第27話

 そんな現関白の孫となる親王が、法皇が出張って来られれば、東宮になれるはずは無い。

 ならば弟の左大臣は?

 二番目ともなればそつの無い切れ者だが、それでも故関白の比では無い。

 それ程までに故関白は、法皇とは気が合っていた。否、見ている先が一緒だったのだろう。だから法皇はその関白の忘れ形見の中宮を、大事に育てそして我が子を裏切る程に愛したのだ。

 ……その関白の足元にも及ばぬ相手だが、嫌いな現関白よりもは良しと判断される筈だ。つまりは左大臣が先の摂政か……。

 それにもし、今上帝の時と同様に並び立つとしたら、左大臣の方が遺恨が無い分扱い易い。つまり法皇の時代が来るという事だ。


「東宮は決まりだ……現時点で騒いでいても仕方ない」


 伊織は、傍に侍る蔵人に呟いた。

 ……しかし、今上帝はどうするおつもりであったのだろうか?

 やはり皇后とするのだから、寵妃の皇子を東宮に?

 ……それはできぬ、しない……と御言いであられたが、御心の奥底にはその未練は御有りになられた。だから東宮を、決められなかったのだ。

 まだまだお若いし、お決めになられる必要はない。

 再三現関白からはアプローチは御有りだったものの、現にこんな事となったのは、今上帝がどうしても寵妃の御子様への未練を、捨てられなかったからで、親王御二方への愛情とか技量云々の問題ではない。

 そしてそれをずっと気にしていたのが、親王達の外戚だったという事だ。

 つまり今上帝には、同じ自分の血を流す親王御二方に、愛情など存在しないという事で、それはかの法皇の血が濃く流れているという事だ。

 かのお方も決して我が子の今上帝に、愛情をお持ちでは無かった。

 ただ一つ違うのは、今上帝は最愛なるものの子を愛し、法皇は最愛なるものの子を愛せないという事だ。

 そしてその御苦しみの中で御育ちでありながら、今上帝は我が子にその苦痛を御与えになっておられる。

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