第33話

「青龍を、封じられるものなのか?眠らされておられるならば、いずれ目覚められるか?」


「伊織様……眠っておられれば、いずれ目覚められる以前に、体が弱って参ります」


「ならば」


 伊織が慌てて身を動かした。


「第一青龍を封じる呪など、我らに施せるはずはございませぬ。問題は青龍が易々と、主上様が御弱りになられるを、放っておかぬという事にございます。青龍は力を、恐ろしい程に欲するとか?眠り続ける主上様を護り続ければ、いずれ青龍とて力が尽きますゆえ、それを許すはずもございませぬ」


 伊織は身を動かしたままの格好で、陰陽頭の話しからある思いが頭を占める。

 今上帝を眠らせて、自分の孫を東宮にしようとしたのは誰だ?

 それは、東宮が決まるまでの処置か?

 東宮がその者の意のままに決まれば、今上帝は廃されるのか害されるのか?

 ……今上帝はその者には、至極邪魔な存在だ。

 つまり……害する呪をかけられているという事か……


「ところで安倍朱明は?」


「今日はにて、参内致しておりませぬ」


「さようか?ならばそなた、この呪を解けるか?」


「尽力致します……が、その前に青龍が動きかねませぬ……」


「青龍の事を、真に存じておるはそなただけか?」


「主上様の青龍の事をここまで知るは、叔父の陰陽頭から聞いた私だけと存じます……そしてその私とて、まことに信じておった事柄ではございませぬ……こうして主上に御目通り致さねば、叔父の死の真実を疑ったままでございましたでしょう……」


 陰陽頭が神妙に伊織を直視して言ったので、伊織は頷くと御帳台の側で立ち上がった。


「そなたは、主上の呪を解くに専念せよ。此処がよいのなら此処に居ても構わぬ」


「……まずは陰陽寮に戻りまして……」


「あい解った。疾くと致せ」


「は……」


 陰陽頭は大きく頭を垂れて返事をすると、直ぐに立ち上がって御寝所を後にした。その様子を見届けた伊織は、殿上の間で休む蔵人達を呼んだ。


「……どうしても屋敷に、戻らねばならなくなった……そなた達は命に代えても、此処と御子様方をお守り致するのだ」

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