第32話

「未だ御子様は御小さく、青龍も力を解放致す事はかないませぬ、が、護る力はあるのです。ずっとかのお方が宿り主を害そうと致さば、大きく御成りの御子様と共に青龍の力も大きくなります、いずれかのお方は、青龍に報復致されましょう?それを避ける為にも、かのお方に青龍の真の恐ろしさを、御見せするしか術はなく、陰陽頭は我が身を犠牲としたのです。放たれた術は陰陽頭に返り、陰陽頭は亡くなりそれを知られたかのお方は、御子様を害する事を諦められ、丁度その頃里に下がる事とされた中宮様に、お許しを出されたので、その後我らに命は下されませんでしたので、再び御望みになられたか否かは存じませぬ」


「……その陰陽頭の一族は?」


「当時の主上様が哀れと思し召され、陰陽寮で勤めさせて頂いております……私も一族の一人でございますが、とは少し異なる家系ではございます」


 伊織はジッと、陰陽頭を見つめた。


「世間では我が一族を有名陰陽師と呼び、を正二位と呼んでおります……」


「安倍朱明か?」


「はい。の父は、母方の叔父に当たります。そしての家系には珍しく、我が家系同等……それ以上のを持っておりましたゆえ、当時の主上……法皇様に寵愛頂いたのでございます……そして伊織様。主上様には、その青龍が抱かれております。易々と策にはまり、この様な状況に陥る事はございませぬ。ゆえに当初は、御眠り頂く薬を与えられたかと……」


「しかし侍医は……」


 言いかけて伊織は、言葉を失った。


「……医師が疑わしいかと……」


陰陽頭は、声をひそめて伊織を見る。


「しかし主上が御眠りとて、青龍は……」


「余程に強く、意識の混沌とする物かと……。しかしながら、青龍の力は然程の程度の物ではございませぬ……時を経て今度は邪道なる呪を放ち、主上様を眠らせ青龍を、封じておるのやもしれませぬ」

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