第28話

「陰陽寮の陰陽頭おんようのかみを呼んで参れ」


 伊織は御子様方に付き添っている、先程からの蔵人に言い渡した。


「陰陽頭をに、でございますか?しかしながら此処は……」


 蔵人は躊躇する。


「主上が座す清涼殿、それもご寝所の夜御殿よるのおとどであるが構い無し。く連れて参れ」


 伊織は、神妙な面持ちで言った。

 今は摂政と左大臣間で、どちらの孫を東宮とするかで揉めているから、今上帝の意向をよく知る伊織は、蚊帳の外に追いやられている。

 伊織の言葉=今上帝の御心=宣旨と、なりかねないからだ。

 今上帝がこのままの御状態と相なれば、法皇が出張って参られるは、誰の目にも確かな事だ。

 そうなれば相性が悪い摂政は、廃されるは目に見えている。

 逆に左大臣には好都合だ。

 だが二人の重臣にとって共通の問題なのが、皇后となる瑞獣の皇子だ。

 ご誕生と同時に皇后に御決めになられ、あとは手順を踏むだけの、儀礼的な事だけだ……つまりその御子を東宮とお考えであられたと、誰もが思っても仕方のない事だから、上手く禍根を残さぬ為にも、御子様は存在しない方向に持って行きたい。

 ゆえに……狙うは皇子……と皇后に言わしめた。

 そして、かのお妃様の御子様は神となられた。

 つまり膨大な力を、保持しているという事だ。

 巨大青龍の脅威が失くなったとしても、同じ様な力を持つ天子がこの国を統べる事となる。

 つまり欲深い重臣には脅威となる。

 決して重臣達の意など通る事の無い、政治が始まるという事だ。

そんな事は露とも知らぬお二方だが、それでも何かを感じるのか?

 未だ産まれたばかりで力の無い内に……。

 邪な考えを起こした処で、仕方のない事だ。

 だから伊織は考える。


 ……御子様方だけは、お護り致さなければならない……


 と気が焦る。


 今上帝は、とにかく静かに眠っている。

 息をして御いでではないのやも?と伊織が不安になり、その息づかいを確認する程に、に御眠りだ。

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