第25話


 こんな事はあり得ない事だ。

 宮中には大勢の人間が働いているから、普段ならばこんなに静寂とした状況は有り得ない。

 官人達の声や音や衣擦れの音や……。宮中から庭から何処からともなく、人々の気配がするものだが、今日は全くがしない。

 ただこうなれば、不気味としか思えなくなる読経しか響いていなくて、その読経が無変化に唱えられていて不気味だ。

 これでは全く宮中の事が解らないので、典侍の母は内侍司へ行って頂いた。


 伊織の感ずる処の、異様な雰囲気なのは此処だけなのか、はたまた宮中全体の事なのか、それを知りたいから最も信頼のおける母に、探索に行ってもらったというのが本当の処だ。

 母と伊織は似た者同士だから、伊織の意図する事は理解してくれる。

 母似の聡くちょっと小賢こざかしい処が、母には手に取るように解る様だ。

 気になる処も同じだから、きっと伊織の違和感は、にも違和感に違いないだろう。

 伊織が催促する前に、自ら用事でも思い出した様に、内侍司ないしのつかさへ赴いて行かれた。

 その為に先からの蔵人と皇子の乳母が、御子様をお護りする様に、とにかく今上帝の御側にはべっている。


「内親王様……」


 乳母が内親王が眠たそうにしたので、座っている畳の上で膝枕をした。

 しかしこんな状況でありながら、新生児の皇子はすやすやと、乳母の隣に敷いた畳の上の褥で眠っているし、内親王まで乳母の膝枕でうつらうつらとしている。


 ……なんとあの瑞獣の御子様方よ……


 と、伊織は関心しきりだ。


 そんな様子もあいまって、何とも言えずに静かだ……。

 読経はひたすら煩いが、そういう意味ではなくて、宮中が不気味な程に静けさを漂わせている。

 こんな宮中は、長年仕えているが初めてだ。

 ただ忙しさに知らなかっただけなのか、やはり今日がおかしいのか……。

 はたまた伊織が不安を抱えているから、そう感じるのか……。

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