませ……」


 言い残して、蔵人と後院の中に入って行った。


「朱明よ。我等もとっとと行くぞ。よいか?に聞かれたら、羅城門の大鬼にくれてやっと申すのだ……真実であるからな、ヤツは見抜けぬ」


 そう言うと大鬼丸は、縮こまって震える貝輝を、軽々と小脇に抱えて姿を消した。


 伊織は共に来た蔵人を、直ぐに今上帝の見えぬ所に行かせて、その焦げた塊の傍に腰を落としている今上帝の側に寄った。

 今上帝は真っ赤に泣き腫らした目を、天に向けて御いでになられる。

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