第78話

「朱明様我が国は、天が誕生致す大神が座し、八百万の神々様が座す、それは稀有なる国にございます。かのお方様方が座すという事は、魑魅魍魎ちみもうりょうも物の怪もあやかしも全ての異界の物達が、存在する国なのでございます。存在しておらねばならぬ国なのでございます。ゆえに調伏は未だしも、を退治致すという事は、いずれ神をも敵に回すという事となりましょう。また調伏致しものを使役致すだのは、余程のを持たぬ者は致せぬもの……そのような事が、かなうはずの無い国なのでございます。なぜなら、大神が座す国だからにございます……驕り高ぶり我らが現世の頂点に立ち、全ての物に害を与えれば、この国の均整が崩れ大地が穢れましょう、さすれば大神がを排しその地上を無と還されます。その許しを天より得しが、天が誕生致す大神様なのでございます……そしてその大地の穢れを大神様が量るが、この中津國の大地なのでございます」


 不思議なもの達が一同に言う……天が誕生させし大神の存在を、この高僧は知っている。それは不思議世界の天狗が、教えてくれる事なのだろうか……。


「私はそれ等を全て、弟子に伝え教えて参ります……貝耀がいようはそれを聞き入れず、他国で昨今流行っている、妖怪退治の呪術に傾倒し、私が教えた呪術とを合わせた呪術を作り上げました。それは私が許せる範疇ではあらず……破門致すを盾にとり、心を入れ替えさせようと致しましたが、反対にこの山を降りて行ってしまったのでございます」


「……して、何処に?何処に行ったかご存知で?」


 膝を詰める様に聞く朱明を、直視して高僧は


「それを聞かれて、如何致されるおつもりで?」


 と聞いた。


「命を……命を断ちます」


 すると僧侶は、顔容の色を変えて動きを止めた。


「今上帝様が、お望みなのです……」


「あれの御魂で、ございますか?」


 高僧は苦渋の表情を浮かべて聞く。


「いいえ。そのまま参れと……」


 重々しく言う朱明を、見つめて復唱した。


「……持って参れ?」

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