第75話

 山の奥に小さな寺が在った。

 ……といっても、廃寺となった物を修復して使っている様な有様だ。

 朱明と孤銀が、その寺の修行僧二人に連れて来られると、門前に高僧が待ちびる様に佇んでいた。


「よくぞお越しに……神座かみくら様」


 年老いた高僧はそう言うと、重々しく頭を下げたので、果たして自分がなのか確信を持っていない朱明が、同じ様に頭を下げた。


「……その神座様、というのは、如何と考えましても身に覚えが……」


「なる程、此処の親しき天狗様がその様に申されましたゆえ、ままを弟子に伝えました。申し訳ございませぬ……」


 高僧はそう言うと、朱明と孤銀を促して寺の中に入って行く。


「此処に座します天狗様と、かつての親王様がお親しく、その親王様が唯一ご信頼致し陰陽師がおられたとか?」


 高僧は住居となっている荒屋あばらやに朱明と孤銀を連れ行くと、円座を置いた所に二人を座らせその上座に座した。


「かの昔、我が一族の祖先なる正二位と呼ばれし者が、あの聖代視されておいでの、兄宮様の親王様にご寵愛頂いたとか……」


「おお!その親王様でございます。大神様よりの、平安なる治世のお慶びの遣いの瑞獣お妃様を母とされ、ご誕生のみぎりに神をお許し頂きし親王様で、その稀なるお美しさとご神力の為、人との関わりを断たれてお育ちゆえに、不思議なもの達との親交が厚かったが為、此処の天狗様とも旧知の仲でございますとか?」


 高僧が和かに言うものだから、朱明はジッと聞き入った。


「先々日、その天狗様に大鬼の大鬼丸殿から、その親王様が護りを与えしお方がお出でになられる旨をお知らせ頂いたゆえ、そのお方の役に立つ様頼まれましてな……」


「大鬼丸でございますか?」


「さよう……大鬼丸殿は、此処の天狗様とも旧知の仲でございます。そして私はその天狗様とは今生の友でございますゆえ、天狗様のご意向は叶えとう存じます」


 優し気な物言いに鋭い眼光を光らせて、高僧は言った。

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