第77話

「母様はその後院で下働きをしており、上皇様の気紛れに慰み者となり、生を得た者でございますが……今の法皇様ではございませず……言うなれば、法皇様の腹方違いと申すか……母様はあれがまだ幼き頃に亡くなりまして、寺に入れられましたが……実に不思議な力を持つ者ゆえ、そこの高僧より私が預かり教えを……。私は元々、その高僧とは同朋の、共に修行を致した身でございましたが、他国に憧憬致し教えを受けに参りまして、其方の教えと共に呪術をも得て帰国致しましたが、この国特有の他国とは比べられぬ尊きものの存在に、ある悟りを得たのでございます。我が国には決して他国には存在しない、天が誕生致す大神が座します。ゆえに全てにおいて、他国とは同じにならぬのでございます。この国はこの国の天理がございます。大国など、どんなに手に入れ様と致しても、決して手に入れられぬ国なのです。なぜなら大神が座すゆえ、在り方によっては、全てが無と化すからにございます。ゆえにこの国のもの全てが、八百万の神々に護られ、他国に比べれば飢餓も疫病も少ない、それは生きやすく住みやすい幸せな国なのでございます。

 私はそれを他国に行くまで、知ろうとしなかった……知って帰って来たからには、弟子達にそれを伝えて参らねばならぬ……それを使命として生きて参りましたが、他国の華々しき物の怪退治に、興を示す若者達が増えておるは確かな事。貝耀がいようもしかり……他国のに傾倒致して参りました。神座かみくら様……」


「あ……朱明でございます。安倍朱明……陰陽寮に仕えております」


「ああ……さようでございましたなぁ……神座様はかの昔、かの親王様が神楽の君様と大神様に呼ばれておられたので、天狗様がその親王様がお護りする貴方様に付けられた呼び名でございます」


 朱明は初めて聞く親王様の呼び名に、感慨深く感じ入った。

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