第19話

「何だ?」


「……寵妃の……それもが、お産みになられた皇子様でございます。如何様に我が国の天子のご生母様の出自が、身分の高い女御様であるべきと言われておりましょうとも、今上帝様の御心一つで決まるは必定にございます。最も御寵愛のお方様の御子様こそが、東宮となり天子となり得ます。特に今上帝様は、青龍を抱きし天子にあらせられます。瑞獣様の出自が問題とならずに、皇后様とおなりとなられれば……つまり現在いま一番に東宮様に御近いお方は、今上帝様が最も御寵愛されし、瑞獣様のお産みになられました親王様でございます」


 朱明が畏まって言うと、金鱗は唖然とした様に朱明を見た。


「何を言う?我らは縛りが無いゆえ、人間とも交じり合うは可能だし、相手が望まば婚儀も致せるが、高貴な者との子は、その地位を受け継ぐ事ができぬ掟だぞ?」


「えっ?如何してでございます?」


「我らの力は偉大だ。その力を受け継ぐ子は、現世で覇王となり得るからだ……それは瑞獣鸞とて同様のはずだぞ……」


 金鱗は無知な朱明に、噛み締める様に言った。


「その様な事……」


「知らぬか?ゆえにこの状況か?……いいか?かつてのお妃もその為に、そうそうに当時の今上帝を退位させ、さっさと摂政の甥に譲位させて後院に引いた。その時、子の朱を連れて下がり、長男である朱に全てを捨てさせたのだ。そして人間とは関わりを持たせなかった。欲深い輩が朱を巻き込んで、邪な事を考えてはならぬからだ。まっ、あれ程の美貌であったゆえ、そうして育てたが正解であったがな……結局即位した弟帝は、朱を一目で見初め恋をした。何処ぞの物語さながらの、恋多き男達の競い合いとなっておろうからな……当の朱はそっちの方は、うぶ過ぎて疎過ぎたが……つまりは、碧雅は狙われたと言う事か……」


 金鱗は呆然として頭を抱えた。





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