第18話

「それは……」


 朱明は、物凄く厭な感覚に襲われた。だから思わず顔が強張るのが解った。


「主上様も急に謁見の最中に、お倒れになられたとお聞きします ……」


「何と?それは……」


 金鱗は尚一層、顔色を変えて朱明を直視した。


「朱明よ……碧雅と今上帝が同時に……とはおかしかろう?」


「はい……それは厭な感じが致します」


 朱明は神妙に答える。

 だから余計に金鱗は、真顔を作って朱明を見つめた。


「それが今上帝の、権力を奪おうと致す輩であらば、大青龍は目覚めるぞ」


「え?しかし……」


 朱明が動揺を見せたので、金鱗は真顔を崩さずに続ける。


「……よいか?幾度も申しておるが、今上帝は青龍に護られておるのだ、高々の事では倒れる事はない……果たして如何様なる塩梅であるかだが……仕組まれた事であらば、青龍は目覚める……そして現在いま、碧雅の気配が無い状態であらば 、その龍を抑える事はできぬぞ」


「まさか?……まさか……仕組まれた事だと?何の為にございます?」


「そこだ、考えられるは何だ?」


「まずは……まずは主上様の御命?」


「今上帝がいなくなって、徳をするは誰だ?」


「……その様な事……未だに東宮は立っておらず……」


 朱明は金鱗を正視した。


「関白様か左大臣様?……しかし東宮様となりうるお方は、お二人でございます。主上様が亡くなられては……」


「……ふん。東宮争い……否、幼帝を担いでの政権争いか?」


「……それは……」


 朱明は思考をフル回転させる。

 今上帝がみまかられれば、東宮の祖父が後見となる例は多い。

 特にお二人共身分が高いお方達だ、何方どちらが摂取となったとしてもおかしくはない。


「ならば?」


 金鱗が眼光を鋭くして再び聞く。


「ならば……ならば……」


 朱明は言葉を呑み込んだ。


現在いまの宮中で、一番問題なのは……」


 言えば恐ろしい事になりそうだ。そう思って言葉にできない。

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